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USB活用で患者情報をいつでもどこでも参照可能に

公開日時 2016/04/30 00:00

マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

倉敷中央病院 水平連携実現目指す

 

佐藤 正晃 氏
MC3.0研究所
主宰
藤川 敏行 氏
公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院
情報システム部 副部長

地域医療の先進地域として知られる岡山県倉敷市。公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構は、地域の急性期医療を支える中核病院として、2000年代初頭からITを活用した連携システム構築にも注力してきた。さらに、USBの活用などで、患者自身が医療情報を管理。いつでも、どこでも必要なときに医療情報を参照できるシステム構築を目指している。倉敷中央病院の取り組みを聞いた。

 

 

佐藤 倉敷中央病院がITを活用して取り組む地域医療の現状を教えてください。

 

藤川 倉敷中央病院は、地域の急性期医療を支える病院です。倉敷紡績株式会社が創立し、大正12年に開院し、今年で開院から94年目を迎えました。地域医療連携への取り組みは比較的早く、ITを活用した連携も2000年代初頭から始めました。

 

最初に手掛けたのは、脳外科医のいない医療機関と連携し、画像を転送するシステムの構築です。脳卒中などを遠隔で画像を読影、診断する支援を行います。2000年からスタートさせ、いまも20医療機関と連携しています。

 

2007年には、画像の読影機能のほか、空床情報を共有する地域連携ポータルを構築しました。病院の機能分化が進む中で、急性期病院は回復期病院と連携することが求められています。しかし、大腿骨頸部骨折や脳卒中の地域連携パスをみても、電子カルテと連携していないので二重入力になっていました。こうした状況を改善し、共有する必要のある最低限の情報について、インターネットを介して共有する仕組みを構築しました。

 

佐藤 2000年に経済産業省の電子カルテ事業もスタートしましたが、地域医療連携への取り組みは全国的に見ても先駆けた取り組みでしたね。

 

藤川 情報システムを活用して地域連携に役立てることを考えました。地域医療を支える上でITは、欠かせないツールだと考えています。例えば、画像の転送の問題があります。患者が来院してから画像の撮影を行うのでは、早期診断、治療が求められる脳卒中では、手遅れになる可能性もあります。当院の医師も転送された画像を用いて診断した後に患者を受け入れるのであれば、手術室もいち早く準備できます。

 

一方で、治療が必要かどうかを見極めることもできます。来院する必要のない患者さんが県北から半日、一日かけて来ていたケースもありましたが、そういう状況も改善します。地域連携ポータルは、マイクロソフト社のSharePointを活用した院内での情報共有を地域に拡大した形です。今後どういう病院を目指すのか、それに合わせたシステム構築を日々試行錯誤しています。

 

佐藤 院内のシステムにも力をいれていますよね。

 

藤川 パソコンは院内に3000台ほどあります。電子カルテやインターネットなど、すべて同じ構成となっています。インターネットにつながっていますので、危機感を持ちながらセキュリティー対策を行っています。ただ、インターネットがなければ医師の業務も成り立たない時代に入っています。インターネットだけを行える端末を増やすことは現実的ではなかったので、こうした体制にしました。

 

情報システム部には17人が在籍しており、クライアント管理、電子カルテの管理、地域連携などは、ベンダーではなく院内の情報システム部で行っています。

 

今年も新入職員の医師70人に対して、研修を行っています。院内のコンピュータートレーニンググループに端末を30台入れ、半日かけ、処方オーダーの研修などを行っています。

 

 

 

人とネットワーク活用した“水平連携”を実施

 

佐藤 倉敷中央病院のある二次医療圏である県南西部医療圏はどんな地域ですか?

 

藤川 県南西部医療圏には、1000床を超える大病院が川崎医科大学附属病院と倉敷中央病院の2病院があります。中小の急性期病院もありますが、連携先として回復期などの役割を担ってくれる医療機関が数多くあり、機能分担が比較的進んでいる地域だと思います。人やITのネットワークを活用して地域医療を推進できる“水平連携”を目指しています。岡山大学病院のある県南東部医療圏では、大学病院を中心に垂直的に医療機関が統合されていますね。

 

佐藤 円滑な病病連携、病診連携を構築する上でのITをどのように活用していますか?

 

藤川 2013年から岡山県では、「晴れやかネット」という医療情報を共有するネットワークを構築しています。カルテを開示している医療機関は51施設、閲覧施設は432施設という全国的にも大規模なネットワークです。医師だけでなく、薬剤師も活用しており、病院と薬局との連携の中でも活用されています。

 

岡山県の開示件数の約半分は、当院によるものです。晴れやかネットを診療所の医師に活用してもらうことで、病診連携がうまく構築していければと思います。晴れやかネットは、もともと医師同士の情報共有を目的としてスタートした経緯があり、開示先が医師個人となっています。いま施設単位に切り替えようとしているところですが、実現にはまだ時間がかかりそうです。

 

当院では、実は晴れやかネットよりも先に、病病連携を視野に入れた「マイカルテシステム」というシステムの導入を進めています。患者さんに直接医療情報を開示しようということから、“マイカルテ”という名称を付けました。システムは、Share Point上にあり、患者さんからの同意をいただいた上で、地域連携ポータルの中で病院ごとに開示しています。当院のある県南西部医療圏の10施設程度の医療機関と連携しています。病院ごとに開示するため、医師だけでなく薬剤師や看護師、栄養士など多職種が必要な情報を閲覧することができます。

 

 

 

USB活用で高齢者の活用、メリットも多く

 

佐藤 何か新たに取り組まれていることはありますか?

 

藤川 インターネットを介した患者情報の共有は、個人情報保護の観点などから、患者の同意取得をする必要があり、煩雑さがあります。そこで、マイカルテシステムをさらに発展させ、昨年12月から、USBメモリーを活用した試みをスタートさせました。病院のネットワークに接続し、患者情報を取得することを可能にし、患者さん自身に医療情報を管理してもらうのが特徴です。セキュリティーの観点から、パスワードの設定やSS-MIX(医療情報データ)を暗号化しており、閲覧にはJAVAのランタイムをインストールすることが必要です。ただ、このシステムを活用することで、自宅や診療所、さらには旅行で北海道にいっただときにも患者情報を閲覧することが可能になります。この情報は、本来患者さんのものですから、患者さん個人が管理していただくことを前提にすれば、医療従事者にとっては、患者さんの同意取得などの煩雑さも軽減します。

 

現在は、当院の情報しか書き出せませんが、このシステムを近隣の医療機関に導入いただければ、医療IDとは関係なく名寄せを行うことも可能です。病院を跨って情報を共有することもでき、より水平型統合に近づくのではないかと考えています。

 

佐藤 画期的なシステムですね。大がかりなシステムなんでしょうか。

 

藤川 SS-MIXを導入していることが必要ですが、晴れやかネットに加入し医療情報を公開している医療機関では導入することは可能です。今後、このシステムについては周辺医療機関に周知していきたいと考えています。まだスタートしたばかりなので、200人程度の患者さんが活用しています。高齢者が多く活用されているのも特徴的ですね。

 

人間ドックなど健診を受診される方への周知にも力を入れたいと考えています。健診を受けられる方は自分の医療情報に興味のある方が多い。検査結果は紙ベースで提供されますが、電子データでもらえないか、という問い合わせも多いんです。

 

佐藤 色々なPHRがある中で、USBを活用された方法を選択されたんですか?

 

藤川 費用的に安価なことが大きいですね。将来的には、画像情報も書き出せるようにしたいと考えています。スマホの活用などもありますが、入手のしやすさや高齢者でも活用できることなどを考え、あえてローテクを選択しました。

 

 

 

地域共同利用型PACS構築も構想段階

 

佐藤 そのほか、何かお考えのことはありますか?

 

藤川 まだ構想段階ですが、地域共同利用型のPACS(医療画像用管理システム)を構築したいと考えています。施設間での画像情報のやり取りは、DVDに情報を落とさなければなりません。参照するときもDVDを開かなければ見ることができず、手間がかかります。

 

そこで、当院がストレージをデータセンター上におき、各医療機関からデータをあげていただき、マルチテナントのような形で管理し、患者さんを紹介した場合に参照できるような形にできればと考えています。これにより、各医療機関のPACSを縮小することも可能になります。PIXのようなシステムを入れて名寄せも実現したいですね。

 

バックアップを当院で取るとともに、データセンターを沖縄に置くことなどで、障害があっても参照できるよう対策もとれます。連携が促進されるということであれば、コスト的にもベンダーが提供するよりぐっと抑えた安価で提供したいと考えています。倉敷地域を中心に、照会が多い医療機関との間でシステムを構築できたらいいですね。

 

佐藤 製薬企業は、情報システム部を情報提供などで訪問されますか?

 

藤川 製薬企業とのお付き合いはあまりないですね。

 

以前、院内に設置するプラズマディスプレイ(PDP)を提供していただき、その代わりに製薬企業の広告が流れるというお話をいただいたことがありました。しかし、広告を流す要求が強く、導入を見送ったことがあります。

 

MRさんも訪問されますが、廊下で立たれているケースなどもあり、患者さんから病院へのクレームは後を絶たないのが現状です。

 


マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃(一般社団法人医療産業イノベーション機構 主任研究員)

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