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塩野義製薬・手代木社長 JTグループの医薬事業買収で「グローバルでNo.1の低分子創薬力有する企業」に

公開日時 2025/05/08 06:30
塩野義製薬の手代木功代表取締役会長兼社長CEOは5月7日、日本たばこ産業(JT)グループ医薬事業の買収について記者会見に臨み、「グローバルでNo.1の低分子創薬力を有する製薬企業を目指す」と表明した。感染症領域を中心に低分子創薬に強みを有する同社だが、JTの培ったAI創薬プラットフォームの活用や、メディシナルケミストの経験・ノウハウなどを融合させることで、低分子創薬のプラットフォームを強化したい考え。免疫領域や腎領域への拡大も見据え、低分子の革新的新薬創出に向けてアクセルを踏む。手代木社長は、「JTと組むことで、さらに強力な我が国発の医薬品を世界に送ることができると思っている」と意気込んだ。

◎“自社創薬”にこだわるビジネスモデルを進化

「製薬企業の基本は自社創薬ではないか。自社創薬にとことんこだわったビジネスモデルをどう進化させたらいいだろうかということで、どんな会社と組ませていただければいいか、ずっと考えてきた」-。会見で、手代木社長はJTグループの医薬事業を総額約1600億円で買収するに至った経緯を振り返り、こう語った。

欧米メガファーマを中心に買収などイノベーションを外部から獲得することで成長を描くビジネスモデルが注目されるなかで、塩野義製薬は、あくまで自社の強みを深化させることで、“自社創薬”により成長する道を選んだ。自社創薬による製品を市場に送り出すことで、高い営業利益率を維持できるメリットもある。塩野義製薬の自社創薬比率は69%。「(自社創生比率が)5割を切ったことは過去十数年で一回もない」と胸を張る。このうち、低分子は約60%を占める。

「世界的にも低分子領域では世界のなかでも相当に強いと自負している」と手代木社長が話す、同社の強みである低分子創薬の強化を目指す。同社はゾフルーザやゾコーバに代表されるように感染症領域での低分子創薬で確立された強みを有している。一方で、「QOL疾患、睡眠やアレルギー、認知機能をやっているが、大成功を収めるというのには程遠い。この能力をどうしてもつけていきたいということで、模索してきた」という。

◎約200人体制のメディシナルケミスト揃える 感染症・中枢中心に免疫・腎領域にも拡大

免疫・炎症領域や腎領域、中枢領域に強みを有するJTグループとタッグを組むことは「相当理想に近い組み合わせ」と話す。手代木社長は、いわゆるQOL疾患の製品アセットを強化する考えを示し、「感染症、中枢神経系を中心に免疫、腎領域などを進めていきたい」と話す。“感染症一本足打法”から抜け出し、さらなる事業の安定化を目指す。

カギを握るのが人材だ。ただ、「世界的にみて低分子領域のメディシナルケミストはかなりの勢いで減っている」(手代木社長)状況にあり、採用のハードルも高いという。同社には「100人プラスα」おり、JTの約80人をあわせた約200人体制となることで、「全盛期のメディシナルケミストの数にもう一度戻らせていただくことができる」と説明。「最近、日本の創薬は元気がないのではないかと欧米の方から言われるが、そこに一矢を報いたい」とも語った。

◎AI創薬プラットフォームが高い評価に 開発スピード向上に期待 AI人材も

医薬品の開発スピードが上がるなかで、グローバルでの熾烈な開発競争に打ち勝つためには、開発のアーリーフェーズでのスピードがカギを握る。こうしたなかで、JTのAI創薬プラットフォームを活用したい考えだ。手代木社長は、「AI創薬プラットフォームは、正直に申し上げて私どもよりもはるかに上。私どもが見て、“すぐにでも一緒にやりたい”というほど。日本の中でもかなり進んでいるのではないかと、私どもも舌を巻いている」と話す。

JTの嶋吉耕史代表取締役副社長も、「創薬の基盤技術、なかでもAI創薬のプラットフォームに塩野義さんから高い評価をいただいた」と話す。メディシナルケミストの3分の1がすでにAI創薬を活用しており、シミュレーションやAIを使ってコンピュータ上で扱うドライ研究の段階から、細胞や生体分子などを実験室で扱うウエット研究を見据えて、AI創薬に取りかかっているという。「今後は、さらに臨床初期までを想定して、コンピュータでどこまでできるか、進化し続けているところ。これがうまくいくと、かなり開発スピードが上がり、さらに効率化が進むと期待している。塩野義製薬には、このケイパビリティをさらに進化させていただきたい」と話した。

◎営業活動でも新製品に注力でシナジー見込む 鳥居薬品の約230人体制「MR数は維持」

営業活動についてもシナジーを見込む。感染症領域に強みを有する塩野義製薬と皮膚科・小児科・耳鼻科領域に強みを有する鳥居薬品の強みを統合し、情報提供範囲を拡大したい考え。製品群が広がることで、よりニーズに応じた情報提供を実現できるとしている。同社の不眠症治療薬・クービビック、うつ病治療薬・ズラノロン、さらにはJTのアトピー性皮膚炎/尋常性乾癬治療薬・ブイタマーと注力すべき新製品がラインアップされている。鳥居薬品の約230人のMRを有するが、手代木社長は会見後に本誌に対し、「新製品がこれだけ入ってくるなかで、現段階ではMR数は維持、もしくは少し強化したい」と語った。

このほか、塩野義製薬の自社生産設備を活用することで、原価低減のメリットも期待される。手代木社長は、「製造のノウハウをすべて投下させていただくことで、グローバルサプライチェーンを強化すると同時に、原価についてももっと下げられるのはでないか」と期待感も示した。

◎JT・嶋吉副社長「JTの医薬事業とり医薬品双方の価値を生み出す」 従業員の雇用維持も

今回の決断について、JTの嶋吉耕史代表取締役副社長は、「近年、新薬創出のハードルが上昇している上、グローバルメガファーマを中心に、国際的な開発競争が激化していると認識している。そのため、当社グループの事業運営では、医薬事業の中長期的な成長が不透明な状況にある」と説明。「当社で様々な選択肢の検討を行った結果、これまで私たちが培ってきた創薬力をさらに発展させ、より多くの患者に医薬品を届けるためには、当社医薬事業と鳥居薬品双方の価値を生み出し、かつ新薬創出に重点を置く製薬企業の下で事業展開を行うことは最善の選択だと判断した」と述べた。「従業員については、雇用を維持したまま塩野義製薬に承継される。その後についても、出自にかかわらず、塩野義製薬のグループの一員として活躍できる形を合意できたことも、今回の取引に至った大きな要因」と話した。

「研究開発を担うJTの医薬事業と、販売プロモーションを担う鳥居薬品、この2つの価値を同時に認めてくれる」ことの重要性にも触れた。「バラでディールをしたいとおっしゃられても、その場合は、我々は首を縦に振りかねるというのが我々の正直なところ」とも語った。

◎鳥居薬品・近藤社長「現在の体制よりもより確実に事業を成長させることができる

鳥居薬品の近藤紳雅代表取締役社長は、「異なる強みの融合や、当社が塩野義グループのリソースを活用することで期待できるシナジー効果が、我々の現在の鳥居薬品のビジネスにとっても非常にポジティブなものであると考えた。現体制、つまりJTプラス鳥居という体制でこのまま事業を継続するよりも、より早く、より大きく、より確実に事業を成長させることができるのではないかというふうに考えられたということが最も大きな要因」と話した。

◎9月に鳥居薬品を完全子会社化 12月にJT医薬事業を吸収

塩野義製薬は5月8日から鳥居薬品に対する公開買付け(TOB)を6月18日まで実施。買い付け価格は5月2日の終値(5230円)に約2割上乗せした6350円。過去1か月の終値平均株価からは約4割のプレミアを乗せた。JTを除く少数株主を対象とし、買い付け総額は約807億円。TOB終了後にJTが持つ鳥居薬品の株を約700億円で取得し、9月に完全子会社化を目指す。JT医薬事業は会社分割し、事業承継の形で12月中に吸収する。米Akros Pharma社は、12月中にShionogi inc.の完全子会社とする。JTからは約670人が塩野義製薬に転籍する。鳥居薬品の従業員数は592人。

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