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エイズウイルス発見の真実

公開日時 2009/10/14 04:00

MRが科学者から学ぶこと

 MRが毎日接するのは科学の世界の住人であるドクターや薬剤師である。科学に関する書を繙き、科学の世界の実情を知り、優れた科学者たちの考え方を学ぶことによって、一回り大きなMRになることができる。

科学者の激烈な競争

 死に至る病と恐れられたエイズ。このエイズの原因となるウイルスを発見したのはアメリカの国立保健研究所のロバート・ギャロだと、世界中の人が思い込んでいた。
ところが、フランスのパストゥール研究所のリュック・モンタニエが、エイズウイルスを発見したのは自分たちだと異議を唱えたことから、事態が混沌としてくる。どちらがノーベル賞を獲得するのかという科学者としての名誉と、エイズ検査薬の特許料の問題が絡むために、アメリカとフランスとの国家間の紛争にまで発展してしまう。
1987年、当時のアメリカのレーガン大統領とフランスのシラク首相との間で、両者を発見者とするという異例の政治決着がなされ、一件落着かと思われた。しかし、1989年にアメリカの有力新聞、シカゴ・トリビューンの日曜版に掲載された「特別リポート・エイズ問題に関する大調査」が大きな反響を呼び、国際的な論争が再燃する。
このリポートは、ピュリツァー賞受賞者のジョン・クルードソン記者が5000ページを超す政府の公式記録の綿密な調査と、国内外の150名に上る研究者へのインタヴューを通じて、エイズウイルス発見の真実を忠実に再現しようと試みたものである。
このリポートによって、驚くべき事実が次々と明らかにされていく。一人の有力で威嚇的な科学者が1年以上も見当違いのウイルスを追いかけ、あげくの果てに、フランスの競争相手たちによって発見され数カ月前に分与してもらったウイルスと遺伝的に瓜二つのウイルスを、自ら発見したウイルスとして公表した経緯が容赦なく暴かれていく。実に、ギャロは3年間にわたり、エイズの病原体を最初に見出した栄誉をモンタニエから奪い取ることに全力を注いできたのである。
このリポートの全訳が『エイズ疑惑――「世紀の大発見」の内幕』(ジョン・クルードソン著、小野克彦訳、紀伊國屋書店)である。クルードソンの真相究明に対する執念がなかったならば、アメリカの医学界で絶大な権力を持つギャロとその周辺の科学者の信じられないような裏切りと欺瞞の事実は深い闇の底に沈んだままであったろう。巧妙に隠されていた事実が意外な展開を見せながら解明されていくので、上質な推理小説に劣らない醍醐味を味わうことができる。

科学者にとって一番大切なこと

 『精神と物質――分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』(立花隆・利根川進著、文春文庫)は、「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」によって1987年度ノーベル生理学・医学賞を単独受賞した利根川進に立花隆が20時間に及ぶインタヴューを敢行した記録である。この本の中で、立花の問いに対して、利根川は「サイエンスというのは、最初に発見した者だけが勝利者なんです。だから競争は激烈です」と答えている。
利根川は、科学者にとって一番大切なこととして、自分のテーマを見つけることと、観察と考察における集中力を挙げている。「仮説を立てて、それを確かめる実験を組み、それがうまくいって自分の仮説が確かめられたときの喜び」を語り、「失敗に失敗を重ねて、ずーっと追い詰められていっても、その間ずっと考え続けていれば、どこかでブレイクスルー(突破口)が見つかる」と私たちを励ましてくれる。
独創は闘いにあり』(西澤潤一著、新潮文庫。出版元品切れ)では、半導体素子や光通信の分野で数多くの独創的な世界的発明を成し遂げた西澤潤一が、真の独創を生むためには何をすればいいのか、独創開発の核心と発想の原点について、情熱を込めて語っている。独創人間になるには、「先見性、洞察力、とことん考え抜く姿勢、歯に衣着せず所信を述べる勇気、決断力のある実行」が必要だと述べている。


株式会社ファーマネットワーク
榎戸 誠

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