中外製薬 遺伝子治療薬「エレビジス点滴静注」で致死的急性肝不全2例をロシュが報告 試験投与を中断
公開日時 2025/06/17 04:52
中外製薬は6月16日、スイス・ロシュ社が同社の遺伝子治療薬「エレビジス点滴静注」(一般名:デランジストロゲン モキセパルボベク)で致死的な急性肝不全2例を報告したと発表した。歩行不能のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者への投与症例を再評価したもの。ロシュ社は直ちに歩行不能なDMD患者への投与を中止すると発表。これを受け中外製薬も、国内で実施中の歩行不能なDMD患者を対象とした臨床試験への投与を中断する方針を明らかにした。
◎年齢に関係なく“歩行不能”なDMD患者への投与を一時停止
ロシュ社の発表(現地6月15日)によると、「徹底的な臨床レビュー後に歩行不能なデュシェンヌ型肝炎患者におけるエレビジス使用のベネフィットとリスクは、致死的な急性肝不全の2例を受けて再評価した」と指摘。この結果を踏まえ、臨床現場においては、年齢に関係なく歩行不能な患者への投与を一時停止し、商業現場では歩行不能な患者への投与を中止する措置を講じた。なお、ロシュ社によると、「“歩行可能”なDMD患者におけるエレビジス治療のベネフィット・リスクは依然として良好で、治療ガイドラインは変更されていない」としている。
◎ロシュ社 ギャラウェイ医学博士「あらゆるリスク軽減のため緊急に取り組んでいる」
ロシュ社の最高医学責任者兼グローバル製品開発責任者のレヴィ・ギャラウェイ医学博士は、「2人の若い男性の死を深く悲しみ、エレビジスの使用に関連するあらゆるリスクを軽減するために緊急に取り組んでいる」と述べ、「歩行不能な患者さんに対するエレビジスの投与を直ちに中止することを推奨した」と強調した。
DMDは、まれな遺伝性の筋萎縮性疾患で、幼少期から急速に進行する。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは主に男性に発症し、世界中で男児5000人に1人がデュシェンヌ型筋ジストロフィーを発症するという。患者は、最終的には歩行能力に加え、上肢、肺、心臓の機能を失うこともある。
◎エレビジス 米国価格が約4億8000万円 中医協も注目「価格の妥当性」で意見も
遺伝子治療薬「エレビジス点滴静注」は日本でも、5月13日に“歩行可能”なDMDを対象に厚生労働省より条件及び期限付承認に該当する製造販売承認を取得している。また、米国価格が約4億8000万円と高額なことから、翌14日の中医協総会でも診療・支払各側から保険適応に向けて「価格の妥当性」を求める意見があがるなど、早くも注目されていた。
なお、エレビジスは日本以外に、バーレーン、ブラジル、イスラエル、クウェート、オマーン、カタール、UAEを含むロシュの8つの管轄地域で、DMDの治療薬として規制当局により承認されている。