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患者背景、解析ツールに注意を払ったエビデンスの解釈を

公開日時 2012/04/25 05:00

 

山下氏 新規抗凝固薬登場のインパクトを探る  

 

患者背景、解析ツールに
注意を払ったエビデンスの解釈を

 

 

 

 

 

 

 

心臓血管研究所 所長・付属病院長
山下 武志 氏に聞く

 

新規抗凝固薬をめぐっては、直接トロンビン阻害薬・ダビガトランの「RE-LY」を皮切りに、第Ⅹa因子阻害薬・リバーロキサバンではグローバル試験の「ROCKET AF」、日本人対象の「J-ROCKET AF」、アピキサバンの「ARISTOTLE」と、大規模臨床試験によるエビデンスが構築されてきた。では、これらの臨床試験の結果をいかに解釈すべきか。心臓血管研究所所長・付属病院長の山下武志氏にお話を伺った。

 

 

 

 

 

 

 

―新規抗凝固薬の臨床第3相試験として、ダビガトラン「RE-LY」、リバーロキサバンの「ROCKET AF」、アピキサバンの「ARISTOTLE」の3試験の結果が公表されています。臨床医が、各臨床試験を読み解く上でどこに注意すべきですか?

 

山下氏 まず、PECO(Patient:どんな患者に、Exposure:何をすると、Comparison:何に対して、Outcome:どうなるか)を見て欲しいですね。
 

対象患者をみると、脳卒中発症リスクを表したCHADS2スコアの分布が異なります。いわゆる低リスクとされる「0~2点」は、RE-LYの67.5%、ARISTOTLEの69.8%に対し、ROCKET-AFでは13.0%にとどまります。一方、比較的高リスクの「3~6点」は、RE-LYの32.5%、ARISTOTLEの30.2%に対し、ROCKET AFでは87.0%と大半を占めます。
 

次に、対照薬であるワルファリンの状態を見ます。コントロール状況を示すINR 至適範囲内時間(Time in Therapeutic Range: TTR)の平均値は、RE-LYで64.0%、ROCKET AFで55.0%、ARISTOTLEで62.2%と異なります。TTRが不良であれば、イベント発生率も増加しますから、ROCKET AF が早期に終了した要因の1つとも考えられます。
 

主要評価項目やアウトカムをチェックし、結果に疑問点が生じた場合は、PECOに戻って一度考えていただければと思います。例えば、ワルファリンに比べ、脳卒中の発症を半分に減らす…などと書いてあったら疑って欲しいですね。

 

 

 

 

 

ITT解析とOn Treatment解析 結果の違いに注意を

 

 

 

―ROCKET AFでは、On Treatment解析(試験薬を1回以上投与された集団を対象に投与中のみのイベントを解析)、その後にITT解析(プロトコルの逸脱者も含めた全ての患者を対象に、試験終了までイベントを解析)の2つの解析が行われています。

 

山下氏 ROCKET AFでは、主要評価項目(脳卒中+全身性塞栓症の発生率)において、On Treatment解析ではリバーロキサバン群のワルファリン群への優越性が示されている一方で、ITT解析では示すことができませんでした。
 

臨床試験の結果を見る際、基本的にはITT解析の結果をまず見ます。ITT解析は、実際に薬剤を服用していないケースまで含めて検討しています。日常臨床では、患者さんが服薬しているか追跡することは難しいですから、日常臨床を考えると結果は重要です。
 

実際に薬剤を服用した患者だけを対象としたOn Treatment解析では、薬剤を服用できない患者さんを除外し、状態の良い患者さんだけを集めた解析となってしまう可能性があります。
 

ROCKET AFの日本版であるJ-ROCKET AFでのITT解析は、服薬中止後次回診察時までのフォローアップ期間までに発生したイベントを解析した、いわば“ITT様解析”なのですが、どちらの解析もワルファリンとリバーロキサバンで条件が変わるわけではないので、同じ解析の中での比較はフェアだと思います。臨床医には少なくとも、ITT解析とOn Treatment解析の結果に違いがあったことを知って欲しいと思います。

 

 

 

 

 

各薬剤の投与対象 臨床試験のPECOを参考に

 

 

 

―新規抗凝固薬、各薬剤への印象をお聞かせください。

 

山下氏 ダビガトランの長所は、情報量が一番多いことですね。出血しやすい患者像も明らかになっており、今後は75歳以下でCHADS2スコアが2点以下の低リスク患者が投与対象になるのではないでしょうか。
 

リバーロキサバンは、臨床試験のPECOを踏まえると、CHADS2スコアが3点以上の患者さんが投与の中心となります。脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の既往がある患者が訪れる、神経内科医にとっては非常に有用なツールになるのではないでしょうか。一次予防が中心の循環器内科医にとっては、ダビガトランの投与が難しい高リスクの患者や、胃腸障害があるもののワルファリンの服用を嫌う患者が対象になると思います。
 

アピキサバンは、ARISTOTLEの試験デザインもダブルダミー、二重盲検下で行われており、エビデンスレベルも高く、有効性・安全性両面についてワルファリンを上回る結果が示されました。臨床試験の結果を見る限り、結果をそのまま受け取ってよいと思います。
 

注意すべき点は、プロトロンビン時間国際標準比(INR)が2~3で、日本の実臨床の1.6~2.6よりも高めに設定されていたことから、ワルファリンの出血頻度が実臨床よりも高いことくらいです。
 

ただ、ISTH基準による大出血の頻度も低率で、胃腸障害の発現率も少なく、患者のコンプライアンスも良好ですから、全ての患者が投与の対象になるのではないかと思います。

 

 

 

―腎機能低下例で出血リスクの増加が懸念されています。

 

山下氏 これまでの臨床試験の結果から、ダビガトランもリバーロキサバンも腎機能が低下するにつれ、出血頻度が増加し、この頻度に大きな差がないことも分かってきました。腎機能低下例は、高血圧や糖尿病合併患者や高齢者が多く含まれており、出血しやすい患者群でもあるため、患者背景が1つの要因と考えられます。
 

一方で、アピキサバンは腎機能低下による出血リスクの増加が、ダビガトランやリバーロキサバンよりも傾きが弱いことも分かってきました。私見ですが、この背景には高リスク患者に対する投与量減量以外に、薬剤の蛋白結合率も関与しているのではないかと考えています。薬剤は、蛋白結合してしまうと、薬効を発揮できません。血中濃度は、蛋白結合している薬剤も含めてしまうため、薬効を推し量る上で十分ではなく、蛋白結合率を考慮することも重要ではないかと考えます。
 

実際、ダビガトランは腎排泄が80%ですが、蛋白結合率は35%です。一方、リバーロキサバンは腎排泄が33%、蛋白結合率が92~95%で、腎排泄の割合が低い一方、蛋白結合率は高いのです。この2つの因子が相殺して、同様の出血リスクになっている可能性があります。

 

 

 

 

 

情報には多面性がある

 

 

―最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 

山下氏 ダビガトランでブルーレターが発行された背景には、薬剤の長所ばかりが伝わってしまい、地域の医師まで十分な情報伝達がなされていなかったことがあります。十分情報が伝達されたいま、禁忌症例に投与し、大出血が発現した症例は報告されていません。
 

情報は、ドラッグ・ラグのない薬剤ほど重要です。これまでは、ドラッグ・ラグが存在し、新薬が臨床現場に登場するまでに情報が行き届いていたために、こうしたことは起きなかったのではないでしょうか。
 

ダビガトランの事例から学ぶことは多かったと思います。情報には多面性があります。医師も製薬企業とは異なる見方もあることを知るべき時代に入りました。いまの製薬企業の情報伝達の在り方をみていると、また同じようなことが起こる芽がないとは言いきれません。製薬企業には、今後このようなことが起こらないよう、フェアな情報を広く伝達して欲しいと思います。
(インタビュー 望月 英梨)

 

 

 

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