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【FOCUS 政府の全世代型社会保障検討会議が初会合 社会構造変化に見合う産業転換を】

公開日時 2019/09/24 03:52
政府の全世代型社会保障検討会議(議長・安倍晋三首相)の初会合が9月20日、首相官邸で開かれた。安倍首相は会議の挨拶で、「少子高齢化と同時にライフスタイルが多様となる中で、人生100年時代の到来を見据え、年金、医療、介護、労働など、社会保障全般に渡る持続可能な改革を更に検討する」と強調した。当面は人口減少など社会構造変化に対応するための介護、労働で議論を深め、年内に中間報告を取りまとめる。薬剤給付の範囲の見直しや高齢者の窓口負担など医療保険制度に関しては年明けから議論する。与党内の議論も踏まえ2020年6月の骨太方針取りまとめまでに改革の全体像を策定する方針だ。

2025年には全ての団塊世代が後期高齢者となり、日本は高齢化のピークを向かえる。その後、2030年~40年には労働生産人口が減少し、首都圏を除く全ての地域の経済力をどう維持するかが課題になる。最大の課題は、医療、年金、介護など社会保障制度の「支え手」が急速に減少し、需給バランスにギャップを生じることだ。全世代型社会保障検討会議に課せられた使命は、こうした社会構造の変化にどう対応し、どう社会保障制度を改革するかにある。

◎医師会に送ったメッセージ

2000年代前半、小泉政権において社会保障制度改革の議論が活発化した。基礎年金の国庫負担2分の1引上げ、高齢者医療制度の創設、被用者保険3割負担引き上げ、政管健保(現・協会けんぽ)の保険料率の見直しなどに議論が及んだ。この時は、国民の高支持率に支えられた小泉首相の独特の論理のもとで議論が展開した。「三方一両損」、「自民党をぶっ壊す」などを盾に、自民党厚労族は議論から外され、官邸と正面衝突する。財務省が診療報酬の本体マイナス改定を前面に打ち立てたことに日本医師会が猛反発し、政府・与党間の溝を深めた。財政ありきだった当時の議論は、その後の地域医療政策を数年間にわたり遅延させ、これを巻き返すまでに20年あまりを要した感は否めない。

小泉政権当時、官房副長官を務めた安倍首相だけに、この二の舞だけは絶対に避けたいと強い想いを感じる。先述の検討会議の挨拶で安倍首相は、「与党の意見も充分に聞きつつ、議論を進めていただきたい」と念を押した。すなわち日本医師会をはじめ、関係団体の意見については与党内の議論を通じて聴くというサインを送っている。また、自民党総務会長だった加藤勝信氏を厚労相に再登板させた。党内のまとめ役を厚労相に起用することで、政府・与党間の風通しを良くし、コンセンサスが得やすい土壌を整えた。社会保障制度改革は最終的に法改正を伴う。法案提出は2021年の通常国会になる見通しだ。この1年半の議論を考えると、議論の座組をしっかり整え得ることが最初のステップとなることは言うまでもない。

「年齢にかかわらず働くことができる環境を整えることが必要だ」-。政府は70歳までの就業機会確保に関する法制化や、兼業・副業できる環境整備、年金の受給開始年齢を自分で選択できる範囲の拡大、また疾病介護予防へのインセンティブ措置の強化などの方針を打ち出している。制度面の改革はもちろんだが、一方で、AI(人工知能)やビッグデータや介護ロボットなどICTの利活用などは避けられない。政府がsociety5.0を推奨する背景には、生産性向上を目的とした社会システム構築と、経済基盤を確立させる投資促進の考えがあるからだ。

◎全世代型に込められたメッセージから産業構造転換を

製薬業界は、OTC類似薬の給付の範囲の見直しや高齢者の窓口負担引上げの方向に関心が寄せられている。ただ、今回の検討会議の議論の方向性には、一つのメッセージが産業側に投げかけていることを忘れてはならない。骨太方針2019にも、製薬産業の構造改革を促す文言が明記されている。高齢者であっても健康で働ける社会システムの確立という意図は、たとえ病気になっても、それを克服して職場復帰できる社会の実現を目指すものだ。すなわち、製薬産業も、こうした社会実現に協力し、産業としてのゴールの持ちようを変える産業構造改革を実現して欲しいとのメッセージを送っているのだ。

ここ数年に上市された革新的新薬は、これまで治癒が難しかった難病を克服できるベネフィットを社会にもたらした。例えば、数年前は治癒できないとされた、難治がんやC型肝炎、一部の希少疾患は、革新的新薬の登場で克服できるようになった。であるならば、製薬業界が次に成すべきは、病を克服した患者を職場や日常生活に戻してあげることにある。今回の全世代型社会保障制度の実現は、まさに社会構造改革であり、社会システムに見合う産業の実現に他ならない。製薬業界にとっても、革新的新薬を通じ、こうした社会の実現に貢献するためのソリューションの開発や、提供が求められる時代となる。

もちろん、薬剤費抑制の圧力が緩むことはない。2018年度薬価制度抜本改革の主旨がこれにより変わることもない。医療費に占める薬剤費の伸びをこれまでのように無尽蔵に伸ばす政策はあり得ないだろう。であるならば、製薬産業としては、2025年以降の社会構造に見合うビジネスについての検討を進め、実現の道を探ることも重要だ。トータルヘルスケア産業としてプラットフォームをいかに築き、IT産業、通信業界、保険業界、アカデミア、ベンチャー・スタートアップ企業などとパートナリングしながらエコシステムを回すことにある。今回の議論と並行して産業としての将来ビジョンを策定することが重要ではないか。(ミクス編集長 沼田佳之)
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