熊本大学大学院・吉田正貴助教授 BPH治療薬ユリーフの有用性強調
公開日時 2006/06/25 23:00
泌尿器科領域では大型新薬候補の前立腺肥大症(BPH)治療薬「ユリーフカプ
セル」(一般名シロドシン)の登場で今後の市場動向が注目されている。熊本
大学大学院医学薬学研究部泌尿器病態学分野の吉田正貴助教授は6月21日、キ
ッセイ薬品工業が開いたセミナーで講演し、ユリーフの有用性について「排尿
症状のみならず蓄尿症状も著明に改善させる。中等症から重症まで幅広い症状
に有効で、手術やそれに伴うリスクを回避できる可能性がある」と強調。また、
BPH治療薬市場の5割以上のシェアを有し、最も使用されているタムスロシン
との臨床上の使い分けに関しては「例えば、蓄尿症状が強い患者、または重症
の患者など症例ごとで今後両剤を用いた試験を行う必要がある」と明言を避け
た。
吉田教授によると、BPH患者は正常な人に比べて、α1受容体は6倍程多く、
中でもα1A受容体(α1受容体サブタイプ)が9倍程高くなっているという。
そのため、α1A受容体に選択性の高い薬剤があれば、BPH患者の下部尿路症状
の改善効果が高まるのではないかとの認識を示した。同教授によると、α1B受
容体に対する親和性を1とした場合のα1A受容体/α1D受容体への選択性は、
シロドシン、タムスロシン、ナフトピジルでそれぞれ583倍/10.5倍、15.3倍
/4.6倍、5.4倍/16.7倍。
シロドシンは既存のα1遮断薬に比較して、α1A受容体に対して583倍と最も高
い選択性を有し、「α1A受容体超選択的遮断薬」と言われる。そのうえで同教
授は「サブタイプ選択性が生体で反映されるには、100倍以上の差が必要。そ
のため、タムスロシンはα1A選択性とは言えず、ナフトピジルもα1D選択性と
は言えない」と述べた。学問的見地から「シロドシンによるBPHに伴う下部尿
路症状の改善効果から、α1A受容体がBPHの病態にどこまで関与しているか、
明らかにすることができる」と評した。
α1A受容体は血圧に関与するため、同受容体への選択性が高いほうが血圧との
分離が可能で、めまいなどの血圧低下に起因する副作用を回避できるとされる。
この点でタムスロシンが血圧への影響が少ないとされている点に関して、「タ
ムスロシンのα1A選択性は高々15倍。血圧への影響が少ないのは薬物体内動態
上の特性で、徐放化製剤のため」と指摘。一方、ナフトピジルに関しても「α
1D選択性は17倍でさほど高くない。α1D受容体に選択性がない薬剤でも蓄尿症
状を改善する。最近は、α1A遮断薬本来の作用が、蓄尿症状の改善に関与して
いるのではないか、と考えられている」と解説した。
一方、シロドシンで懸念される副作用の射精障害(発現率は22%)に関しては、
「射精障害によって治験を中止した例は非常に少なく、α1遮断薬による治療
が有意な性欲や勃起機能の低下をきたすとの報告は見られない」と語った。