企業と個人とカネと転職
公開日時 2010/09/01 04:00
報酬が多いことをウリにしているA社に、「この世はカネ」と言い切るTさんが乗り込んだ。その結末は?
「世の中、最後にものを言うのはカネ」
こんなことを書くと、なんと世知辛いと言われてしまいそうだが、転職エージェントをしていると、カネの力をまざまざと見せつけられるものだ。例えば…。
「年収ダウンを承知で応募していたはずなのに、いざ内定が近づいてくると二の足を踏む人」
「年収の項目だけをみて、応募する企業を決める人」
「自分の夢といっていた仕事より、高収入に魅せられて、別の仕事を選ぶ人」
年収で100万円の差があれば、それも仕方ないかもしれないが、数十万円、時には10万円そこそこの差でも、意志決定に大きく響いてくることがある。月に1万円払って、やりたい仕事をしていると思えば、そんなに高くないように思えるのだが、いざ現実になると、やはりカネの力は強い。
レンタル・リース業A社は、転職希望の応募者に対して、カネを前面に押し出す面接をしていた。A社が問いかけるのは、この質問に集約される。
「あなたは生涯年収、いくら欲しいですか?」
A社の営業職はインセンティブの金額が大きく、優秀な成績を維持できれば、10年以内に平均生涯年収を上回ることも十分可能(実際にそれを達成した人もいる)。
ただ、その分、仕事はハードで、モチベーションを保つのは、並大抵のことではない。そして、A社は経験から、社員の動機づけにはカネが最善と信じていた。
「持ち家か、賃貸か。どこにある、どのくらいの家に住みたいか?」「子供は何人欲しいか?」「趣味に幾ら使いたいか?」「どんな老後を送りたいか?」
こうした人生設計をもとに、必要な生涯年収を算出。応募してきた人は、A社でそれを何年で達成する、あるいは、生涯年収の何割をA社で稼ぎ出す、というシミュレーションをして欲しいと要望していた。
A社で長く働ける人は少ない。働き盛りの数年間をつかい、その対価として多額の報酬を得る、それがこの会社のメリットと自負していたわけだ。
我々は、A社の面接に何人も応募者を送ってきたが、これまで採用は1名だけ。ほとんどは「貪欲さが足りない」とA社から烙印を押され、不採用になっていた。
そこへ今回登場したのが、Tさん(28歳)である。
彼は、初面談の席でも「世の中はカネが全て」と言ってはばからない、割り切った考えの持ち主。「年収が高い会社に行けるなら、何でもしますよ」と、大言していたので、我々は最初にA社を紹介した。
「いいですね。そういう会社を待ってました」
説明を聞くと、Tさんもすぐに乗り気に。すぐさま応募の手続きをとり、面接になったのだが、面接後の反応は、双方「お断り」であった。
その理由は
A社:「カネに汚い。考え方がセコすぎる。最悪」
Tさん:「社長がカネ・カネ言い過ぎ。経営者がそんな人の会社、ろくなもんじゃない」
と、惨々。
相性がいいに違いないと思われた両者は、面接で、カネをめぐる質疑で互いに主張を譲らず大激論に発展。カネ第一主義にも諸派あるようで、近親憎悪とでもいうのか、評価はA社の言葉そのまま、最悪となってしまったのだった。
やはり、金銭感覚は人によって千差万別。
「食べるのに困らなければ、それでいい」「あからさまにお金の話をするのは下品」「報酬が多いほど社会に貢献していると言える」「一生懸命とりくめる仕事なら、稼ぎはあとからついてくる」「楽して稼ぐのが一番」「カネこそ全て」
それぞれに言い分があり、それぞれに正しいのだろう。
どんなスタンスで転職にのぞむのかは、その人次第。いや、むしろ転職活動をすると、それまで気がつかなかった自分の本当の金銭感覚に気がつかされることになるのかも。

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