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【AHAリポート】TRACER試験 非ST上昇型ACS患者に抗血小板薬・vorapaxar 追加投与で心血管イベントの有意な抑制みられず

公開日時 2011/11/15 15:15

 

非ST上昇型急性冠症候群(ACS)患者を対象に、アスピリンとクロピドグレルなどのP2Y12受容体阻害薬の併用を行う標準療法に、抗血小板薬・vorapaxarを上乗せしたところ、複合心血管イベントの発生を有意に抑制できない一方で、出血リスクを増加させたことが分かった。同剤の臨床第3相試験(P3)の「TRACER(Thrombin Recepter Antagonists for Clinical Event Reduction in Acute Coronary Syndrome)」試験の結果から分かった。米国・オーランドで開催されている米国心臓病学会年次学術集会(AHA)2011の「Late-Breaking Clinical Trials」セッションで、TRACER Investigators and Committeesを代表して、Kenneth W. Mahaffey氏が報告した。(11月13日 米国・オーランド発 望月英梨)


Vorapaxarは、PAR-1(プロテアーゼ活性化)受容体拮抗剤。血小板表面上にあるPAR-1に拮抗し、トロンビン誘導性の血小板活性化を阻害することで、作用を発揮する新たな作用機序のファースト・イン・クラスの経口薬。

試験は、ST上昇を伴わないACS患者を対象に、標準療法にvorapaxarを上乗せすることの有効性・安全性を検討することを目的に実施された国際化二重盲検下ランダム化比較試験。

対象は、①24時間以内に症状がある②バイオマーカーの上昇またはECG変化がある③その他のハイリスクの特徴がある――を満たすST上昇を伴わないACS患者1万2944例。日本人276例を含む37カ国、818施設から登録された。


アスピリンとクロピドグレルなどのP2Y12阻害薬を併用する標準療法に加え、①プラセボ投与群6471例②vorapaxar投与群(loading:40mg、維持用量:2.5mg/日)6473例――の2群に分け、治療効果を比較した。投与開始から、1カ月、4カ月、8カ月、12カ月、その後の6カ月ごとに追跡した。イベントの発生は、Kaplan-Meier法で2年後の発生率とした。


主要評価項目は、心血管死+心筋梗塞+脳卒中+虚血による入院+緊急の血行再建術の施行の複合エンドポイントを据えた。出血のエンドポイントは、GUSTO基準に基づく中等度、重度の出血、もしくはTIMI基準に基づく臨床上重大な出血とした。


試験は、2011年6月4日までと計画されていたが、安全性が懸念されたことから、データモニタリング委員会が、2011年1月8日に試験の早期中止を勧告し、1月13日に試験が中止されている。


患者登録からランダム化までの時間は平均21.2[12.2-40.8]時間。薬剤への曝露時間は386日(中央値)で、追跡期間(中央値)は、502[349-667]日。薬剤の中止はvorapaxar群(28.2%)で、プラセボ群(26.8%)よりも少し高い傾向がみられた。ベースラインでは、アスピリンとチエノピリジン系誘導体を併用していた症例がプラセボ群で87.1%(5639例)、vorapaxar群で87.6%(5668例)だった。入院期間中、クロピドグレルは、91.8%の患者に投与されていた。


主要評価項目の発生率は、vorapaxar群は18.5%(1031例)に対し、プラセボ群は19.9%(1102例)で、2群間に有意差はみられなかった(HR:0.92[95%CI:0.85-1.01]、p=0.072)。ただし、副次評価項目である心血管死+心筋梗塞+脳卒中の発生の複合エンドポイントは、vorapaxar群で14.7%(822例)に対し、プラセボ群で16.4%(910例)で、vorapaxar群で有意に減少した(HR:0.89[0.81-0.98]、p=0.018)。そのほか、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、虚血による再入院、緊急時の血行再建、ステント血栓症の発生、全死亡などについて2群間に大きな差はみられなかった。


一方、安全性については、中等度、重度の出血については、vorapaxar群の7.2%(391例)に対し、プラセボ群は5.2%(290例)で、vorapaxar群で有意に増加した[HR:1.35[1.16-1.58]、p<0.001]。TIMI基準による臨床上重大な出血も、vorapaxar群の20.2%(1065例)に対し、プラセボ群は14.6%(755例)で、有意に上昇した(HR:1.43[1.31-1.57]、p<0.001)。頭蓋内出血も、vorapaxar群の1.07%(40例)に対し、プラセボ群は0.24%(12例)で、有意に増加していた(HR:3.39[1.78-6.45]、p<0.001)。


ただし、致死的な出血は、vorapaxar群は0.35%(15例)でプラセボ群の0.15%(8例)と有意な差はみられなかった(HR:1.89[0.80-4.45]、p=0.15)。


サブグループ解析をみると、チエノピリジン系誘導体を併用していない患者では、vorapaxar群で出血が有意に少ない結果となった(p=0.044)


Mahaffey氏は、同試験の結果から主要評価項目で有意差を示せなかったことを踏まえ、「PAR-1受容体拮抗剤は、他の治療戦略または、さらなる研究が必要だが他の冠動脈疾患患者を対象にすることで、治療効果を改善する可能性がある」との見解を示した。なお、同剤については、心臓発作や虚血性脳卒中の既往がある患者やPAD患者を対象とした「TAR-2P」が進行中。


◎「まだ血栓起因性のイベントを抑制する可能性は残されている」 Fox氏


Discussantとして登壇したEdinburgh Centre for Cardiovascular ScienceのKeith A A Fox氏は、ACS患者で5年以内に死亡に至った患者の83%が、退院後に二次予防をしているにもかかわらず、死に至ったと指摘。ACSの二次予防において、さらなる治療戦略の構築が必要との考えを示した。


同試験の結果についてFox氏は、vorapaxar群で心筋梗塞の発生率(vorapaxar群:11.1%、プラセボ群:12.5%)に差がみられたことを指摘。虚血による入院などのソフトエンドポイントが主要評価項目の発生率に影響を与えた可能性を指摘した。その上で、私見と断った上で、「試験で用いられた用量と患者集団では、リスクベネフィットの観点から価値がない」との見解を示した。ただし、これは有効性と安全性の間にある“sweet spot(芯)”を外したためと指摘し、「まだ血栓起因性のイベントを抑制する可能性は残されている」との考えを示した。なお、同試験の結果は同日付の「The New England Journal Of Medicine」に掲載された。
 

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