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本誌編集者座談会 2013年の製薬業界を振り返る

公開日時 2013/11/30 00:00

MR活動は市場環境激変で大転換の予感

臨床研究問題から浮び上ったメディアの責任

 

 

2013年の製薬業界を振り返り、ミクス編集部座談会を開催した。新薬トレンドや市場動向の変化、「MR+e」の最新事情、さらにはディオバン問題を踏まえたメディアのあり方など、幅広いテーマでミクス編集部所属の記者が独自の視点で製薬業界とMRのいまを語った。

 

 

沼田 まず2013年の新薬のトレンドについて振り返ってみよう。
田中 これまでの傾向に引き続き、オンコロジーやリウマチ、中枢神経系などのスペシャリティー領域での新薬が目についた。一方で、生活習慣病関連でも糖尿病や循環器領域で注目の新薬も上市された。ただ市場性からみると、マスからニッチ・スペシャリティー領域の新薬が着実に増えている。
沼田 各社の開発ストラテージに変化はあった?
田中 そうですね。新薬の価値を見ながら適応拡大するようなライフサイクルマネジメント(LCM)が目立ってきたと思う。
沼田 今年インパクトのあった新薬開発はどうだろう。
望月 C型肝炎の領域です。これまでのインターフェロンとリバビリンの併用療法では、難治症例が残ってしまうという課題があった。それを克服する新薬の開発が進んでいる。
酒田 スーパーオーファンが増えてきた。国内でも患者が36人しかいない急性ポルフィリン症の治療薬が登場した。国策とも言えるが、このようなオーファンが市場に出てくるようになったことは大きな変化だ。
沼田 新薬の採用状況はどうだった?
田中 今年の新薬採用アンケートの結果をみると、例年に比べて全体的に採用率の低下が極立った。採用率の高い新薬でも5割を切ったのは初めて。このため病院の経営主体別にも分析してみたが、どのクラスの病院も新薬採用の敷居が高くなっていた。新薬を採用する病院側の認識に変化がある。また特徴的なのは、経口のリウマチ薬や骨粗鬆症治療薬など大型化が期待される新薬でも、採用率が決して高くないことだ。
沼田 その理由は?
田中 薬剤部への取材を振り返ると、連携先の基幹病院や大学病院での採用を見ながら、自院での採用を考える傾向にあった。マス市場向けの新薬は後続型が多く伸び悩んだ。
神尾 ファーストインクラスかどうかという要因もあるのでは。新しく市場を作る新薬は、採用まで時間がかかる傾向にあるのではないか。
望月 取材で感じたのは、新しいクラスの新薬であっても、劇的な治療成績の向上が見られない限り採用に結び付かないということ。逆に、緊急性が無いと難しい。特に循環器領域はその傾向が強い。
田中 治験段階でいい成績が出ていても、類似薬がある場合は病院への採用も全体的に緩やかになっているようだ。
沼田 次に、ジェネリック(GE)品の動きを見てみたい。
望月 精神病院の中小クラスでGEの浸透率が高まっていた。これは診療報酬上の加算インセンティブが働いたものだ。一方で、臨床研修指定病院はGE品の採用に意欲的な面があるものの、研修医集めという点でGEばかり採用するのは難しいとの声も聞いた。今後2極化の懸念もあるだろう。
神尾 病院と診療所・調剤薬局でも異なる。経営的なインパクトでいうと一般名処方や代替調剤の導入によって診療所や調剤薬局でGE浸透の効果が表れている。政策としての誘導はうまくいったということだ。
沼田 2014年以降のGE市場も変化がみられそうだね。
神尾 もっとも重要な年は2014~15年だと思う。ARBなどの大型品の特許切れが始まる。さらに、生物学的製剤や抗体医薬の特許切れも始まる。これによりGE市場も低分子化合物主体から、いよいよバイオ後続品へとシフトする。バイオ後続品は安全対策や製造技術などが求められることになり、これらを扱う企業がコストをどう考えるかが重要になるだろう。
酒田 厚労省はGE品の数量シェア60%達成に向けたロードマップを発表した。これは長期収載品についてお役御免と宣言したのと同じだ。GE品の市場浸透はもっともっと早まると思う。ただ、裏返しで、新薬メーカーの営業利益率が低下することは避けられない。まさにコスト効率が問題となる。MRを含む営業組織への影響は避けられないだろう。
神尾 もう一つ、今年はTS-1のGE品が発売された。2014年はエルプラットにGE品が登場するといわれている。がん治療の世界にも、より一層の変化が見られるのではないか。
田中 TS-1に関しては、OD錠も出た。現場の評価も高いので、今後どう移行するか注目だ。

 

MRのペインポイントを探る

沼田 今年編集部はMRのペインポイントを探る活動をしてきた。皆さん振り返ってどうですか?
望月 私は尊敬できるカッコいい上司がいないというMRの声を聞いた。上の世代に尊敬できる人がいないので、MRの将来をどう考えていいのか分からないという意見を聞いた。
沼田 それは何で?
望月 背景には、接待規制や訪問規制などがあり、これまでのように医師とのリレーションを構築することが難しくなったからではないだろうか。一方で、会社からの圧力じゃないですけど、中間管理職が別の意味で忙しくなっている。本社からの指示が増え、やらないといけないことだらけで、あまり楽しそうでないという若手MRさんの声を聞いた。
酒田 いまは接待規制や訪問規制で医師と頻回かつ濃密な接触ができない。逆に、それが出来ていた時代の人がいま、営業所長や支店長になっている。私は営業リーダーを取材する機会が多いが、皆悩んでいる。過去の成功体験が通じない世界になってきたと嘆く声も多い。
沼田 成功体験が通じないことは大きいね。
酒田 売る医薬品も変わってきた。ブロックバスター時代とは世界が全く変わってしまったということではないだろうか。
神尾 いまのMR活動は医師への面談だけでなく、研究会・講演会やネットなどを頻繁に活用している。加えて、これを数値化する動きが出始め、そのKPIにこだわるようになった。ここ2年くらいの動きだ。それによりMRの訪問回数をどうするのか。MRの訪問1回のパワーをどのように見て、Webとどう組み合わせるべきなのか。これを分析できるツールも出始めている。
沼田 これまでは単純なeとMRの組み合わせだったが、最近は顧客志向や顧客の行動を分析し。MRとeのプロモーション戦略もさらに緻密になってきた。
酒田 ただ、現状でそこまで進んでいるかと言うとまだまだだ。MRに自社サイトのコンテンツを聞いても分からない。もう少しMRとeを融合させるための戦略的な部分から戦術に落とし込む作業が必要なのでは。
神尾 一番強い情報提供活動はヒトとヒトですよね。そこを助けるのがWebだと思う。あまりWebを過信しすぎるのも良くない。
酒田 同感です。
望月 いまの議論は「MR+e」で止まっているが、今後の目指す方向は必要な時に必要な情報を医師や薬剤師に届かせることなので、やはり様々なツールをうまく使いこなすことを考えるべきではないか。
酒田 医師や薬剤師を飽きさせないという行動がMRに求められる。困っている医師に何を提案するか。eマーケで成功している他業界の方たちでさえ「リアルで飽きさせないこと」が成功の秘訣という。eは補助的に活用している。いつ会ってもワクワクできるようなMRであることが大切。
田中 MR活動も薬事法という規制の中での活動になるので、eによる双方向コミュニケーションも他業界に比べると限定的にならざるを得ない。一方、患者さんはIT社会の中で、情報に晒されている。情報の非対称性もいまは昔の話。情報発信する製薬企業としての工夫はさらに求められると思う。
神尾 ある調査会社のデータによると、処方動機を継時的にみると、一年目は研究会・講演会、2年目はWebにパワーがある。こんな分析があるなかで、マルチチャネルを用いたMR活動についても材料が揃ってきた感じ。
沼田 「MR+e」はまだまだ進化するのではないかと期待している。ただ、一つ苦言をいうと、MR自身がeに対する不安感が低いということ。医師がすでにeから情報をとっているという現実を直視しなければいけない。

 

マネージャー教育に課題

沼田 次の課題です。企業にとって人材育成が重要だ。MRの教育研修も今年は特集した。印象に残ったこととは?
望月 マネージャー教育に課題を感じている企業が多かった。強い企業を作るためには現場の長がしっかりしていることが重要。それが無いと、後進も育たない。一方で、環境の変化があるがために、自分の経験を伝えるだけでは若手の育成につながらないというジレンマも感じている。ここが大きな課題だ。
酒田 同感ですが、そこに至るまでの悩みも尋常ではない。リーダーとしてのフレームを示すだけでは意味がない。例えば、仕事以外で部下と話しができるかどうかや、帰社後の労い、部下との共通話題などで悩むマネージャーも本当に多い。
沼田 ゆとり教育の弊害ですか?
望月 それを一言でいってはダメです(笑)。ちなみに私はゆとり教育世代じゃありませんけれどね・・・。
一同 笑
望月 世代の差がこの数年間で変わってしまった。これは医療界だけの話ではない。社会環境の変化もある。また、企業の中では、マネージャーの間にも差がある。そこに課題があるのかなと思う。
神尾 やっぱり上司や他人のせいだけにしちゃあ駄目です(一同笑)。山本藤光さんの「MRの質を測るものさし」を読まなければね。
一同 うまい!(一同拍手)
神尾 MRの評価軸が果たして売上だけでいいのか、ディテール数だけで良いのか、というのを企画で取り上げたらいいんじゃないだろうか。皆さん、山本藤光さんの本を読みましょう。(笑)
田中 病院薬剤部に行った訪問規制に関する調査の自由回答のコメントをみると、一部問題のあるMRの行動によって、全てのMRに訪問規制を導入しなければいけないとの声を見た。実際にお会いしたMRさんに問題行動があるとは思えないが。やはり教育後のフォローや、何故そのような行動があるのかという分析を行うことも必要ではないか。
酒田 MRのマナーが問題視されることがある。ただ、マナー教育でやるとマナーで終わってしまう。MR1人ひとりが会ってよかったと思われるように教育が必要だ。
望月 新薬をきょう採用してもらわなきゃ困るというKYなMRさんもいるようです。そうすると他のMRにも迷惑がかかる。その人だけが出禁というならまだしも連帯責任となる。
沼田 理想のMRについて一言ずつお願いします。
田中 私は想像力だと思う。自分でストーリーを描く訓練を重ね、実際に医師や薬剤師との面談を通じて効果検証していく姿勢が必要だ。
酒田 一言でいうと、ともに薬物治療を作っていく関係だと思う。医師の声に耳を傾け、互いに何ができるかを考え、作り上げていく過程を楽しむようなMRが必要だ。
神尾 誠実で機転の利くことが大切。MRさんは勉強のできる人が多い。人と接する仕事である以上、誠実で場の空気を読める人は無敵ではないかと思う。
望月 2つ言っちゃダメ?
沼田 一つだって!(一同笑)
望月 私は育薬が大切だと思う。長期品が増えている中で、特に公平な情報提供能力が必要。情報の収集と提供が本文である以上、育薬のできるMRを目指すべき。
沼田 私は、座ってじっくり話のできるMRを目指して欲しい。いま医師と面談できにくい環境にあるけれども、これだけ患者の命に係わる仕事をしているのだから、その情報は医師の目をみて、時間をとってじっくり話をして欲しいと思う。まあ原点回帰ですね。
最後にディオバン問題です。ここから出た問題点が幾つもある。特に我々はメディアの立場でいろいろ考えなければならないと思う。
望月 やはり、我々も臨床試験結果を伝えた責任は重い。エビデンスは臨床医にとって頼りになるもの。だから、自分の治療の後ろ支えであるべきだと思う。プロモーションの部分は企業に責任がある。一方で医師主導である以上、医師側にも問題があった。また、その記事を書いたことは、我々に責任があると思う。伝えることに責任を負わなければならない。メディアの責任も果たさなければいけないと思う。
田中 臨床試験は薬剤の立ちイチを考える上での重要なもの。プロモーションする立場でみると、立ちイチを高い所に置きたいという企業側のギャップがあった。今回の問題は臨床医の間の意見を聞いても振れ幅が大きい。医師もエビデンスをどう捉えたかにもよる。最初からエビデンスとは、薬剤の位置づけを考える一つの指標であるべきであり、それ以上のものでは無い。やはり我々の立場では、その薬剤の立ちイチを見せるものということを再認識することが大切なのではないかと思う。
望月 エビデンスはサイエンスであり、プロモーションに使うべきでない。本来はクリニカルクエスチョンを見るべきもの。こういったことでエビデンスが作れなくなることに危機感を感じる。今回はプロモーションの問題に絡めているだけでなく、医師側はこうした研究を行う体制がまだ整っていなかったということを自覚し、改善して欲しいと思う。
酒田 やはりエビデンスはサイエンスであり、臨床にどう応用するかは別物だと思う。患者と向き合った時に何が妥当かを判断するのは医師であり、すべて自分の判断をエビデンスに丸投げするのは怠慢である。一方で製薬企業がそれを促してきたというのであれば、もうプロモーションの自殺と言わざるを得ない。
神尾 殆ど取材していないので分からないところもあるが。やはり医師側は大規模な臨床試験の結果を処方のヒントにしているのも事実であり、これで臨床試験ができなくなることは不幸だと思う。萎縮すべきではないと思う。

 

メディアの役割を考える

沼田 最後にメディアの役割に触れてみたい。ミクスも、製薬企業のプロモーションのあり方を報じてきた立場で、こうあるべきということを語る役割も担っていると思う。
望月 こういうことがあると感じるのは、公平な情報を発信することの重要性を感じる。知識が無いままに、悪者だけを決めつけた報道は良くない。専門誌だからこそ、公平な目で論ずる必要がある。少し、外にでて自分たちの情報がどのような影響を与えているのかを考えて欲しい。
酒田 メディア一般の問題として考えることだ。iPS細胞の虚報の問題もあった。我々には吟味する目が必要だ。なかなか難しい面もあるが、常に距離感を保ち続ける姿勢が必要ではないかと考える。
沼田 我々も取材する側に寄りがちだ。そこに注意しないといけない。
酒田 人称が無い報道は問題だ。視点の定まる報道に努めなければいけないと考える。
神尾 ミクスで言えば、我々も自主調査を多く行ってきた。今後もこれは増えるだろう。やはり、こういう問題をみて反面教師で考えれば、嘘をつかないことは当然だ。
田中 まさに同感です。MRや企業は、自社にとって悪いエビデンスは当然出したくないと思うが、ネガティブな情報から臨床を良くするヒントも得られる。
沼田 メディアとして公正で中立な情報の発信・提供につとめなければならない。我々も情報を吟味する能力は必要だ。これからも自主調査もやっていくことになるが、そこについての検証もきちんとやる。ミクスは製薬業界のプロモーションやマーケティングに関する唯一の専門誌でもある。我々はその役割を改めて認識し、これからも様々な企画を通じて情報発信に努めていかなければならないと思う。
本日は長時間に亘り、ありがとうございました。
 

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