慶應大病院薬剤部・中田氏 「MRからの電子媒体の情報提供には限界」 情報提供の社内規制にバラツキも
公開日時 2025/07/09 04:50

慶應義塾大学病院薬剤部の中田英夫氏は7月5日、第27回日本医薬品情報学会総会・学術大会(広島市開催)のシンポジウムで、「MRからの電子媒体の情報提供には限界がある」との見解を示した。中田氏は、「7割の企業(MR)が電子媒体を外部に送る際に規制をかけている」と指摘。企業とやり取りすると、「Webサイトに取りにいってください」と言われることが多いが、実際に探すのは煩雑で、直接リンクの送付を依頼しても断られるケースが多いと述べ、対応の必要性に言及した。杏林大学医学部付属病院薬剤部の若林進氏も、コロナ以降、MRの訪問が減ったことで、「最新の添文改訂など欲しい情報が上手く伝わらなくなっている」と危惧を表明した。
7月5日のシンポジウム「ステップアップ! DX で変わる医薬品情報提供の未来」で中田氏は、「製薬企業担当者からの電子媒体の情報提供」(24年日本医療薬学会発表)に関する調査結果を提示した。MRを含む企業担当者から電子媒体の情報を医療機関等に提供する際に、「社内・社外を問わず規制あり」との回答は34.7%、「社外の場合のみ規制あり」が40.3%だった。また、電子媒体の資料をどのような方法で提供することが可能かを質問したところ、「メールに添付して提供することが可能」との回答が87.5%、次いで、「クラウド(BOX)にアップロードして提供することが可能」が59.7%となった。
この結果について中田氏は、「患者向け資材であってもMRからの電子媒体の提供にはリミテーションがある」と指摘する。どのような方法なら提供できるかを聞いたところ、「企業の75%が社内で規定された方法のみ許可されていた」と述べ、その方法も企業ごと様々で、「全ての企業にお願いすると、当該企業ができる形で対応をお願いしなければならない」など対応に苦慮しているとした。中田氏は、「電子化やDXは業務が変わることを目的としたもので、そこをなんとか(企業も)変えられないのか。もう少しなんとかならないか」と苦言を呈した。
◎会場参加者へのリアル調査 5割が「最新情報へのタイムラグ」を問題視

シンポジウムでは、電子的な医薬品情報の活用をめぐる課題で、会場参加者へのリアル調査結果を投影したディスカッションが行われた。「自施設の電子的な医薬品情報の活用について課題に感じていること」(複数回答)の設問に対しては、「電子カルテやレセコンからインタネットに接続できないため最新情報へのアクセスがしにくい」との回答が全体の30%、「情報が更新されているかどうかわかりにくい」が27%となり、回答者の5割が「最新情報へのタイムラグ」を問題視した。一方で、「スタッフ全体で情報の共有。活用が進んでいない」との回答も28%あった。
◎日薬連・佐藤氏「改訂情報の伝達は、適宜メールやPMDAのメディナビが主流」
日薬連・安全性委員会医薬品情報提供システム検討プロジェクトの佐藤めぐみ氏(MSD)は、「添付文書の改訂情報の伝達は、以前はMR経由で、紙で提供していたが、現在は適宜メールやPMDAのメディナビが主流になっている」と説明。このほか「マイ医薬品集作成サービス」の中で登録情報が更新されるとPMDAの方から自動的に配信されると説明。さらに、マイ医薬品集を使うと、過去版と最新版を比較することもできるとした。ただ、確実に病棟薬剤師まで最新情報が届いているかという質問に対しては、「まだ把握できていない面もある」と述べ、今後より良い方法などについて議論する必要性に同意した。
◎杏林大病院薬剤部・若林氏「MRに届けて欲しい情報だが、うまく伝わっていない」

杏林大学医学部付属病院薬剤部の若林進氏は、「これまでは添付文書の改定情報はMRが持ってきてくれたが、コロナを境にMRの訪問が減ってしまった。よって最新の情報が届かなくなっている」と指摘。「最新添付文書はPMDAから届いているものの、どこが改訂されたかといった情報がうまく伝わらなくなっている」と述べ、「MRに届けて欲しい情報であることは間違いないが、うまく伝わっていないということはある。やはり問題だ」と課題提起した。
これに対し日薬連の佐藤氏は、「情報を提供する製薬企業の立場としては、あくまで最新の情報を取り違いのないように確認いただきたいという考えのもと、最新版だけが表示されるようになっている」と説明。「過去版については正式な場所からはアクセスできないようになっている」と説明。PMDAのWebサイトにある電子添文の一括ダウンロードを活用頂くことも一考とした。また、添付文書以外のXML化については、インタビューフォームなどの2次利用の許諾も、今後一緒に検討していくことも可能なのではないかと提案した。