国立大学病院長会議 42国立大学病院の24年度経常損益マイナス285億円 経営悪化で事業継続の危機訴え
公開日時 2025/07/10 04:51

国立大学病院長会議は7月9日、全国42国立大学病院の2024年度経常損益が285億円のマイナスになったと発表した。収益面では対前年度比547億円の増収を確保したものの、費用は対前年度比772億円増加となり、特に経常損益は前年度実績のマイナス60億円から大幅に悪化した。記者会見に臨んだ大鳥精司会長(千葉大学医学部附属病院長)は経営悪化の要因は、「23年度途中のコロナ補助金の廃止、働き方改革対応による人件費増加、急激な物価高騰の影響」にあると強調。「大学病院として事業継続の危機」と警鐘を鳴らし、26年度診療報酬改定での点数引上げに加え、補正予算等での対応など国による早急な対応を求めた。
◎「移植手術を行うごとに病院経営にしわ寄せ」 肺移植は一症例当たり418万円の赤字
地域の高度医療を担う大学病院-。脳死下臓器移植の8割は大学病院で行われ、その件数も年々増加傾向にあるという。この日の記者会見には東京大学附属病院で実際に経験した事例として、「臓器移植34例中、32例が赤字で、1例当たり平均額は290万円に及ぶ」ことが報告された。大鳥会長は、「移植手術を行うごとに病院経営にしわ寄せがくる。臓器移植の中でも肺移植は一症例当たり418万円の赤字、やればやるだけ赤字になる」と強調した。
◎高額医薬品 管理と維持にかかる人件費は通常の医薬品に比べて「数倍かかる」
また近年増加する高額医薬品(10万円以上)の使用割合が大学病院では医薬品総費用の28.5%を占め、DPC対象病院の15.2%を大幅に上回ると指摘した。大鳥会長は、「高額医薬品は“管理”と“維持”にかかる人件費が通常の医薬品に比べて数倍かかる。例えば、高額薬剤を使う予定の患者さんが何らかの理由で使用できなくなると、全額が病院の持ち出しになる。よって使えば使うほど病院の経営を圧迫することになる」と窮状を訴えた。このほか経営悪化の要因の筆頭に位置づける人件費の高騰は深刻で、「2022年度までは限界利益(=病院収益ー医療費)で人件費等の固定費を賄ってきたが、23年度以降は賄えない状況が続いている」と強調した。
◎補正予算や次期診療報酬改定での対応求む 医育機関としての使命劣化を危惧する声も
記者会見に出席した大学病院長らが国への要望を含めてコメントした。大鳥会長は、「補正予算はもとより、次期診療報酬改定での対応」を求めた。東京科学大学病院の藤井靖久院長は、「耐用年数を過ぎた医療機器や画像診断機器を使い続ける状況。いつ壊れてもおかしくない」と強調した。長崎大学病院の尾﨑誠院長は、「大学病院が守るべき地域医療の地盤沈下を招くことになる。私は地域医療の問題と認識している。このほか大学法人全体の財政の圧迫による大学での高等教育に悪影響を及ぼす恐れがある」と述べ、研究資金の削減などの波及を警戒した。
筑波大学附属病院の平松祐司院長は、「診療だけでなく、研究や教育力の低下にも直結する問題だ。大学病院の使命である医者を育てる医育機関としての使命が劣化しつつある。非常に危機的で、その劣化が始まっていると私は思っている」と述べ、抜本的な手当を国に求めた。