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【FOCUS 米国COVID-19対策強化、シリコンバレー周辺事情】

公開日時 2020/03/17 04:51
WHOがパンデミック宣言を行った3月11日、トランプ大統領はホワイトハウスからの全米ライブ会見でCOVID-19対策強化のため、EU諸国(この時点では英国・アイルランドは除外)から米国への渡航を3月13日の午前0時から30日間差し止めると発表した。13日には「非常事態宣言」を出し、COVID-19対策に国をあげて取り組む姿勢を明らかにしたが、さらに英国とアイルランドからの渡航も16日から差止めると発表。EU諸国は強く反発している。実際、欧州航路はユナイテッド航空のビジネスの17%、デルタ航空の15%を占めており、渡航禁止は米国の航空業界へのインパクトも甚大だ。どこまで影響が及ぶか予測できない事態に12日ニューヨーク市場は下落。その後一旦持ち直したものの予断を許さない状況だ。(医療ジャーナリスト 西村由美子)

◎学校閉鎖で遠隔学習

大統領宣言への国内の反応は迅速であった。全米の名だたる大学の大半が春学期いっぱいキャンパスを閉鎖すると決定した。講義はオンラインで続行するも、学生には学生寮等からの全面退去を要請。急な退去命令に母国の感染状況の方が米国よりもひどい留学生は行き場をなくし、帰宅のための航空券が高くて買えない学生もおり、そもそも帰るべき家庭を持たない学生もいて、事態は深刻だ。

シリコンバレー周辺もカリフォルニア大学バークレー校・スタンフォード大学はじめサンフランシスコ・シティカレッジなどすべての高等教育機関が春学期いっぱいキャンパスを閉鎖。講義はオンラインで続行して単位を出す。

高校以下の学校についても私立学校は公立校に先立って閉鎖され、オンライン授業に移行している。公立学校については、サンフランシスコ周辺のほぼすべての公立学校(幼稚園から高校まで)が3月16日から閉鎖した。高校の一部は通達翌日の13日から閉鎖されているところもある。ただし公立校では学校閉鎖中の生徒の学習について手立てが整っていないところも多く、教職員が急ぎ対応を検討・準備中だ。

再開は春休み後の4月6日または13日からの予定だが、事態の収束状況を見て決定される予定である。これにより6歳から18歳までの義務教育学齢期の児童・生徒全員が約40日間にわたる自宅待機に入った。

◎在宅勤務・外出自粛でガラガラに

企業も同様の対応で、シリコンバレーのほぼすべての企業が可能な限りの在宅勤務を奨励。出張は言うに及ばず社内ミーティングも自粛、企業主催のイベントもキャンセルとなっている。加えて社員にはself-isolation(外出自粛・自宅待機)が要請されており、すでに先週から在宅勤務中というエンジニアは「在宅勤務に加えて外出も自粛。自宅に軟禁状態」と苦笑する。

実際、金曜日以降、常に渋滞していた高速道路も幹線道路も、まるで週末のようにガラガラ。オフィスビルの駐車場もからっぽ。喩えは悪いが、サブプライム不況以来の光景である。

◎エンタテイメントはキャンセル スーパーには買いだめの客が殺到

コンサート、芝居やミュージカル、プロ・スポーツはいずれもキャンセル(延期)。各種会員制クラブ、ゴルフ場のクラブハウス等も閉鎖した。子どもの体操教室や絵画教室はもとより、フィットネス・クラブ、ヨガのスタジオ等もほぼすべて閉鎖されている。周囲の視線がプレッシャーで、開けるに開けられないというのが実情だろう。

一日中若者が行き交うのが日常のサンフランシスコ市内も、グーグル城下町のマウンテンビュー市のダウンタウンも、いずれも人通りが激減。 映画館は開いているがガラガラ、レストランもバーもカフェも閑古鳥が泣き、数ヶ月先まで予約でいっぱいだった大人気の高級レストランがディスカウントのオファーを出しているほどだ。

逆に、客が集まっているのは大型量販店とスーパーマーケット。13日以降、普段は売り場の床に文字通り山積みになっているトイレットペーパーやボトル入りの飲料水等が、開店と同時に売り切れて売り場の床が見えるという騒ぎが繰り返されている。消毒薬等の棚も空っぽだ。スーパーマーケットでも、連日、開店直後に乾燥パスタ、缶詰のソースやスープ、冷凍食品等の保存食の売り場がほぼ空っぽになっている。

◎手指は徹底消毒 しかし、マスクはせず

医療機関のチェックも厳しい。カイザー・クリニックの入り口には看護師と警備員が立ち、訪問者に行き先を確認する。それと同時に、発熱の有無などをチェック・問診し、訪問者がその場で殺菌スプレーによる手指の消毒を済ませる。これがすべて確認されたうえで、初めて入館許可が出される。

マスクよりもむしろ手指の消毒を厳重にというCDCの啓発のためか、殺菌スプレーなどはドラッグストアでもアマゾンのオンライン・ショップでも売り切れ。自分用の消毒シートやスプレーを持ち歩いている人も多く、一般に手洗いや消毒に神経質ではないという印象のアメリカ人が、頻繁に手指を消毒している。

スーパーでレジに並んでいた男性が軽く咳払いをした途端、レジの職員が「口元をおおってください!」と注意。これまでは見かけたことのない光景だが、これはCDCの行動基準、すなわち咳やくしゃみの際には口元を覆うようにという手順に沿った行動である。咳やくしゃみの際には、肘の内側が口を覆うように腕全体で顔の下半分をカバーするというのが常識だ。

一方、医療専門職をのぞきマスクをかけている人は、ほとんどいない(実際には各地でマスクが売り切れているのが不思議であるが)。前述のカイザー・クリニックでもゲート・キーパー役の看護師2人はマスクをしていたが、隣に立つ警備員も、各診療科の事務員や看護師も、薬局の薬剤師もマスクなし。患者もマスクをかけていなかった。日本人には理解しにくい行動習慣だが、米国では「マスクをかけるのは病人」というのが常識で、マスクをしていると周囲から「感染者?」と疑われ、避けられるだけでなく白い目で見られるのが怖い、というわけである。

◎人類史上初の試み 医療も遠隔診療に

おとなも子どもも一斉に自宅待機。教育も仕事もリモート・ワーク。パンデミック対策の周知も啓発もネット経由。医療も可能な限りは遠隔診療で対応している。

各家庭からのネット接続が一斉に急増した12日以来、シリコンバレーではネット環境が不安定になっているというのが実感だ。キャリア各社からの正式発表はないが、アクセス増加にサービスのキャパシティが追いついていない印象だ。

人類史上初の意図的・自覚的(かつ国家的)なパンデミック・コントロールの試みに最新技術は果たしてどこまで貢献できるか?壮大な実験が進行中である。
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