【FOCUS 医療データが「患者中心の医療」を実現する AIが健康・医療をつなぐ社会構築の一端を担う】
公開日時 2024/01/09 04:52
医療・ヘルスケアデータをいかに使いこなせるか―。データそのものは無機質だが、目的をもってAI解析することで、新しい発想とビジネスが創造される。2024年はそんな時代の幕開けとなりそうだ。製薬産業も、革新的新薬の創出から開発、生産、上市後の各段階における研究目的のデータ応用が期待される。患者のインサイトをAIで解析し、個々の病状に見合う診断や検査の機会を迅速に創出する。医師も個々患者に最適な革新的新薬を選択し、患者は治療を継続することで日常生活を取り戻し、職場復帰を果たすこともできる。データが生み出すソリューションの活用で、健康・医療をつなぐ社会構築の一端を担うことになるわけだ。(ミクス編集長・沼田 佳之)
生成AIが大量のデータを解析することで、我々は短時間のうちに新たな仮説や事業計画の策定に役立てることができる。これまで“勘”に頼っていたものが、生成AIが患者や医療従事者の課題を抽出し、エビデンスベースで患者の受診機会を創出する。医師など医療従事者は、患者体験(顧客体験・カスタマーエクスペリエンス:CX)に基づく治療方針の決定や、ケアの最適化に関する情報を介助者や家族と共有し、患者の日常生活のサポートに役立てることもできる。まさにデータは医療の予見性を高め、患者自身の治療継続に対するモチベーションや治療満足度を向上する“バリューベース”の医療を実現することも役立つことになる。
ただ、忘れてならないのは、データが無機質なものであるということ。データは魔法の杖ではない。一方で、AIがあれば満足できる医療を実現できるわけでもない。データとAIをつなぐのはヒトであり、結果的にデータという“モノ”を、AIを使ってヒトが翻訳してソリューション化し、これをベースにアクションプランを策定する。少々分かりにくい表現となったが、大量データの解析をAIに任せ、ヒトはそのデータを使って顧客サービスを“コト化”する。これにより顧客の行動変容を予測し、迅速な経営判断を促し、アクションプランの最適化に役立てることができる。さらに言えば、これら意思決定までの時間を大幅に短縮できるだけでなく、リアルタイムな状況判断「変数」も同時にAIが解析することで、アウトプットされるレコメンド(指示)メッセージもより精度が高まるとみることもできる。
◎“モノ”から“コト”へ 「患者」を軸としたCX(カスタマーエクスペリエンス)を意識した活動
“モノ”から“コト”へという表現はすでに使い古された言葉であるが、医療データの利活用を取材すると、サプライチェーンすべてに共通するキーワードになると感じた。特に営業・マーケティング部門においては、これまで医師や薬剤師に対して行った適正使用情報の提供・収集をさらにブラッシュアップできるような期待感もある。
「患者」を軸としたCX(カスタマーエクスペリエンス)を意識した活動が大いに求められるだろう。医療データを研究目的で解析することで、治療前の患者をいかに迅速に治療に結び付けてあげられるか。薬物治療を開始した患者の治療継続に対するモチベーションをいかに高く維持できるか。さらに、患者の治療満足度をいかに向上できるかが製薬ビジネスの新たな指標に位置づけられる。もちろん、一連のデータ解析には、「地域軸・エリア軸」などの変数もインプットされるため、地域単位ごとの課題やニーズにもきめ細かく対応できる。
それぞれの視点で、その内容をソリューション化する。すでにAI問診や患者支援アプリ(ペーシェント・サポート・プログラム)などの開発が活発化しているが、データをAIが解析することで得られた新たな知見を活かし、患者の不安や悩みを少しでも取り除き、患者と医療者の良好な関係をサポートするようなソリューションの提供が求められる時代となる。MR活動においても、患者中心の医療を実現するには、こうした研究データの利活用を通じて導き出される結果の評価や、医師や医療者と共有するための手法やスキルが新たに求められるだろう。
◎製薬各社は医療データの正しい理解と活用を
患者・国民目線に立ったアプロ―チこそが医療者からMRが評価されるポイントになるだろう。製薬各社も医療データを意識したMR教育や研修プログラムの立案が求められるのではないだろうか。コロナ禍を経てデジタル社会が急速に進展する中で、製薬企業のビジネスモデルも革新的新薬の創出や品質の担保された医薬品の安定供給はもちろんのこと、患者・国民が健康で長生きできる社会の実現に寄与する取り組みが求められることは言うまでもない。医療データが患者中心の医療の扉を開く時代の幕開けとなることに期待したい。