聖マリ大・砂川主任教授 DCTは「治験の地域格差を解決する1つの道」 製薬企業との早期連携を訴える
公開日時 2023/05/09 04:48
聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座の砂川優主任教授は4月27日、MICIN主催のメディアセミナーで講演し、デジタルツールを活用した分散型臨床試験(DCT)について、「がん領域の治験で深刻な課題となっている地域格差を解決する1つの道だ」と強調した。そのうえでサテライト施設を含むDCT実施のポイントについては、「製薬企業側と、オンライン診療、遠隔でのeConsentを使用する場合の予約、支払いなど連携全般に関するオペレーションについての取り決めやサポート体制を明確にしておく必要がある」との見解を示した。
分散型臨床試験(DCT)は、治験に参加する被験者(患者)が医療機関を来院せず、スマートフォンやウェアラブル端末等のIoTを使って臨床試験を実施する手法。従来の臨床試験は、病院などに来院する手間がかかっていたが、デジタル端末を使うことで遠隔地であっても医療機関がデータを取得できるようになり、被験者の負担を減らすことができると期待される。
◎砂川主任教授「治験参加への地理的・物理的な障壁を生じている」
砂川主任教授は、近年は希少がんや遺伝子異常を伴う臓器横断型の治験が増える一方で、対象患者が少なく、治験実施施設が限定されるために、地方に居住する被験者にとって、「治験参加への地理的・物理的な障壁を生じている」と指摘した。その上で、「諦める患者」への解決手段の一つとしてDCTの可能性に言及。サテライト施設を含めたDCT立ち上げのポイントを紹介した。
具体的には、①サテライト施設の位置づけや担ってもらうプロセスを明確化する、②被験者に重篤や有害事象が起きた場合の連携方法の確立、③治験実施医療機関とサテライト施設のコミュニケーション体制の構築-などが重要になると指摘。加えて、「治験の多くが製薬企業ベースで行われるため、いかに製薬企業と折り合いをつけて進めていくか」が大切だとして、SMOやCRO、製薬企業、システムプロバイダーが日頃から良好な連携をとり、立ち上げ時の医療機関をサポートする体制を整えておく必要があるとも強調した。
◎「製薬企業と医療機関がプランニングの段階から重要なポイントを把握」
砂川主任教授はまた、「製薬企業と医療機関がプランニングの段階から重要なポイントを把握することで、連携すべきステークホルダーと協議が必要な内容が明確になる。これにより、立ち上げ機関の協議がスムーズとなり、タイムラインの大きな遅延が避けられ、有効な遠隔化座組みの実施が可能になる」と述べた。
◎MICIN・草間DCTユニット長 「遠隔同意」ガイダンスで「企業側もDCT向けた検討」に手応え
MICINの草間亮一オンライン医療事業部DCTユニット長は、厚労省の「遠隔同意」に関するガイダンス(3月30日付通知)について、「これにより、製薬企業側もDCT推進に向けた検討を進めている印象がある」と述べ、手ごたえを強調した。一方で複数企業から治験用システムがそれぞれ導入された場合、医療機関側の業務の非効率化につながる可能性があるなどの課題を指摘。分散型臨床試験(DCT)の日本での適切な普及を目指した産学官連携を推進する「準備委員会」を発足させたと報告した。すでに、シンクタンクや製薬企業、CROなど計11社が参加し、日本のDCT実装に向けた政策提言や導入促進の取組みを産学官連携で進めるという。
同社では、これまでもDCT推進のための産学連携活動を行っている。22年4月には、DCTの導入に必要なタスクリストや院内教育用資料などをまとめたスターターキットを作り、利用されていると紹介。今回このキットに新たに、実施可能なケースや配慮が必要なケースを判別できる基準や、サテライト施設との協業のヒントに関するリストなどを追加したと強調した。