オムロンヘルスケアとエムスリーは、家庭で記録した心電図を用いた医療相談サービスを開始すると発表した。３月５日に開かれた記者発表会で講演した杏林大医学部循環器内科学の副島京子教授は、自己検脈をして悪い値が出たにもかかわらず、そのまま放置する人も少なくないと指摘。「特に若い方はかかりつけ医を持っている人が少ないため、オンラインでの相談サービスなどを活用していくこともポイントの一つ。デジタルツールの積極的な活用は心房細動の早期発見・治療に寄与すると考えている」と話し、サービスの有用性を強調した。

両社が新たに提供するのは、家庭で手軽に心電図を記録できる心電計付き上腕式血圧計や携帯型心電計で記録した心電図データとエムスリーが提供する医療相談サービス「アスクドクターズ」を連携させた心房細動に関する医療相談サービス。

オムロンヘルスケアは無症状や発作型の心房細動の症状を捉えるため、2019年から家庭で心電図測定ができるデバイスやサービスを販売。記録した心電図の管理や印刷、メール送信ができるアプリ「オムロンコネクト」も提供している。一方、エムスリーはオンライン医療相談サービス「アスクドクターズ」や病院検索サイトを運営している。オムロンコネクトとアスクドクターズとの連携により、家庭で記録した心電図データをもとにオンラインでの医療相談につなげ、心房細動リスクが検出された後の速やかな受診をサポートする。

両社が保有する検索機能や疾病啓発コンテンツをもとに新たな医療機関検索システムを構築し、どこを受診してよいか分からない人のために近隣の循環器専門医療機関に紹介するという二段構えで、心房細動の早期受診・発見をめざしていくことを目指す。

オムロンヘルスケアが行ったアンケート調査によると心房細動の症状を感じても医療機関を受診した人は3割、オムロンコネクトで心房細動の可能性が指摘されても受診は半数以下にとどまっているという。

オムロンヘルスケアの循環器疾患事業統轄部心電・医療事業部の野崎大輔部長は、「血圧値のトレンドは50年前から徐々に低下している一方、脳血管疾患、心疾患の発症数は横ばい、もしくは微増している。血圧のコントロールだけではイベントを減らせないことはできない」と述べ、脳梗塞リスクの高い心房細動の早期発見・診断の重要性をあらためて強調した。

エムスリーコンシューマプロダクトグループの山口敬頼グループリーダーは、「オンラインの医療相談サービスでは、当社が有する医師会員の基盤を生かし、相談すると早ければ数分で複数医師から回答がくる。適切なアドバイスをもらった医師に追加で質問したりすることも可能だ」とアスクドクターズについて説明。その上で両者が保有するノウハウや人材を総動員した新サービスの開発に自信をのぞかせた。

◎正しい診断に心電図記録は必須

杏林大医学部循環器内科学の副島京子教授は心房細動のリスクについて脳卒中になるリスクが健常者の5倍、全体の死亡率は2倍に上がることを示した上で「心房細動で脳梗塞になる人は脳梗塞全体の3分の1。さらにその4分の1は心房細動であることを知らずに脳梗塞になったケース。つまり、心房細動だと分かっていて有効な予防や治療が行われていれば脳梗塞を防げた人たちだ」と指摘した。

一方、心房細動の症状はめまい、動悸、息切れ、頻尿など多種多様であるものの、症状がないケースも約半数を占めている。また症状があっても診断には頻回かつ長時間、心電図を記録する必要があるため、早期の診断はなかなか容易ではないという。こうした課題をブレークスルーする方法として副島氏も期待するのは、コンシューマデバイスといわれるデジタルツールの活用である。

「例えば、外来に来ていただいたときに心電図を測定するという形で判断していたが、発作性心房細動の場合、タイムリーに記録することが難しく、もちろん医師もそれでは十分ではないことは分かっていた。しかし今は自宅で心電図を長時間、自己検脈できるデジタルツールが数多く登場している。正しい診断には心電図記録が必須であり、自宅で計測した記録を外来に持ってきてもらうことは心房細動の診断や治療を行う上で非常に有効だ」（副島氏）と話す。

ただし、自己検脈をして悪い値が出たにもかかわらず、そのまま放置する人も少なくないという。「どこに受診していいか分からない人が多い。特に若い方はかかりつけ医を持っている人が少ないため、オンラインでの相談サービスなどを活用していくこともポイントの一つ。デジタルツールの積極的な活用は心房細動の早期発見・治療に寄与すると考えている」と副島氏は強調した。