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協和キリン ネスプ臨床研究問題で社外調査委「公競規違反の可能性強い」 営業本部長辞任へ

公開日時 2014/07/14 03:52

協和発酵キリンは7月11日、腎性貧血治療薬・ネスプ(一般名:ダルベポエチンアルファ)の医師主導臨床研究をめぐり、同社MRらの不適切な関与が指摘された問題で、労務提供や奨学寄附金の提供について「公正競争規約(公競規)第3条に違反する景品類の提供にあたる疑いが強い」とした社外調査委員会の最終報告をホームページ上で発表した。一方で、薬事法や個人情報保護法違反はなかったとした。この問題をめぐり、問題を認識しながらも約7か月間営業本部以外の経営陣と情報共有しなかったことが指摘された取締役常務執行役員の西野文博営業本部長が7月31日付で辞任するほか、研究にかかわった7名の社員が処分を受けた。


研究は、徳洲会札幌東徳洲会病院で、血液浄化センター長兼腎臓内科部長が実施した「維持血液透析患者における持続型赤血球造血刺激因子製剤(ESA)による腎性貧血改善効果とhepcidin isoformに関する臨床的検討」。同研究については、被験者数などのプロトコル違反が明るみとなり、同院が緊急専門倫理委員会を設置し、調査する中で、協和発酵キリンの同研究への不適切な関与が判明した。調査では、院内倫理委員会(IRB)で臨床研究実施の承認が下りる前に患者の同意取得、検体採取がなされていたことも明らかになっている。


調査は、担当MR、学術担当、札幌支店腎専任営業所長、札幌支店長、札幌支店渉外倫理室マネージャー、本社渉外倫理室長、営業本部営業統括部長、取締役・営業本部長など10名のメール記録などを調査したほか、代表取締役社長を含めた幹部から合計34回のヒアリングを行った。


◎販促目的の臨床研究支援 公競規違反誘発の構造的原因に


同問題が起きた背景として報告書では、①ESA市場における熾烈な競争環境と、小規模臨床研究を利用した営業戦略②社内ルールの不明確さ、建て前的運用など法令遵守体制の脆弱性③臨床研究への関与に関する社会規範の不明確性及び製薬・医療界の慣行―があったと指摘した。


医師への臨床研究の提案は、ネスプ発売当時から販促の一貫に位置づけられており、「医師の研究ニーズを刺激するような情報提供と積極的な資金的・労務的サポートを通じて医師側の研究負担を軽減することにより、切り替え研究の採用を働きかけていた」とした。2014年初頭に策定された販売戦略でも学会での1000症例程度の切替え研究の発表が目標とされ、14年4月時点で進行中の74件の臨床研究のうち、「切替えを促進する内容が相当数あった」。


報告書では、こうした販促目的での臨床研究支援が「本質において処方誘因性を強く帯びていることから、公競規違反を誘発する構造的な危険性があると指摘せざるを得ない」とした。


公競規に抵触する可能性としては、労務提供と奨学寄附金の提供について言及。労務提供については、▽MRがプロトコルの主要部分を作成、データの整理・集約をサポートした▽学術担当がデータ解析の一部を担っていた――ことから、「組織的かつ継続的な労務提供が行われていた実態が見受けられる」と指摘。さらに医師がパソコンを扱えず、MRが頻繁に資料作成を行っていることや、これら業務について研究開始当初から労務提供が想定されていたことなどから、「軽微な労務提供であったと見るのは相当ではない」とした。


奨学寄附金については、同院付属臨床研究センターに2012年12月に50万円が提供されているが、使途をMRと医師の間で事前に取り決め、臨床研究センターも把握していたことなどから、「実質的には医師の自主研究に対し、その費用を賄うものとして提供された」と指摘。同研究が薬剤の切り替えを前提とされたネスプの販促手段であったことや、医師に処方の決定権があったことなどから、「従前のESAがネスプに切り替えられる可能性が相当高かったと認められる」とした。


医師側にとってもこれらの資金的・労務的支援を当初から期待していた可能性が高く、「これらの存在がネスプへの切り替えを前提とする臨床研究の実施に当たって重要な判断材料となった可能性が高い」とした。その上で、「製薬企業の業界における“正常な商習慣に照らして適当と認められる範囲”を超えたものと評価すべきと考えられ、公競規第3条に違反する景品類の提供にあたる疑いが強い」とした。なお、同社は、公取協に7月10日にこの報告を行っている。


報告書では、これらの労務提供などの問題について、同社社内ルールに定められた建て前と実態に大きなかい離があったことも指摘した。社内ルールでは、奨学寄附金の使途を限定する“紐付き寄付金”の禁止やデータ解析が禁止されていた一方で、「営業現場では一定の労務提供は書面などの正式な記録に残さない形で事実上容認されていた」とした。実際、問題となったMRは「“軽微なものは他のMRもやっている”、“みんなやっているから問題とならないだろう”という安易な横並び意識に加え、“(ルール遵守よりも)上手くやれ”という社内の雰囲気があったと述べている」。


◎薬事法、個人情報保護法違反は認められず


薬事法の誇大広告については、①合計30症例117検体のヘプシジン値等の測定が行われたが、いずれも完遂されなかった②担当MRや学術担当が取得・解析したデータが改ざんした事実や改ざんを疑わせる事実が認められなかった―とした。その上で、論文の公表や広告資材等にも利用されなかったことなどから薬事法違反には当たらないとした。副作用の報告義務については、研究中に重篤な有害事象は11例21件認められたが、MRは病院側から連絡を受けておらず、認識もしていなかったと供述していることなどから、「有害事象を認識していたとはいえず、薬事法上の報告義務を負っていたとは認められない」とした。


MRが患者氏名、IDが記載された資料を入手していたことから、個人情報保護法違反も懸念されたが、MR自らは患者を特定できない形での測定結果を受領する予定だったことなどから、17条に規定された“偽りその他の不正の手段”には該当せず、違反しないとした。ただし、MRと学術担当が情報共有していた実態を問題視。「道義的非難のレベルは相当厳しくあってしかるべき」とした。一方で、MRに患者の同意を得ずに情報提供を行った医師については、個人情報保護法違反に該当することも明記された。
 

◎西野営業本部長 取引先との悪化懸念で社内情報共有せず


同問題では、西野営業本部長ら経営陣の責任も問われた。調査報告では、西野営業本部長が2013年8月から14年4月までの約7か月間、営業本部以外の経営陣に情報共有せず、対応の遅れを招いたことが問題視された。西野営業本部長は、13年8月に病院側が共同臨床研究について調査を開始、9月中旬に外部機関による監査が開始されることを認識。さらに、遅くとも同年12月20日以降は厚労省に同問題が報告される可能性があることを認識していた。同氏は、この問題を社内共有化し、病院側よりも先に厚労省へ問題を報告することで病院側に迷惑がかかり、結果として取引先である同院との関係が悪化することを懸念。事態の推移を見守る受け身の対応をとったとした。


ただ、事態が問題視された13年後半から14年4月は医師主導臨床研究が社会問題化していた時期であったことから、「過渡期にある業界の危機意識が十分社内に浸透していたとはいえず、結果として会社としての対応の遅れの一因になったものと認められる」と指摘した。その上で、社内の情報共有を怠った西野営業本部長の対応は「適切性を欠いたものといわざるを得ない」とした。


西野営業本部長は同社が問題を把握し、対策本部を立ち上げた4月下旬に辞意を表明しており、一身上の都合により退職する。


◎プロモーション活動の在り方見直しへ


同社は、この問題を踏まえ、▽奨学寄附金の管理体制の整備、▽コンプライアンス遵守を監視する渉外倫理室を社長直轄の体制とする、▽MR活動を文献紹介による情報提供とする―などの対策をすでに実施。今後は、▽透明性の高い奨学寄附金の審査プロセスの構築、▽社内ルールの見直し・周知徹底、▽渉外倫理室、CSR推進部によるチェック機構を医師主導臨床研究だけでなく原稿執筆料や講演料まで拡大・強化、管理体制の整備、▽マーケティング部門も含めたプロモーション活動の見直し――を行うとしており、8月に予定される取締役会で付議される予定という。
 

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