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広重の「東海道五十三次」には手本となった絵があった

公開日時 2010/04/14 04:00

 

定説への挑戦

 

MRが、長らく定説とされてきたMR活動のあり方に異議を呈するには、勇気が必要である。しかし、仕事であれ、趣味の世界であれ、定説への挑戦が知的興奮を呼び起こすことは間違いない。

 

広重の秘密

 

古き日本への郷愁をかき立てる、あの歌川(安藤)広重の浮世絵「東海道五十三次」が、広重のオリジナルではなく、広重より50年前の画家・司馬江漢(こうかん)の画集「春波楼画譜」を手本にして描かれたものだ、と突然言われて、素直に納得する日本人がいるだろうか。

広重「東海道五十三次」の秘密――新発見、その元絵は司馬江漢だった』(對中如雲著、NON BOOK・祥伝社)の内容は、緊迫感に満ちている。著者の主張を打ち破ろうとする読者にとっては、かなり手強い本である。

己の主張に対する著者の自信のほどは、広重の絵55枚(出発点の日本橋+53次+終点の京都)を下段に、それぞれに対応する江漢の絵55枚を上段に並べて、比較検討を徹底的に
行っていることに見てとれる。しかも、これら110枚全てがカラーなのだから、浮世絵に興味を持っている者には堪えられない。

著者の検証は緻密で多岐に亘るが、その主張は3点――①両者の絵がこれほどよく似ているのは偶然とは言えない、②江漢が亡くなったのが1818年、広重の「東海道五十三次」が刊行されたのが1833年だから、江漢の方が広重の絵を手本にしたという考え方は成り立たない、③広重は東海道を旅したことがないから、手本無しに「東海道五十三次」を描くことはできない――に要約することができる。

だからといって、著者が広重の行為を盗作だと非難しているわけではない。浮世絵制作は、絵師の描いた絵を元にして彫師(ほりし)が版木を彫り、それを摺師(すりし)が版画作品として最終的に仕上げていく共同作業であり、絵師が他人の絵を手本にして絵を描くことは当時の常識であったからである。

著者は、広重が東海道を歩いていない以上、風景画家としての才能ではなく、類稀なグラフィック・デザイナーとして評価されるべきだと述べている。広重の手によって、より親しみ易く、ユーモアたっぷりに、そして、版画の特性を生かしてアレンジされた「東海道五十三次」は、当時の庶民のガイドブックとして人気を博し、ゴッホやピカソらに大きな影響を与え、今なお私たちを魅了してやまないのである。

 

弥次・北の旅

 

江戸時代に広く愛好されたガイドブックといえば、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』も忘れるわけにはいかない。ご存じのように、江戸・神田八丁堀(現在の神田駅のすぐ南の今川橋交差点の辺り)の町人・弥次郎兵衛、北八を主人公にした、軽妙な会話体の東海道旅行記である。これが庶民に熱狂的に支持され、売れに売れたため途中で止められなくなり、1802年の初編刊行から完結まで実に20年を要したのである。

確かに、会話体のせいか意外に読み易く、一九自筆の挿し絵もユーモラスなのだが、弥次・北の度の過ぎた悪ふざけには現代人のほとんどが眉をひそめることだろう。そこで、お勧めしたいのが『「東海道中膝栗毛」を旅しよう』(田辺聖子著、講談社文庫。出版元品切れ)である。著者自身が弥次・北の旅の跡を辿り、名所旧跡を訪ね、土地の名物を味わうという趣向になっている。時に応じて一九の『東海道中膝栗毛』が引用され、田辺聖子一流の楽しめる旅行記に仕上がっている。

 

頼朝の顔

 

源頼朝像――沈黙の肖像画』(米倉迪夫著、平凡社ライブラリー)の内容は、非常に刺激的である。日本史の教科書には必ず載っている、あの有名な源頼朝画像に描かれているのは、実は頼朝ではなく、足利尊氏の弟・直義(ただよし)だと、著者が主張しているからである。それでは、頼朝はどんな顔をしていたのだろうか。この問題も含め、著者の検証は見事で、説得力がある。

 


株式会社ファーマネットワーク
榎戸 誠

 

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