【WSCリポート】ファクターⅩa阻害剤、直接トロンビン阻害剤など 心房細動患者の脳卒中発症抑制でどの薬剤を選択すべきか?
公開日時 2010/10/14 06:01
心房細動患者の脳卒中発症抑制に際し、どの薬剤を選択すべきか――。ファクターⅩa阻害剤や直接トロンビン阻害剤など、新薬の上市が相次ぐことが予測される中で、多くの臨床医が抱く悩みと言えそうだ。韓国・ソウルで開催されている第7回世界脳卒中学会で10月13日に開かれたセッション「Teaching Course」の中で、独・University Hospital Essen神経内科教授のHans-Christoph Diener氏が、自身の考えとしてハイリスク患者にはダビガトラン150mg1日2回投与が望ましいとの考えを示した。(韓国・ソウル発 望月英梨)
European Stroke Organisation(欧州脳卒中機構、ESO)のガイドラインでは、心房細動患者について、75歳以上または75歳未満で動脈硬化性のリスクファクター(危険因子)を持つ人はワルファリン(INR:2.0~3.0)、動脈硬化性リスクのない65~75歳の患者ではアスピリンまたはワルファリン(INR:2.0~3.0)、動脈硬化性リスクのない65歳未満の患者ではアスピリンが推奨されている。
一方、AHA(米国心臓協会)とASA(米国脳卒中協会)のガイドラインでは、発作性/持続性心房細動患者で虚血性脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)の既往がある患者では、用量調整したワルファリン(INR:2.0~3,0)が推奨されている。ワルファリンが投与できない症例については、アスピリン325mg/日が推奨されている。
◎ファクターⅩa阻害剤、直接トロンビン阻害剤の利点とは
アスピリンを上回る有効性が明らかになっているワルファリンだが、必要な人の半数しか投与されていないのが現状だ。Diener氏は、この背景として、ビタミンKが含まれる食品としてキャベツやブロッコリーなど野菜が多いことを指摘した。欧州では野菜の摂取が比較的多いことや、日本ではダイエットのために野菜を摂取していると聞いたことなどを紹介し、「患者がワルファリンの摂取を嫌う」とした。
その上で、ファクターⅩa阻害剤と直接トロンビン阻害剤の新薬について、①選択性が高い②効果と安全性のバランスが良い③モニタリングや用量調節の必要性がない④効果発現までの時間が短い⑤薬物相互作用が少ない⑥食物との相互作用がない――と利点を挙げ、期待感を示した。
中でも、Diener氏は、大規模臨床試験が進行中または終了したファクターⅩa阻害剤であるリバロキサバン、アピキサバン、直接トロンビン阻害剤としてダビガトランの3剤を紹介した。
リバロキサバンは、約1万4000人を対象とした「ROCKET-AF」試験がすでに終了し、もう1本の臨床第3相試験(P3)が進行中とした。
アピキサバンについては、「AVERROES」試験が終了し、約1万5000人を対象とした「ARISTOTLE」が追跡期間中であるとした。Diener氏はAVERROES試験の結果を紹介し、「アピキサバンは、ビタミンK拮抗剤(ワルファリン)が投与できない患者に対するアスピリンに比べ治療効果が優った」と説明した。ただし、大出血のリスクについてはアスピリンと同等であるとした。
ダビガトランについては、1万8113人を対象にした「RE-LY」試験の結果を紹介し、「ダビガトランは、低用量(110mg1日2回投与)で、少なくともワルファリンとの効果は同等で、高用量(150mg1日2回投与)でワルファリンを上回る」とした。一方、安全性については、出血リスクが低用量群ではワルファリンよりも低く、高用量群では同等とした。懸念された頭蓋内出血のリスクも低いと強調した。そのほか、用量調節やモニタリングの必要性がないことも利点とした。
Diener氏は、これらの試験結果を踏まえた上で、心房細動患者の2次予防に際し、「TIAや脳卒中のハイリスク患者には、ダビガトラン150mg1日2回投与が望ましい」との考えを表明。その上で、「ワルファリン(INR:2.0~3.0)とアピキサバンも良い選択肢」と述べた。