AZの新CEO 大方のアナリストは歓迎の意向
公開日時 2012/10/12 04:00
英アストラゼネカ(AZ)は8月28日、スイス・ロシュのCOO(最高執行責任者)兼医薬品事業部長のPascal Soriot氏を同社CEOとして引き抜き、10月1日から就任させると発表した。欧米メディアの報道では、大方の証券アナリストらの同氏への評価は高く、同氏のAZでの手腕に期待を寄せているようだ。
いうまでもなく、AZは近年業績が低迷、大規模リストラを断行中のうえに、同社主力品が相次いで特許切れを迎えるため、R&Dパイプラインの建て直しや売上減を食い止めることが喫緊の課題となっている。 統合失調症治療薬セロクエルは2011年売上53億ドルに達し、同社2番目の売上を誇るが、米国特許は今年3月に満了となった。また、消化器潰瘍治療薬ネキシウムは売上50億ドルで売上3番目だが、この特許も2014年には切れる。売上トップの高脂血症薬クレストールは57億ドルに達し、特許切れは2016年とやや余裕はあるものの、ファイザーのリピトールの特許が切れ、そのジェネリック医薬品が出回っているために、厳しい競争にさらされている。
AZの2012年上半期決算では、売上は対前年比16%減の140億900万ドル、営業利益は37%減の40億2800万ドル、純利益は35%減の32億6000万ドルとなり、すでに主力品特許切れの影響がうかがわれる。そのような状況にまだ有効な手が打てず、6月にはDavid Brennan CEOが業績低迷の責任をとった格好で退任、CEO代理にSimon Lowth CFO (最高財務責任者)が就任した。AZでは、常任のCEOを内外で物色していたところ、ロシュのSoriot氏に白羽の矢を立てた。
Soriot氏はフランス人で獣医師。53歳。1986年ルセルユクラフ(現サノフィ)入社。その後、ヘキスト、マリオンルセル、アベンティスなどを経て、2006年ロシュ入社。ロシュでは、468億ドルという高い買収金額をマークした米ジェネンテクの買収に活躍、それが、今日の同氏の業界内での高い評価を形作った。2009年ジェネンテクCEOに就任。2010年ロシュ医薬品事業部長に就任。同氏がジェネンテクを買収することにより、バイオ、抗体医薬に強いロシュを築き上げたとの声も高い。
米ブルームバーグ通信の取材に応じた英Cenkos SecuritiesのNavid Malik氏は、AZが競合他社に比べ、バイオで後れを取ったと指摘したうえで、「新CEOは、(それを補填するために)より積極的な買収やライセンシングを行うと思う」とブレナン前CEOが大規模な買収を避ける方針だったが、方針転換を図るのではないかと見ている。
さらにMalik氏は、「Soriot氏の就任は、AZが、急成長するバイオ医薬品へ大きく関与する兆し」とバイオに弱いAZで、ジェネンテクでふるった手腕の発揮に期待感を示すと同時に、「大きな特許切れに直面し、売上を伸ばすために上向きの努力を早急にしなければならない」と業績回復への迅速な対応を求めた。
スイスのVontobel証券のアナリスト、Andrew Weiss氏は、ロイター通信に対して、Soriot氏がロシュ入社前にサノフィの前身会社で吸収合併を幾度も経験してきたことを指摘、「ビジネスの統合や再編において、今後のAZにとって価値のある貴重な見識を持っている」とAZ企業再編への同氏の舵取りへの期待感を示した。
英BarclayのMark Purcell氏は、「Soriot氏は、ジェネンテク統合の際に重要な役割を果たしたが、その面で経営と実践に貴重な見識を持っている」と評価、さらに「同氏は、ヘキスト、アベンティスなどでは糖尿病領域にも精通、その面では最近AZがブリストルマイヤーズと折半で買収した、糖尿病に特化したAmylinの運営にも役立つ」と話した。
現段階では、Soriot氏のAZ建て直しへの期待感一色というところだが、MalikおよびPurcell氏ともに、AZ建て直しにはSoriot氏が適任という点を強調しながらも、「それだけでは十分ではない」と指摘、適切な経営戦略の策定を求めた。
Soriot氏は、AZが8月28日発表したリリースで、「医薬品業界およびAZが直面している課題は誰の目にも明らかである」と指摘、そのうえで、問題解決に向かって、「AZには戦略を確実に実行する力がある」と述べ、AZのリソースをフルに活用、CEOとしての責任を果たすとの意欲を示した。
一方、ロシュは、Soriot氏の後任にロシュダイアグノスティクスのDaniel O’day COOが就任する。AZの今後の動向も当然目が離せないが、ロシュもSoriot氏が去ったあと、従来通りのビジネスを展開できるか興味は尽きない。