【ACC.13速報】PRATO-ACS 早期の高用量ロスバスタチン追加投与で造影剤腎症の発生を抑制
公開日時 2013/03/12 05:00
経皮的冠動脈形成術(PCI)施行時などで懸念される造影剤腎症。造影剤腎症を予防する上で、通常の水分補給やN-アセチルシステインの投与に加 え、早期からロスバスタチン高用量を投与することで、発生率を抑制できる可能性が示唆された。また、ロスバスタチンの追加投与により、有害事象の発生率も 低下することも示された。「PRATO-ACS(Protective effect of Rosuvastatin and Antiplatelet Therapy On contrast-induced acute kidney injury and myocardial damage in patients with Acute Coronary Syndrome)」の結果から分かった。3月9~11日の日程で米国・サンフランシスコで開催されている米国心臓学会議(ACC.13)で、10日に開 かれた「Late-breaking Clinical Trials」で、PRATO-ACS Investigatorsを代表してAnna Toso氏が報告した。
スタチンは、脂質低下に加え、抗酸化作用、抗炎症作用、抗血栓作用など多面的な(プレイオトロピック)効果による、内皮機能の改善と酸化ストレスを減少に より、腎保護効果があることが期待されている。一方で、腎保護効果があるスタチンの種類と用量、投与タイミング、対象などは明確になっていないのが現状 だ。
そこで、試験は、スタチンの投与経験がない、侵襲的治療が予定されている非ST上昇型急性冠症候群(ACS)患者を対象に、標準的な予防的治療(水分補 給、アセチルシステインの投与)に、親水性スタチンであるロスバスタチン高用量を初期から追加投与することで、造影剤による高度の急性腎機能障害 (Contrast-Induced Acute Kidney Injury:CI-AKI)を予防できるか検討する目的で実施された。
対象は、救急ユニット(CCU)へ入院した、スタチンの投与経験がない非ST上昇型ACSで、早期の侵襲的治療が計画されている患者543例。CCU入院 後24時間以内に造影剤を投与し、72時間後にCI-AKIか判定した。全ての症例は、冠動脈造影法を行い、必要に応じてPCIを行うとした。治療は、水 分補給やN-アセチルシステインの投与など、標準的なC-AKIの予防的治療効果を行い、①ロスバスタチン群(loading dose(負荷投与量)で40mg投与後20mg/日投与)②コントロール群(退院時にアトルバスタチン40mg投与)――の2群にランダムに割り付け た。なお、抗血小板療法は、アスピリン(loading dose:300mg、維持用量:100mg/日)、クロピドグレル(loading dose:600mg、150mg/日→退院)、退院時はクロピドグレル75mg/日、アスピリン100mg/日を投与した。主要評価項目は、腎機能障害 の進展で、クレアチニン(Cr)≥0.5mg/dL または72時間以内の露光コントラストが≥25%とした。試験期間は2010年7月~12年8月ま で。
解析対象は、ロスバスタチン群、コントロール群ともに252例。ベースラインの患者背景は、年齢がロスバスタチン群66.2±12.4歳、コントロール群 で66.1±13.5歳、非ST上昇型心筋梗塞はロスバスタチン群92.4%、コントロール群92.1%、不安定狭心症はロスバスタチン群7.5%、コン トロール群7.9%、ClCr<60mL/minがロスバスタチン群41.7%、コントロール群41.7%、ClCrはロスバスタチン群 69.9±24.4ml/min、コントロール群69.3±24.8ml/minだった。ランダム化から対比までの時間はロスバスチン群 22.5(14-43)時間、コントロール群で23(15-45.5)時間、造影剤の投与量はロスバスタチン群149.7±86.8ml、コントロール群 138.2±77.8ml、CI-AKI Mehranリスクスコア(中央値)はロスバスタチン群3(1-6)、コントロール群2(1-5)だった。
主要評価項目の発生率は、コントロール群の15.1%に対し、ロスバスタチン群では6.7%で有意に低かった(OR:0.41、 95%CI:0.22-0.74、P=0.01)。性差、年齢、糖尿病、高血圧、LDL-C、左室駆出率(LVEF)、造影剤の投与量、CI-AKIリス クスコアで調整した結果、調整オッズ比は0.38(95%CI:0.20-0.71)で、治療必要数(NNT)は12だった。CI-AKIの診断基準によ る大きな差はみられなかった。また、CI-AKIは、急性腎障害として▽48時間以内のCr≥25%または≥0.5mg/dL▽48時間以内の Cr≥0.3mg/dL▽72時間以内のCr≥0.5mg/dL▽72時間以内のCr≥0.3mg/dL▽72時間以内のeGFR≥25%――と定義され ることがあるが、それに応じて解析しても同様の傾向を示した。
一方で、有害事象はコントロール群の7.9%に対し、ロスバスタチン群では3.6%で、ロスバスタチン群で有意に少なかった(p=0.036)。持続的腎 障害はコントロール群4.8%、ロスバスタチン群2%(p=0.15)、透析はコントロール群0.8%、ロスバスタチン群0%(p=0.50)、心筋梗塞 がコントロール群2%、ロスバスタチン群0.8%(p=0.45)、死亡はコントロール群1.2%、ロスバスタチン群0.8%(p=0.90)、脳卒中の 発生は両群ともにみられなかった。
◎Toss氏「侵襲的治療予定の非ST上昇型ACS患者には入院時に高用量スタチン投与を」
これらの結果から、Toso氏は「早期の侵襲的治療が予定されている非ST上昇型ACS患者で、スタチンnaïveの患者に対するロスバスタチン高用量投 与は、CI-AKIに対し、追加的な予防効果を発揮した」と説明。「短期的な治療成績改善にも関連した」との見解を示し、これらの患者では「入院時に高用 量のスタチンを投与すべき」との考えを示した。また、「造影剤投与後の腎障害を減らすためにも、いずれの症例でも血管造影検査より先に投与すべき」との見 解を示した。
【ACC.13取材】望月英梨 取材協力:医学ライター・リポーター 中西美荷