精神科での患者・医療者との共同意思決定 積極的な治療参画を示唆
公開日時 2019/12/13 04:50
大日本住友製薬は12月11日、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の山口創生氏を招いて、精神科における共同意思決定(SDM:Share Decision Making)に関するプレスセミナーを開催した。山口氏は、医療者と患者のSDMを推進していく方策として、精神疾患の経験者であるピアサポーターとの協働によるシステムを紹介。また、SDMに取り組むことによって医師と患者の関係性やコミュニケーションの向上が得られたとの研究結果を明らかにし、患者の積極的な治療参画や治療継続に有用であることを示した。
◎「パーソナル・リカバリー」実現で共同意思決定にスポット
共同意思決定(SDM)とは、文字通り「利用者と医師が共同して、治療内容についての意思を確認し、決定すること」。医療現場では、患者の知る権利としてインフォームド・コンセント(IC)が広く定着しているものの、近年では形骸化や、医療者を守るリスクマネジメントとして利用される場合があるとの印象を持たれている。
一方、精神科領域では、地域での療養環境の整備や薬物療法の発展で臨床的な回復が向上するに伴い、患者の「パーソナル・リカバリー」が重視されるようになってきた。パーソナル・リカバリーとは、病気による制限がありながらも、人生の意味や目的を見いだし、希望にあふれた生活や充実した人生を送る方法と定義される。
山口氏は、パーソナル・リカバリーを実現していくために、ICに代わって医療者と患者で適切な治療をみつけるプロセスのSDMが必要になる旨を強調。そのプロセスにおいて「両者が対等な関係性を築いたうえで、治療における患者の主体的かつ社会的ゴールを共有していくことが最も重要である」と述べた。
◎通常ケア群との比較で主治医への信頼度とコミュニケーションの質が向上
とはいえ、医師によるSDMの実践はすぐには容易ではない。そのため山口氏は、精神疾患やその治療を経験して患者と同じ目線で寄り添えるピアサポーター、および治療目的や相談したいことを整理する診察準備アプリ「SHARE」を活用し、診察場面でSDMが実施できるよう医師と患者の双方に働きかけるシステムを構築。このSDMシステムを利用した患者群と通常ケアの患者群を6カ月間追跡調査した結果、「患者からみた主治医への信頼度」と「コミュニケーション内容(会話内容のスコア化)」は通常ケア群で低下する半面、SDM群では有意に向上していることがわかった。
一方で症状改善など治療効果について有意差は出なかった。山口氏は「半年という追跡期間の問題かもしれない。長期的には医師との関係性がいいと症状改善につながるというエビデンスがある」と説明。そのうえで臨床効果よりも、まずは就労など社会的な治療ゴールを共有し、治療を支援していくといった倫理的側面が重要と位置づけた。
また、同セミナーでは現職のピアサポーターも登壇したが、やりがいとして挙げたのは「利用者の強みや、やりたいことが見えてくること」。患者の声に耳を傾け、寄り添うことで医療者と患者の関係性が良好になり、治療継続にも影響するとの考えから、山口氏らは精神科領域におけるピアサポーターの積極的な活用を訴えた。