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【緊急寄稿 米ミシガン発現地レポート Part3】大規模災害宣言発令 感染者のデトロイト集中の背景

公開日時 2020/04/07 04:51
米国在住 ヘルスケアビジネスコンサルタント
MRG Associates, Inc. 代表取締役社長
森永 知美


◎大規模災害宣言の発令

「まさか、自分が感染するとは思ってもいなかった」、「こんな田舎までやってくるとはねえ・・・」-。ウイルスが感染する人を選んだり、ここまでが県境だからここから向こうに行くのはよそう、などと考えてくれたらどんなに楽か。我々が戦っている相手は貪欲で容赦なく、自らの生き残りと繁栄のため、我々の身体を無差別に都合よく利用し、蝕んでいく。特に今回のコロナウイルスは人間の弱点をよく見抜いている賢い相手だ。最初のうちは症状を出さないようにしたり、人によっては軽症で済むようにしたりすることで、広範囲に一人でも多くの人に感染させる。したたか、としか言いようがない巧妙な手口だ。自分の欲望を抑えられない人間は、そうした意図に踊らされていることに気付かず、何だかんだと言い訳を作っては動き回り、ウイルスをまき散らす。その先で、お年寄りや免疫力が弱っている人など死亡リスクの高い人たちが感染してしまうというのに。

シニカルな話はこのくらいにして、ミシガンの感染者は無情にも増え続けている。その数は前日から約1100人増えて7615人、死亡者は259人(3月31日時点)。それでもまだ増加のピークは来ていないという。感染者のうち約3割近くがデトロイト市に集中しており、全米でもホットスポットの一つとして、その動向に細心の注意が向けられている。州政府は26日、連邦政府に対し大規模災害宣言(Major Disaster Declaration)の発令を要請し、これに対しトランプ大統領は28日要請を承認した。

この宣言は、緊急事態に対する州政府の対応能力が限界であると州知事が判断した場合に要請できるもので、同宣言を大統領が発令したということは、COVID-19パンデミックによる州の被害が連邦政府の支援を必要とするほど甚大であると認定したことになる。これにより州政府は、連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency、FEMA)の支援プログラムに入れるほか、失業保険支援や災害時栄養支援プログラム、危機カウンセリングプログラム、救急医療体制強化に対する財政支援を得られるようになった。このほか、住宅支援や食糧支援など、感染拡大による損害から回復するために必要な様々な取り組みに対する支援を、連邦政府から取り付けられるよう交渉している。

◎病院の負荷調整プランの開始 国際モーターショーをキャンセル、会場に臨時病院を設営

宣言を受けてFEMAは早速、6月デトロイトで開催予定だった国際モーターショー(North American International Auto Show)をキャンセルし、その会場である国際展示場を向こう最低6カ月間、臨時病院として転用することを決定した。また州政府は25日、特にデトロイト市を中心とした州南東で多くの医療施設がほぼキャパシティーに達していることから、この現状を打開するための措置として州全体で病院負荷を調整するプランを施行すると発表した。州南東以外の地域にある病院にベッド数の10%を提供してもらい、満床になりそうな病院からの患者を受け入れてもらうというものだ。申し出のあった病院との患者移送プロセスが進んでいる。

◎デトロイト市に感染者が集中する理由は何か

なぜデトロイト市に感染患者が集中しているのか。同市の人口は約67万2千人で州人口の7%でしかない。その原因については、状況が極めて激しく変化する現段階では解明が難しく、またデータも十分ではないと専門家は指摘する。州政府は毎日、カウンティ―ごとの感染者数と死亡者数、性別と年齢層による内訳、検査数を公表しているが、入院患者の数や人種、基礎疾患などの情報は明らかにしていない。何か糸口はないものかと調べていくと、デトロイト市民の貧困と健康状態の関連性を推測するものがあったので、少しデータを探ってみた。

デトロイト市は2013年、連邦破産法第9条を申請し、米国の地方自治体としては過去最大規模の負債額を抱え破綻した。国が定める貧困レベルを下回る人の割合は、2015年39.8%に上った。その後徐々に回復し2018年には33.4%にまで低下したとは言え、全米での割合11.8%に比べると圧倒的に高い。2018年の世帯収入中央値は3万1,283ドル、全米の中央値6万3,179ドルの半分にも満たない(参照1,2)。

次に健康保険の加入率はどうか。2013年にオバマケア法が成立して以来、全米での未加入率は14%台から8%台へと低下している(参照3)。65歳未満の未加入率は2018年の推定値で、ミシガン州全体で6.4%なのに対して、デトロイト市は11.1%と若干高いが、全米では10.0%であり、平均的と言える(参照4)。ただ一般的に低所得層における加入率は低い傾向があるため、解釈には注意が必要である。

健康状態全般については、デトロイト市を分析した良質と思われるデータが見つからなったため、参考までにミシガン州の2019年のデータを見てみると、アルコール飲料の過剰摂取率19.5%、肥満率33%、喫煙率18.9%などで、健康的な行動指標の全米ランキングは43位、また糖尿病罹患率11.7%、がん死200.9人/10万人、心血管死300.7人/10万人などで、疾患指標のランキングは36位であり、決して良好とは言えない(参照5)。

同市で最も課題となっている健康問題は喘息である。2016年に州政府が報告したレポートによると、2012~2014年の18歳以上の喘息罹患率は15.5%で、州全体の割合(11.0%)より29%と高く、2013年の喘息による入院率(43.3/1万人)は州全体の3.5倍にも上る。人種構成では白人より黒人で高い割合となっている(参照6)。

また、2013年の糖尿病予防プログラムの推進資料には、デトロイト市の前糖尿病成人患者は推定約16万4千人(人口の24%)に上り、デトロイト周辺全体では65歳以上の約50%が前糖尿病状態にあると記述されている(参照7)。

前述の通り、感染者の著しい偏りにおける因果関係の解明は簡単ではない。複数の因子が複雑に絡み合っているのだと思うが、その背景にはデトロイト市民の貧困と健康状態の悪さが存在することは確かなようだ。

1. City of Detroit Website. https://detroitmi.gov/news/poverty-level-detroit-drops-third-straight-year-45000-detroiters-move-out-poverty-2015
2. United States Census Bureau, Income and Poverty in the United States: 2018
3. United States Census Bureau, Health Insurance Coverage in the United States: 2018
4. United States Census Bureau, QuickFacts. https://www.census.gov/quickfacts/fact/table/US/PST045219
5. America’s Health Rankings. https://www.americashealthrankings.org/
6. State Government of Michigan, https://www.michigan.gov/documents/mdhhs/Detroit-AsthmaBurden_516668_7.pdf
7. The Directors of Health Promotion and Education, Diabetes Risk Factors Community Profile Wayne County, Detroit, and Inkster and Eastern Detroit, August 2013
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