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エンレスト発売で心不全治療の選択肢拡大へ期待感 ノバルティスセミナー

公開日時 2020/09/04 04:50
ノバルティスファーマと大塚製薬は8月26日、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のエンレスト錠(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物錠)を発売した。九州大学大学院医学研究院循環器内科教授の筒井裕之氏は27日、ノバルティスファーマと大塚製薬共催のウエブセミナーで講演し、エンレストを含めた新薬の登場を見据え、「今年、来年に大きな展開が見込まれる」と期待を示した。一方、エンレストについては国際共同第3相臨床試験で主要評価項目の心血管死および心不全による入院を有意に抑制したものの、日本人を対象とした国内臨床試験では有意差を示せず、副次的評価項目など総合的な評価で承認に至った経緯がある。このため、製造販売元のノバルティスファーマは、「情報提供資材に臨床試験結果や安全性に関するデータをわかりやすく記載するなど、適切な情報提供ができるよう確実に対応を行う」としている。

◎デュアル作用の心不全治療薬

エンレストは、サクビトリルとバルサルタンを1:1のモル比で含む新たな心不全治療薬。、8月26日に発売された。いわゆる配合剤とは異なり、血中に入るとサクビトリルとバルサルタンに分離し、サクビトリルはsacubitrilatに変換され、心保護因子のナトリウム利尿ペプチド(ANP)を分解するネプリライシンの働きを阻害してANP系を増強し、同時にバルサルタンはアンジオテンシンⅡ受容体を阻害して心臓刺激因子の1つであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系を抑制するデュアルモードアクションの薬剤である。「さらにネプリライシンはアンジオテンシンⅡも分解する作用があることから、ネプリライシンの働きを阻害するだけではなく、RAA系を同時に抑制するということがこの薬剤の重要のポイント」と筒井氏は指摘した。

HFrEFにおけるエンレストのエビデンスは、2014年に公表された国際共同第3相試験のPARADIGM-HF試験で確立されており、ACE阻害薬エナラプリルと比較して主要評価項目(複合エンドポイント)である心血管死および心不全による入院を20%抑制した。また同試験のその後の解析で、心不全の心血管死で最も多い突然死の抑制効果が早い時期から認められたことも重要なポイントしてあげた。筒井氏は、「心不全で入院した患者さんのその後の再入院を防ぐ観点から、ACE阻害薬かARBをARNIに切り替えていくということがHFrEFの治療で行われていくのではないか」との見解を表明。副作用に関しては、特に低血圧に注意が必要とし、ARBと同様に少量から投与して状態に応じて増量するなどの調節が必要との認識を示した。

◎国内では主要評価項目で群間差なく 「総合的に判断して有効性の傾向」

PARADIGM-HF試験では日本人が参加していないため、同じ試験デザインで日本人を対象にしたPARALLEL-HF試験が行われたが、主要評価項目である心血管死および心不全による入院発現リスクはエンレスト群とエナラプリル群で明らかな群間差が示されなかった。8月19日の中医協総会で日医常任理事の松本吉郎委員は、この結果について言及し、「患者選択の適切性および臨床試験結果等の情報がきちんと提供されるのか」と疑問を呈している。

セミナーではノバルティスファーマのグローバル医薬品開発本部臨床開発統括部で、医師・医学博士の大山尚貢氏は、「副次評価項目および事前・事後の解析を総合的に判断して日本人においてもPARADIGM-HF試験で示された有効性の傾向がみられるということで承認をいただいている」と説明。副次評価項目であるNT-proBNP(心室に負荷がかかっていることを示す検査値)の変化では、4週時、8週時、6カ月時のいずれもエナラプリル群に比べて有意に低下したというデータを紹介し、エンレストの有効性を示唆した。また、同剤の基本的注意として、ACE阻害薬からの切り替え時、またはエンレストを中止してACE阻害薬への切り替え時は、36時間の投与中止が必要であることをあげた。

ノバルティスファーマ広報統括部では中医協や当局の意見や指摘を踏まえ、エンレストの使用に際しては「臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解したうえで適応患者を選択していただきたい」としたうえで、「そのためにパンフレットや説明会資料などに臨床試験結果や安全性に関するデータをわかりやすく記載。またMRやMSLに対して適正使用に資する活動ができるよう社内研修に注力し、適切な情報提供を確実にできるよう対応を行っている」とコメントした。また共同プロモーションを行っている大塚製薬と緊密に連携し、必要に応じてオンラインでの面談やデジタルコンテンツを駆使しながら、新型コロナウイルス感染症の影響下のなかでも慎重かつ適切に情報提供を行っていくとしている。

◎治療は「心不全増悪による入院と生命予後の改善が心不全治療の最大の目的」 筒井氏

心不全は生活習慣病などが原因で心臓機能障害が生じ、心ポンプ機能を発揮できなくなる結果、呼吸困難や倦怠感、浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群。高血圧などを患っているが器質的心疾患のないステージA、虚血性心疾患など器質的心疾患のあるステージBを経て、多くの場合、急性心不全として発症する。その後も心機能は回復せず、ステージCの慢性心不全に移行し、急性心不全による入退院を繰り返すことによって重症化して身体機能低下、時には突然死に至る。さらに進行すると薬物治療が効きにくくなり、ステージDの治療抵抗性(難治性・末期)心不全に移行する。

心不全治療は、ステージCから開始するが、その目的は症状コントロール、QOL改善、入院予防・死亡回避、再入院予防などが様々だ。「なかでも心不全増悪による入院と生命予後の改善が心不全治療の最大の目的」(筒井氏)となる。

心不全治療においては、左心室の収縮で送り出せる血液量の割合を示す「左室駆出率(LVEF)」による分類が用いられ、「LVEF(40%未満)の低下した心不全(HFrEF)」、「LVEF(50%以上)の保たれた心不全(HFpEF)」、「LVEF(40%以上50%未満)が軽度低下した心不全(HFmrEF)」の3つに分類される。HFrEFの代表的な基礎心疾患は拡張型心筋症と冠動脈疾患、HFpEFの代表例は高血圧性心疾患だ。

この2つを中心に心不全に対する標準治療アルゴリズムが急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)で掲げられている。ステージCのHFrEFに対する標準治療薬は、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬、MRAの3つがファーストラインとして推奨されており、いずれも生命予後を改善するエビデンスを有する。一方、HFpEFでは生命予後を改善する薬物治療が確立しておらず、うっ血症状に対して利尿薬が用いられるほか、糖尿病や高血圧、心房細動などの併存症への治療が中心となっている。

◎相次ぐ新薬登場で心不全治療は新時代に

同剤をはじめ、心不全治療薬には新薬の承認が相次いでいる。筒井氏は、昨年日本でも承認された心拍数を特異的に低下させるHCNチャネル遮断薬のイバブラジンや、2019年のDEPA-HF試験でHFrEF標準治療の上乗せにより予後改善効果が認めれたSGLT2阻害薬などをあげ、「2018年のガイドライン公表時に『今後期待される治療』と紹介された薬剤が承認され、来年以降も承認される可能性が高い。新たな薬が治療に生かされることによって、患者さんの生命予後が改善できる時代にあることを感じ取ってほしい」と、今後の心不全治療のさらなる進歩に期待を寄せた。

エンレストとイバブラジンは「欧州心臓病学会ガイドライン2016」の治療アルゴリズムに記載されている。日本心臓病学会は来年3月、フォーカスアップデートを発表する予定で、これまで承認された新薬は反映される見込み。

【訂正】下線部の表記に誤りがありました。訂正いたします。(2020年9月4日 13時30分)



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