日本イーライリリーのシモーネ・トムセン代表取締役社長は４月12日のオンライン記者会見で、「世界同時開発のポートフォリオの100％を日本でカバーしている。ドラッグラグやギャップもない」と述べ、新薬開発促進の重点的投資を継続する考えを強調した。2021年は64件の開発プロジェクトが走るなど、業界トップクラスにある。ただ、トムセン社長は、政府の薬剤費抑制策が続けば、「我々の会長（デイビッド・A・リックス会長：前PhRMA会長）を説得するのは難しくなってくる」とも指摘。「PhRMAとパートナーを組むことで革新的なイノベーションに友好的な環境を日本で育てていきたいと思う」との考えを披露した。

◎21年度業績　新製品・成長製品の売上前年比16.6％増　販売数量は17.1％増

この日の会見でトムセン社長は21年度業績を報告した。売上高は2476億円で前年比7.5％減となった。内訳をみると、全構成比の53％を占める新製品・成長製品が前年比16.6％増の1311億円を売上げ、販売数量も前年比17.1％増と大きく伸長した。トルリシティ、ジャディアンス、ベージニオ、トルツ、オルミエント、エムガルティがいずれもベストインクラスの製品として各市場を牽引していると評価。さらに、レットヴィモを含む５つの新製品が上市、または適応追加するなど、患者のアンメットメディカルニーズに対応できたとアピールした。なお、同社の場合、特許保護された製品群の5年間平均成長率は25.6％で、業界平均（上位20社）の11.7％を大きく上回り、業界トップのランキングに輝いている。

一方で、成熟製品の売上高は1165億円、前年比25.1％減、販売数量は21.0％減となり、特許切れ後に後発品が市場参入したアリムタ、サインバルタの影響が大きかったと振り返った。

◎開発戦略　2011年以降グローバルのポートフォリオを100%カバー

研究開発については吉川彰一バイスプレジデント・執行役員（研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部、Ph.D.）が説明した。開発戦略については、2011年以降、グローバルのポートフォリオを100%カバーし、現在まで継続していると強調した。同社が掲げる「20 in 10 計画」（10年間で新薬20製品を届ける）についても、「グローバルにおいて8年で17個の新薬承認と緊急使用許可取得を達成した」と述べた。また、RET融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんなどの適応を取得したレットヴィモ、新型コロナウイルス感染症に対する適応追加で承認されたオルミエント、早期症候性アルツハイマー病疾患進行抑制に挑戦するドナネマブ(LY3002813)などに期待を寄せた。

◎ドナネマブ　国際共同第３相試験に日本から31施設が参加

なおドナネマブ(LY3002813)は、臨床第２相試験（TRAILBLAZER-ALZ）において、アミロイドβを除去する薬剤として、主要評価iADRSにおいてベースラインから76週の変化で、プラセボに対し32%の進行抑制を見出すなど、初めて疾患進行抑制の主要評価項目を達成した。現在は、国際共同第３相試験（TRAILBLAZER-ALZ 2)に日本も参画している。対象被検者は、脳内アミロイド病変及びタウ蛋白の蓄積が認められる早期症候性アルツハイマー病患者。目標割付数は1800例で、日本から31施設（PET施設を除く）が参加していることも報告された。

◎トムセン社長　「イノベーションに友好的な環境を日本で育てたい」

トムセン社長は会見で、「我々は継続的に非常に大きく投資を行い、タイムリーに新しいイノベーションを日本の患者にもたらした」と強調した。一方で日本の市場環境については、「日本イーライリリーとしては、まだドラッグラグやギャップはない。継続的に日本に投資することが難しくなるのは、特に薬価制度がこのまま継続する場合だ」との懸念を表明した。

また、「業界の多くの会社は、研究開発の投資を他の国に向けるところもある。臨床試験や海外投資が日本より中国に力がいくという傾向もある」と指摘。「イーライリリーにとって日本は米国に次いで大きな市場となっている。PhRMAとのパートナーを組むことで革新的なイノベーションに友好的な環境を日本で育てていきたいと思う」と強調した。