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JPADサブ解析 低用量アスピリン 中等度腎障害伴う2型糖尿病の1次予防に有効

公開日時 2010/03/07 13:00

低用量アスピリンが糸球体濾過量GFRの推定値(eGFR)の60~89ml/min/1.73m2の中等度腎障害を有する2型糖尿病患者における動脈硬化性疾患の1次予防に有効であることが、大規模臨床試験JPADのサブ解析によって明らかになった。6日午前のLate Braking Clinical Trial sで奈良県立大学の斎藤能彦氏が報告した。


糖尿病患者では心血管イベント(CV)リスクが2~4倍に増大することが知られている。アスピリンによる2次予防については、エビデンスによる裏付けがあるが、AHAなどのガイドラインで推奨されている2型糖尿病患者に対する1次予防については、海外においても既存の試験のサブ解析がベースになっており、日本では研究自体が存在しなかった。


JPAD
は、日本人糖尿病患者を対象とする低用量アスピリンの動脈硬化性イベント1次予防効果を検討した前向きランダム化オープン結果遮蔽試験(PROBE)。登録基準は30歳〜85歳で心血管イベントのない2型糖尿病患者。日本国内の163施設が参加し、2002年12月から2005年5月までに登録された2539例が低用量アスピリン(81mgまたは100mg/日)群(1262例)またはアスピリン非投与群(1277例)にランダム化された。


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次エンドポイントはあらゆる動脈硬化性イベント、二次エンドポイントは個々の1次エンドポイントと、その組み合わせ、および全死亡で、アスピリンによる有害事象も解析された。


試験結果は、2008年AHAのLate Braking Clinical Trialセッションで報告されている。アスピリン投与群では非投与群と比較して動脈硬化性イベント発生リスクが20%低下したものの、有意差には至らなかったが、サブグループ解析では、65歳以上の患者ですべての動脈性硬化イベントが32%有意に抑制された。


今回実施されたのは、eGFR値によるサブグループ解析。2型糖尿病に糖尿病性腎症の合併が多く、それがCVイベントのリスクになると考えられること、昨今、普及している慢性腎臓病(CKD)の概念によれば、原因の如何によらず、腎疾患の存在を示す所見、またはeGFRが60以下の中等度以上の腎機能低下が3か月以上持続する場合、CKDであるとして、早期からの治療が推奨されていること-などが背景にある。糖尿病患者でCKDの概念を加味したサブ解析はこれまでほとんどなされておらず、アスピリンに関しては初めて。


対象は、JPADでランダム化された2539例のうち、血清クレアチニン値を測定していた患者で、アスピリン群1251/1262例、非アスピリン群1272/1227例と、ほぼ全例に近かった。
斎藤氏は、「事後解析ではあるが、ある特殊な症例だけを抽出した小グループではないことを理解してほしい」と述べた。これらの患者はCKDの分類にしたがって、正常の90以上群(518例)、中等度腎障害の60-89群(1373例)、60未満群(632例)の3群に層別化された。患者背景としては、60未満群で高血圧、蛋白尿の合併症が多かった。


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次エンドポイントの動脈硬化性イベント発生率は、90以上群に対して60-89群で1.6倍、60未満群2.0倍と、eGFRの悪化に伴って有意に増加することが示された。また低用量アスピリンの投与によって、60-89群では1次エンドポイント発生率が43%有意に低下(ハザード比[HR]0.57、95%信頼区間[CI] 0.36-0.88)したものの、90以上群(HR0.94, CI 0.38-2.27)、60未満群(HR1.34, CI 0.76-2.24)では効果は認められなかった。また効果の認められた60-89群において、アスピリン投与による消化管出血(アスピリン投与3/661例、非投与2/712例)、脳出血(それぞれ4/661例、4/712例)の増加はなかった。


斎藤氏は、「事後解析ではあるが、eGFRが60-89の2型糖尿病患者において、低用量アスピリンは1次予防として有効であることがはじめて示された。糖尿病治療にあたっては、CVイベント予防の観点から、eGFRの層別化を加味する必要がある」と結論した。

 
◎「このサブ解析は、非常にインパクトが大きい」後藤氏
 
斎藤氏によるサブ解析報告後、コメンテータの東海大学・後藤信哉氏による、臨床試験とサブ解析の意義に及ぶ非常に興味深い解説がなされた。
臨床試験とは本来仮説を検証するものであり、臨床科学の観点では、その結果をもって試験を終了する。すなわち集団全体について得られた結果を積み重ねることで、よりよい医療につながっていくという概念である。しかし、得られたデータを実臨床に最大限に生かしていくためには、例えば「本当にアスピリンで利益を得る患者はどのような患者か」を明らかにすることが重要であるという。集積されたデータを、いかに臨床応用していくかを考える時、サブ解析は非常に大きな意味を持つ。実際に介入すべき少数の症例、利益を得られる患者だけを選び出すと同時に、できるだけ患者に損をさせない、無駄な介入をしないためには、どうすればいいのかを常に考慮する必要がある。
後藤氏は、「こうした視点に立てば、腎機能が中等度に障害されている糖尿病症例に対しては、低用量アスピリンによる1次予防の意義が大きいということを示したこのサブ解析は、非常にインパクトが大きい」と今回の成績を大きく評価した。また、「こうした解析は次の検証すべき仮説を与えてくれるものでもある」として、「なぜ腎機能が中等度に障害されている人が利益を得られたのか。そこには必ず原因があるはずだ。その原因を将来の研究対象として考えていかねばならない」と、今後の展開にも期待を寄せた。
同セッションの共同座長を務めた東京大学の永井良三氏は、「後藤先生には統計やEBMの基本的な考え方を示していただいた。こうした考え方をよく理解せずに臨床試験を解釈しようとすると、ものを言いすぎたり、大事なことを見逃したりする。得られたデータをどう使うかというところに、臨床医の知恵が働くのではないか」とコメントした。
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