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急性期脳梗塞治療 改めて問われる降圧の重要性

公開日時 2010/05/18 04:00

急性期脳梗塞に対する抗血小板・抗凝固療法において、降圧の重要性が改めて問われることとなりそうだ。抗血小板・抗凝固療法で懸念される出血リスクの管理において、その必要性が指摘されている。九州大病院腎・高血圧・脳血管内科講師の北園孝成氏らが進める急性期脳梗塞患者を対象としたコホート研究「Fukuoka Stroke Registry (FSR)」の報告から、実臨床の現状を紹介する。


研究は、急性期脳梗塞患者の急性期病態と予後を明らかにすることを目的に、2007年6月から患者登録を開始した。福岡県内の脳卒中基幹病院7施設が参加し、①新規症例登録による前向き研究②既存資料を用いた後ろ向き研究――で、データベースが構築されている。


前向き研究データベースは、発症後7日以内の脳卒中症例が対象で、2010年2月までに3133人が登録された。登録後3カ月、6カ月、1年、2年時点で、手紙・電話による予後調査を実施し、イベント発生時の臨床情報を収集した。


◎分類不能例はBADが最多


2010年2月までに登録された症例の平均年齢は71.4歳。脳梗塞2572人、一過性脳虚血発作(TIA)165人、脳出血247人が含まれていた。脳梗塞を病型別にみると、ラクナ梗塞652人、アテローム血栓性脳梗塞587人、心原性脳塞栓症568人、分類不能729人。分類不能例は、穿通枝領域の梗塞であるBAD(Branch Atheromatous Disease)が最多で、25%を占めた。


検査時間などを考慮すると、t-PA療法の適応と考えられる発症から2時間以内に来院した症例は22.7%にとどまったと説明した。一方で、24時間以内の来院症例が全体の70.6%を占め、多くの症例が24時間以内に来院していることも分かった。


退院後の追跡調査(3カ月、6カ月、1年、2年時点)によると、脳梗塞の再発率は、いずれの時点もアテローム血栓性脳梗塞で最も高く、2年間の再発率は1000人年あたり116で、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞が次いだ。一方、死亡率は、心原性脳塞栓症で最も高く、2年間の死亡率は1000人年あたり142で、アテローム血栓性、ラクナ梗塞の順となった。


◎抗血小板療法 求められる十分な降圧


脳梗塞の再発予防において重要視される抗血小板療法だが、脳出血との関連が指摘されており、このマネジメントも重要視されてきている。これまでの研究では、抗血小板薬の内服歴が、脳出血の“予後規定因子”とする報告と“予後規定因子ではない”とする報告があり、議論のあるところだ。


このような状況を踏まえ、九州医療センター臨床研究センター脳血管内科の金澤有華氏らは、FSRのデータを用いて、脳出血の既往が、抗血小板療法中の脳出血発症に影響するか検討した。


対象は、2007年6月~09年8月に急性期脳卒中で登録され、退院時に抗血小板薬を内服した症例で、①脳出血を発症、既往がある70人(既往群)②既往群と年齢、性別が一致し、脳出血歴がない140人(既往なし群)――の2群に分け、予後を比較した。退院時収縮期血圧値について2群間で差がみられ、既往群の127.01±2.57mmHgに対し、既往なし群では134.3±1.81mmHgと、既往群で有意に低かった(P値=0.02)。


退院後、平均9.7カ月間追跡した結果、虚血性脳血管障害発症率は既往群で10.0%(7人)、既往なし群では10.8%(15人)で有意差はみられなかった。一方で、脳出血は既往群で4.2%(3人)、既往なし群では0.0%(0人)で、有意に既往群で多い結果となった(P値=0.036)。


服用していた薬剤は、アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールがそれぞれ1人ずつで、アスピリン服用以外の2人は、脳出血発症時の収縮期血圧が160mmHg以上と高値だった。


金澤氏は、抗血小板療法の実施により、脳出血の発症が増加する可能性があると指摘。その上で、血圧値と脳出血が関連しているとの報告や、適切な血圧管理で脳出血のリスクを回避できるとの報告があることを紹介し、「抗血小板療法を行う場合は、十分な降圧療法が必要と思われる」との見解を示した。


◎抗凝固療法 血圧やPT-INRの管理で出血増加しない可能性も


一方、心原性脳塞栓症に対して推奨されているワルファリンを中心とした抗凝固療法も出血リスクの高さが指摘されている。そのため、脳出血の既往がある患者に対しての投与を控えるケースも少なくなく、脳梗塞の再発予防を目的にワルファリンを投与することの安全性は十分に検討されているとは言い難いのが現状だ。九州医療センター臨床研究センター脳血管内科の三本木良紀氏らは、このような状況を受け、脳出血の既往がある患者での脳梗塞予防目的のワルファリン療法の安全性をケースコントロール研究で検討した。


対象は、2007年6月~09年8月に急性期の脳卒中で登録された急性期脳卒中患者でワルファリンを内服した症例で、①脳出血の既往がある群38人(既往群)②既往群と性別・年齢が一致する脳出血既往のない群76人(既往なし群)――の2群に分け、脳出血や虚血性脳血管障害の発症頻度を比較した。


高血圧の既往は、既往群に多く、また入院時の血圧値も収縮期、拡張期いずれも既往群で有意に高い傾向となった。一方で、退院時の収縮期血圧値、拡張期血圧値は両群間に差はみられなかった。また、ワルファリン投与時の出血管理に用いるPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)は、既往群で1.91±0.10、既往なし群で2.09±0.07でいずれもワルファリン投与の目標INR内で、有意差はみられなかった。


平均9.7±5.5か月間経過観察した結果、脳出血の発症は、既往群で2.6%(1人)、既往なし群で2.6%(2例)で有意差はみられなかった。虚血性脳血管障害の発症は既往群で2.6%(1人)、既往なし群で9.2%(7人)で有意差はみられなかった。


三本木氏は、脳出血を発症した症例は、収縮期血圧値が200mmHgを超えるなど、高値であったことを指摘。その上で、抗血小板・抗凝固療法治療下で収縮期血圧を12mmHg下げると、頭蓋内出血が76%減少すると報告されていることなどを紹介し、「退院時に血圧やPT-INRの管理が良好ならば、ワルファリンにより脳出血再発頻度は増加しないと推定される」と述べ、降圧療法と出血管理を行うことの重要性を強調した。

 

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