面接では、応募者にも、企業側にも、言ってはならない禁句がある。

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健康機器メーカーA社総務職の1次面接前、我々は書類選考を通過した4人に対し、面接のアドバイスを行った。

「A社の採用で、最大のポイントは意欲です。どうしてA社を受けようと思ったか、どこに魅力を感じているか、志望動機を聞かれて、どのくらいアツく語れるかが面接の合否を決定するといっても過言でありません。決して消極的な発言をしないようにしてください！」

同じことをシツコイほど繰り返したので、1人は「もういいですよ」という表情さえ浮かべていたのだが、面接後のA社人事のコメントは、驚くべきものだった。
「面接した4人、ほぼ同じこと言っていました。『どうして弊社に応募したのですか？』と聞くと、『エージェントがすすめたから』だそうです。これでは、誰も2次面接に進めるわけにはいきません。そして2度とあんなやる気のない人を紹介しないでください」
面接のわずか数時間前、口を酸っぱくして「意欲が重要」「消極発言はするな」と言っていたにもかかわらず、全員がこれでは我々も頭を抱えるしかなかった。

たしかにA社をすすめたのは我々だ。それは否定しない。だが、すすめた会社は他にも複数あり、そのなかからA社の応募を決めたのは本人である。意欲が最重要ポイントの企業相手に、志望動機は「すすめられたから」では、どうにもなるまい。

それから1週間後、A社に新たな応募者が面接に向かった。Nさん（26歳）である。
彼はとても素直な性格で、我々のアドバイスにしっかり耳を傾け、A社のこともよく勉強をしていた。話し方にやや辿々（たどたど）しいところはあるものの、志望動機を問われると、長時間を費やしてしっかりアピール。無気力な4人のあとだったこともあり、NさんはA社からたいへんな高評価を受けることになった。
「いまどき珍しい朴訥（ぼくとつ）とした純粋なタイプだよね。きっと役員も気に入ると思うよ」
最後の役員面接を前に、A社人事はそういって太鼓判を押してくれたのだった。

ところで、A社の役員面接では以前、何度か問題が起きたことがあった。
面接慣れしていない役員が、能力・職務適性に無関係な個人的なこと（趣味・好きなスポーツチーム・恋人の有無など）を質問することがあった。これまではその質問の回答で合否が決まることや、応募者が不快に思うこともなかったため、我々もやんわりとした注意にとどめていた。

Nさんも大らかな性格で、あまりそうしたことを気にするタイプではなさそうだったので、気にかけていなかった。

だが…。

面接中、経歴を確認するなか、自分と出身地が近いと知った役員の1人がNさんに何気なくこう聞いた。
「郷里のご家族は、皆さんお元気なんですか？ 」
あとで知ったことだが、実はNさんは転職活動をはじめる直前、郷里にいた母方のご祖母様を亡くされていた。おばあちゃんっ子だったNさんは、一時、夜も眠れないほどのショックを受けたという…。
家族について質問されたNさんは、亡き祖母の姿が目に浮かび、涙が溢れ、唇はワナワナ。ついには緊張の糸が切れ、号泣してしまった。

号泣の理由を知ったA社は、「それでもNさんを採用したい」と言ってくれたが、Nさんは「A社の事業内容や仕事の内容は理想通りだけど、面接が面接だっただけにA社でうまくやれる気が全くしない」とA社の辞退を意思表示。結局、この話はご破算ということになってしまった。

たった一言で採用がフイになる。転職ではそういったことがよくある。転職にまつわる禁句には、キリがないのである。