第二新卒採用にグループ面接を行っていたA社は、ひとりの応募者の言動に右往左往することになった。

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グループ面接は新卒面接でこそ広く行われているが、キャリア採用で実施している企業は少ない。
キャリアを持たない大勢を相手にする新卒と違い、キャリア採用は、候補者の年齢の幅が広く、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まってくる。現職を持つ人の中には、応募を秘密にしている方も多く、グループ面接は敬遠されがちだ。

そんななか、流通グループA社はグループ面接を必須と定めていた。

A社がグループ面接を行っているのには、いくつかの理由があった。
ひとつは、A社の採用が、基本的にいわゆる第二新卒と呼ばれる経験の浅い人達をターゲットにしていたこと。第二に、採用数が10名前後とそれなりの数に及ぶこと。そして、なによりA社の採用基準で最も重要な項目が「リーダーシップ」と「協調性」で、それが最も顕著にあらわれるのがグループ面接だとA社が考えていたことが挙げられる。

「リーダーシップを発揮できることが第一。ただ、リーダーシップと協調性は、相反することが多い。メンバーになってもリーダーに反目しない人。これが採用のポイントです」

A社は我々にそう言っていた。
そのA社の選考、グループ面接では、一般公募の応募者と我々から紹介された人達が混ざってグループが組まれることになり、さらにその後、2回の選考過程を経て、9名（うち4名が我々からの紹介）が内定・入社となった。

A社人事担当者は「特に優先順位の高い候補者が2人いて、そのうちの1人がエージェントからの紹介です。彼には、私たちが高く評価をしていることを伝えて下さい」と言っていた。
その人物は、無事A社への入社を決めたのだが、問題になったのは、もう1人のA社が高く評価していた内定者だった。

転職サイト経由でA社へ応募してきたその女性：Sさん（25歳）は、やや協調性には不安があったようなのだが、カリスマ的なリーダーシップを見せ、他の候補者を引き離し、抜群の評価で内定となっていた。
Sさんが凄かったのは、彼女自身の評価はもちろん、グループ面接で同じグループになった他の人達も、軒並み高評価になっていたことだ。A社によれば、同じグループから4人もの内定者が出たのは初めてのことだという。

入社研修になっても、その4人は行動を共にすることが多かったのだが、いよいよ1ヶ月の研修が終わろうかという時になって、SさんはA社を辞めることになってしまった。A社に伝わった退社理由は家族の問題であったが、彼女が同期入社の仲間に語ったのは別のことだった。

「A社の経営には問題がある」

これが、家族の問題を同僚に言いたくないがための虚言だったことは、Sさん自身がのちに認めている。
よく考えれば、経営の経験はおろか、社会人になって3年にも満たないSさんが、入社1ヶ月でグループ会社をいくつも持つA社の問題を発見できるかどうか分かりそうなものだが、同じグループだった3人と同期入社のもう1人は、Sさんの言葉を真に受け、後追い辞職を言いだしてしまった。

せっかく採用した9人のうち、5人がわずか一ヶ月で「辞めたい」と言いだしたのである。A社人事が慌てたのも無理はないだろう。我々のところにもすぐに連絡が来た。
バツが悪かったのか、Sさんがなかなか本当のことを言ってくれなかったため、その後、1ヶ月間、混乱は続いたようだ。最終的には、辞めるのはSさん1人だけ、残りの8人は全員A社に残ることが決まり、A社人事はどうにか面目を保つことが出来た…。

「社内では、これを機会にグループ面接は止めろ、という声も出ているんですよ」
先方が困っている様子だったので、我々はその意見にこう反論をしてみた。
「何ごとも一長一短だと思いますが、少なくとも『リーダーシップ』と『協調性』を測りたいということでは、うまくいっていたのでは？」
「ふーむ…。確かにそれは言えますね」
これがささやかな慰めになったのか、A社人事は、グループ面接を残す方向で社内調整をしているそうである。