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アステラス製薬経営企画部・伊東氏 希少疾患薬を患者に最速で届ける「自律分散型」研究開発モデル提唱

公開日時 2026/07/21 04:52
アステラス製薬経営企画部エンタープライズストラテージグループの伊東久仁次長(博士)は7月20日、東京都内で開催したActive-Tセミナーで講演し、希少疾患治療薬を最速で患者に届ける「自律分散型」研究開発モデルを提唱した。希少疾患の場合、対象患者数が限定的であることに加えて、社内のR&D組織がグローバルに医薬品を開発・供給することに最適化された構造であること、さらには株主・投資家に経営戦略的な位置づけを説明しにくい面があるなど、「製薬会社にのみ依存しない、根本的に異なるモデルが必要だ」と指摘する。その上で、大学中心の初期開発から臨床POC取得まで進め、その後は製薬会社に導出する研究開発モデルを提唱。すでに2つの先行事例を経験したと明かし、いずれも実現可能性は検証済みと強調した。

伊東氏が提唱する「自律分散型」研究開発モデルは、「希少疾患当事者の参画」が一番重要なポイントになると強調。「患者・家族・医師が参画することで、より深い疾患理解に基づきニーズに合った治療薬の設計と迅速な臨床試験の実施が可能になる」との考えを強調した。さらに、高い専門技術を持つ製造受託機関の参画や、薬事優遇制度(条件及び期限付承認、オーファン指定等)の活用、必要な人材が必要な時に、必要な期間集まる小規模チームの編成が重要とした。資金源の複線化として、「公的資金、寄付金、企業の共同研究費などの活用」を重要な要素として掲げた。

◎顔の見えるネットワークを活用した「自律分散型チーム」組成

実際の運営にあたっては、患者会・家族会、医療機関、大学、製薬企業から40人程度の「有志チーム」を構成し、疾患・ニーズ・シーズ・要望を把握した上で、治療技術・疾患領域に適したチームの組成を行い、顔の見えるネットワークを活用した「自律分散型チーム」を通じて資金調達・プロジェクト化を進める考えを披露した。一方、プロジェクト化後の流れについて伊東氏は、「大学中心で初期開発から臨床POC取得まで進め、その後は製薬会社への導出、新会社設立、希少疾患特化企業への展開など複数の選択肢がある」と説明した。

◎2つの先行事例 いずれも「実現可能性については検証済み」

伊東氏は具体的な2つの先行事例に言及。1つ目は、アステラス製薬が米・UMass Chan Medical Schoolとアレキサンダー病で共同研究契約を締結し、根本的な治療法がない同疾患に対する「遺伝子治療」の確立を目指すというもの。2つ目は、国内特有の希少疾患治療薬の研究開発プロジェクトで、国内3研究機関・国内製造受託会社を含む5者共同契約を締結したというもの。いずれについても「実現可能性については検証済み」と強調した。

伊東氏は「自律分散型」研究開発モデルの課題にも触れ、「製薬会社への依存からの脱却が理想だが実際には製薬会社の協力が不可欠な現実」を指摘。真の分散型チームには時間が必要で、対面での関係構築、プロジェクト開始前の共同作業、第三者的なアドバイザーの重要性などを指摘した。

伊東氏はまた、1人の患者を対象に行う「N-of-1試験(エヌ・オブ・ワン試験)」についても言及。疾患特定、薬剤製造、臨床試験実施の各段階において、患者発見方法、責任医師の確保、評価データ設定、動物モデル不在、限られた臨床試験施設、レアな疾患での実施体制構築などの難しさを指摘。解決策として技術のモジュール化を提案し、疾患と技術の2軸マトリックスを事前整備することで、遺伝子決定後の迅速な技術選択と実施機関選定を可能にするシステム構築を目指すとした。

◎ペイシェント・セントリシティ(患者中心の医療)をテーマに総合討論

この日のセミナーでは、元TBSアナウンススクール校長の吉川美代子さんをモデレーターに、ペイシェント・セントリシティ(患者中心の医療)をテーマとする総合討論が行われた。帝京大学大学院公衆衛生学研究科の石川ひろの教授は、近年、患者中心の医療が求められる背景について、「医療の進歩により治療選択肢が増えたことで、医療者だけでは決められなくなり患者の意見を聞く必要が生じた」と分析した。これに対し、医師で日本希少疾患コンソーシアム代表の青木吉嗣氏は、「日本では患者さんから“お医者様”と呼ばれるパターナリズムが強く、がんの告知も家族の了解なしには行えなかったが、近年は世界標準に近づいてきた」と指摘。インフォームドコンセントからシェアードデシジョンメイキングへの変化についても言及した。

製薬会社の視点から見た患者中心アプローチの必要性についてアステラス製薬の伊東氏は、「新薬開発の成功確率を上げるために患者の声が不可欠で、従来の開発プロセスでは患者のニーズを十分に捉えられていなかった」と説明した。また、一つの新薬を開発するのに約1000億円かかるという現実を踏まえ、「患者の声を直接聞くことで成功確率を向上させる」重要性を強調した。伊東氏はまた、同僚の息子さんの病気をきっかけに、この取り組みを始めたという個人的な動機も語った。

一方、患者の立場から参加した一般社団法人SMA家族の会理事長の大山有子氏は、「診察室では患者や家族が本音を話さないことが多く、製薬会社が医師から聞く情報と患者の実際のニーズに180度の乖離がある」と指摘した。また、薬のデザインや服薬方法についても、嚥下困難な患者への配慮が不足しているなどの例を挙げ、製薬企業と患者間のコミュニケーションの重要性に触れた。

情報テクノロジーの発達にともない患者の情報収集方法に変化があることに議論が及んだ。医師の石川氏は、「情報過多により患者の判断力が求められるようになった」と分析。患者の立場から大山氏は、「SNSの普及により20年前から全国の同じ境遇を持つ家族とつながることができ、支え合いの場が生まれた」と語った。また。息子が生後12ヶ月で人工呼吸器をつけた当初は孤立していたが、SNSを通じて仲間を見つけることができたとも説明した。

製薬企業の伊東氏は、「SNSで副作用情報を見つけた場合24時間以内に報告する必要があるため、むしろ見ないようにするモラルハザードが生じている」と指摘。また、直接対話の重要性を認識しつつも、社内ルールや手続きの煩雑さが障壁となっているとも説明し、心理的なハードルの高さなどを問題としてあげた。
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