【WSCリポート】CASTA試験 Cerebrolysin投与による重症度改善はみられず
公開日時 2010/10/18 06:00
急性期脳梗塞患者に対する治療選択肢として期待される低分子化合物“Cerebrolysin”。同剤の有効性・安全性を検討した「CASTA」試験では、プラセボ群に比べ、死亡率は減少傾向をみせたものの、脳卒中の重症度については両群間に差がみられなかった。The CASTA investigatorsの独・CologneのW.-D.Heiss氏が韓国・ソウルで開かれた第7回世界脳卒中学会議(WSC)の最終セッションであるプレナリーセッション「Large Clinical Trials Closing Session」で10月16日、発表した。(韓国・ソウル発 望月英梨)
急性期脳梗塞の治療法としては、t-PA療法が施行されているが、一般的に発症から3~4.5時間以内の投与が求められている。そのため、t-PAの投与対象とならない患者のためのさらなる治療選択肢の確立が求められている。
Cerebrolysinは、これまでに1500人以上に投与され、運動機能や日常生活動作、認識能力などの有意な改善が示されている。また、これまでに実施された全ての臨床試験で安全性が示されている。一方で、これまで大規模二重盲検下比較試験は行われておらず、日常臨床で用いた際の同剤の有効性と安全性が構築されることが求められていた。
試験は、Cerebrolysin30mlを10日間静脈内投与し、臨床的効果と安全性を検討することを目的に実施された。対象は、アジア人の急性期虚血性脳卒中患者で、アスピリンを全例に投与した上で、①Cerebrolysin30ml/日投与群(安全性解析症例:529例、ITT解析:527例、PP解析:461例)②プラセボ(0.9%食塩水)投与群(安全性:540例、ITT解析:540例、PP解析:447例)――の2群に分け、効果と安全性を比較した。有効性の主要評価項目は、①脳卒中重症度を表すmodified Rankin Scale(mRS)②機能的評価を表すBarthel Index③神経学的重症度を表すNIH Stroke Scale(NIHSS)のスコア――で、Wilcoxon-Mann-Whitney(MW)検定を用いて複合的に検討した。安全性は、有害事象、バイタルサイン、臨床検査値とした。なお、試験は、日本を除く中国、韓国などアジア52施設で実施された。
その結果、主要評価項目のスケールを90日後にみると、2群間の差はMW値は0.5002で両群間に差はみられなかった(信頼区間の下限値:0.4707、P値=0.4953)。
一方、安全性については、有害事象の発現率はプラセボ群の51.10%(611イベント)に対し、Cerebrolysin群では48.90%(585例)で、プラセボとほぼ同等だった。
ただし、死亡率はプラセボ群の6.5%に対し、Cerebrolysin群では5.3%で、Cerebrolysin群で、Cerebrolysin群で死亡率を減少させる傾向がみられた。
◎軽症患者では改善効果に限界の可能性も
主要評価項目で有意差がみられなかった理由としてHeiss氏は、▽これまでの有意差を示した臨床試験と比べ、NIHSSが9点(中央値)と低い▽軽度脳卒中には改善効果に限界がある(天井効果)可能性がある――を挙げている。軽度の脳卒中が多かった裏付けとしては、死亡率が5.4%と低いことも紹介した。
その上で、NIHSSのスコアに分けたサブ解析のデータを提示。NIHSSスコアが12点以上の重症患者では、Cerebrolysin群で良好な傾向を示した。(オッズ比:1.2724、95%CI:0.9719~1.6657)。一方で、NIHSS7点未満の患者では2群間に差はみられなかった。
これらの結果からHeiss氏は、投与量を50ml/日に増量するなど、「2群間に有意差がみられる適切なプロトコルで前向きの追跡調査を実施する」考えも示した。