新しい名刺
公開日時 2011/05/10 04:00
新規事業の立ち上げでA社に入社した人達に渡された名刺、そこに書かれていたのは…
__
転職を実感するときとはどんな時だろう?今までと違う通勤路で出勤するとき、オフィスにはじめの一歩を踏み入れる瞬間、デスクからの見慣れない風景、そして新しい名刺に書かれた文字をみた時…、しみじみ「ああ、新しい会社に転職したんだな」と思う人が多いのではないだろうか。
不動産関連事業で成長をしてきたA社は、金融危機以降、業績の停滞に苦しんできた。倒産の危機が噂されるような状態からは抜け出たものの、以前のような成長路線に戻ることは難しい。A社のキーマンのひとりY常務は、次の10年に向け新しい事業展開に考えを巡らしていた。
今年になってY常務は、新しい事業プロジェクトのために、社外からも人材を募ることを決断する。「まだ人を採用するような段階ではない」という声も多いなかでの強硬スタートだった。
不況期にはA社のような中堅企業の求人にも驚くようなキャリアを持つ人たちが集まってくる。我々からの紹介では2名の内定があったが、両者は有名ベンチャーの立ち上げ、大手商社で新規事業開拓の経験といういずれ劣らぬ実力者で、この時期でなければ採用は無理といって過言でない優秀な人材だった。
彼らに加えてY常務が選抜したA社内の選りすぐりが集い、いよいよプロジェクトがスタートをきることになったのだが、彼らが最初に渡された新しい名刺には、目を疑う文字が印刷されていた。
「購買部 事業企画」
ファブレス企業や調達品の多いメーカーでは、資材部・購買部は極めて重要な役割を担っている。社内の中核部署のひとつである会社も珍しくないだろう。
しかし不動産関連事業を営むA社にとって、購買部はまったくの日陰部門。PC・ネットが普及する以前はまだ存在意義があったが、現在は各部署から要望のあった事務用品などを不手際なく揃えるルーティンがあるのみという、名前だけが残っているような部署だった。
Y常務は営業部門の出身ながら、役員になった後、なり手のない「購買部」の責任者も兼任していた。本来なら事業企画部門を創設してはじめるべき仕事だったが、社内の反対派を押し切ってはじめたプロジェクトのため、社内コンセンサスが得られず、唯一、Y常務が自由にできる部署として購買部の名前を使わざるをえなかったのだ。
「ひどい嫌がらせだけど、良い面もあるんだよ。購買は現金をある程度融通できるから、プロジェクトに必要なものはすぐ購入できるし、予備用の備品を整理すれば、部屋は広く使える。ただ、あの名刺見たスタッフがモチベーションダウンしてないか心配でね…」
Y常務はそう言っていたが、我々の紹介で入社した2人は、新しい肩書きを楽しんでいる様子だった。
「友人らに見せたら、『お前、一体どうしたんだ?』って真顔で心配されました。これはなかなか良い話のネタですよ。インパクト抜群ですから。」
「状況が分かって入社したんですが、それでも最初に自分の名刺を見たときは目眩がしました(笑)でも、今は結構気に入っているんですよ。この名刺はずっと残しておきたいと思っています。自分のキャリアのなかで、こんなのは二度とありませんよ」
プロジェクトの当面の目標は、名刺の「購買部」をはずすこと。それはとりもなおさず、事業が軌道にのり、A社内に事業企画の存在を認めさせることでもある。
A社に転職した二人は、きっとまた、新しい名刺の重みを噛みしめる瞬間に出会うだろう。
|
リクルートエージェントはMRの転職市場に精通した専任キャリアアドバイザーがキャリア相談・求人紹介などの転職支援サービスを提供している。医療業界企業660社から求人を寄せられている他、異業界での転職にも対応する業 界最大手の転職エージェントである。
リクルートエージェントHP |