書き直されたレジュメ
公開日時 2011/05/31 04:00
メーカーA社に転職したKさんは、入社から半年、ある秘密を抱えて悶々としていた。その秘密とは…。
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メーカーA社の人事担当者Oさんは非常に多忙な方だった。
数か月前のこと、A社の法務の求人に「これは」と思う方があったので紹介したのだが、すぐに書類不通過の連絡があった。Oさんからのメールには「キャリアがまるで違う」とあったのだが、決してそんなことはなく、不思議に思って電話連絡してみると、
「この人は人事のキャリアじゃないの?」
という。確かに、その応募者は入社から1年間は人事部にいたが、その後、8年間は法務で仕事をしていた。Oさんは時系列に沿って書かれた職務経歴書の、最初の数行しか見ていなかったのだ。
結局、面接は執り行われたものの、最初のボタンの掛け違いのせいもあってか、インタビューは盛り上がりに欠けたまま、このマッチングは不調に終わった。
そんなことがあったので、A社に応募する際は、とにかく分かりやすいレジュメを準備するよう、我々は気を配っていた。
A社の開発職に応募することになったエンジニアのKさん(28歳)にも、我々は同様のアドバイスをした。
「A社に対しては、分かりやすいレジュメを作っておいた方が良いんです。Kさんの職務経歴書はやってきた仕事を順番に書いていますが、求められているのは燃料電池開発のキャリア。最初の頃の技術サポートをしていた部分は、この際、省いてしまいましょう」
Kさんは大人しく控えめなタイプの方だったので、我々がリードするようなかたちで、キャリアを積極的にアピールするレジュメを作成した。
こうしてKさんは書類選考を通過。面接の評価は普通という感じだったが、それまでの仕事の内容が評価されて、見事、内定をもらうことが出来た。
入社後のKさんは、研修を受け、真面目に仕事をこなし、周囲にも溶け込んでいったそうなのだが、ひとつだけ、不可解なことがあった。前の会社での話を決してしようとしないのだ。
A社人事Oさんからその話を聞いた我々は「前職では、人間関係で悩んでいた節があったので、そのせいではないでしょうか?」と言ったのだったが…。
入社から半年、Kさんはフォローアップ面談のために、人事部に呼ばれた。ところが、Oさんが入室すると、Kさんは直立不動の姿勢で、顔は真っ青、額には脂汗が滲んでいた。
「具合でも悪いのですか?」と、言いかけたOさんに先んじて、Kさんは
「申し訳ありませんでした…」
と、テーブルに頭をこすりつけんばかりに、深々と礼をした。
何がことやら分からないOさんは、事情を問いだした。そして、Kさんが「転職時に、キャリアの一部を省いてレジュメをつくったのは、経歴詐称にあたる。人事に呼び出されたのは、そのことがバレた為だ」と、思い込んでいるのを知ったのだった。
その後、Oさんから我々に確認の電話があった。
「では、やはり経歴にウソの部分はないんですね?」
「はい。最初にもらった職務経歴書と、A社に提出したものを付き合わせてみましたが、仕事をしていた期間も、内容も同じです。入社から1年半の部分の経歴を省いて書いたのは事実ですが、それは問題にならないのですよね?」
「もちろんです。Kさんにもあらためて、なんの心配いらないと伝えておきましょう。それにしても、おどろくほど真面目一徹な人ですね、彼は」
Oさんはそう言って笑っていた。
転職者のなかには、職務経歴書には全ての経歴を書かねばならないと思っている方が意外に少なくない。経験社数を飛ばすのはさすがにまずいが、新人時代や主要キャリアとは外れた部分を多少削っても、それが問題なることはまずない。もともと要約という意味のレジュメが、職務経歴書の同義で使われることからも、それが分かるだろう。
むしろ、細かい部署の名称変更や、名刺にあった肩書きを逐一書いてしまうと、受け取った側はかえって混乱してしまう。職務経歴書はあくまで、応募先の企業に対して、自分が何が出来るかを指し示すもの。取捨選択があるのは当然のことといえよう。
こうしてKさんの一件は無事決着したのが、我々にとってショックな事実は残ったままだ。なぜなら、一連の経緯からして、 Kさんは我々を「経歴詐称を持ちかけてきた悪徳業者」と考えていたことになるのだから…。
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