新規抗凝固薬登場のインパクトを探る
用量設定は人種差の影響少なく
高齢、低体重、腎機能値を指標に
Duke Clinical Research Institute
Cardiovascular Medicine Associate Professor of Medicine
John H. Alexander氏に聞く
新規抗凝固薬の登場は、臨床現場にどのようなインパクトをもたらしたか。多くのサブ解析結果が報告される中で、各薬剤の特徴も見えてきた。第Ⅹa因子阻害薬・アピキサバンの開発に携わったARISTOTLE Study Executive CommitteeのDuke Clinical Institute Cardiovascular Medicine Associate Professor of MedicineのJohn H. Alexander氏に、新規抗凝固薬を取り巻く現在の状況と今後の期待を中心にお話を伺った。
全ての新規抗凝固薬はワルファリンよりも優れている
―新規抗凝固薬が登場したことの臨床現場へのインパクトについてどのように感じていますか?
Alexander氏 最も大きなポイントは、これまでよりも多くの患者に治療を行うことができることです。脳卒中予防の観点から抗凝固療法は有用ですが、ワルファリンへの処方の煩わしさなどから、これまでアスピリンを投与されていた患者に、抗凝固療法を行うことが可能になります。
すべての新規抗凝固薬は、ワルファリンよりも優れていると言えると思います。リバーロキサバンの臨床第3相試験であるROCKET AFは、ワルファリンに非劣性を示したに過ぎないという指摘もありますが、モニターの必要のなさや、食物・薬物との相互作用もなく、頭蓋内出血のリスクが低いなどの利点があります。ワルファリンとリバーロキサバン、どちらを服用するか、と言えば明白なのではないでしょうか。
日本国内でのブルーレター、米FDAでのリスク喚起などで、ダビガトランの出血リスクが懸念されています。当然のことながら、実臨床ではさらに発生するイベント数は増加します。ワルファリンが出血を起こしたからといってニュースにはなりませんよね?ワルファリンと同等と捉えて欲しいと思います。
―これまでに構築されたエビデンスから、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンの3剤の特徴についてどのように捉えていますか?
Alexander氏 新規抗凝固薬3剤同士には、新規抗凝固薬とワルファリンとの違いほどの大きな差はありませんが、エビデンスから特徴は見えてきました。
ダビガトランは、高用量(150mg1日2回)で、ワルファリンに比べ有意に虚血性脳卒中の発生を抑制したのが大きな利点です。ただ、出血の発生を有意抑制することはできませんでした。また、腎不全患者など腎機能低下例で出血リスクが増加する点が一番の課題です。
リバーロキサバンは、虚血性の脳卒中発症抑制効果において、ワルファリンに非劣性を示すにとどまり、優越性まで示すことができませんでした。ただ、頭蓋内出血のリスクは低く、1日1回投与の薬剤であることが利点です。一方、出血については、増加させることもありませんでしたが、大出血の発生を有意に抑制することもできませんでした。
アピキサバンは、虚血性脳卒中抑制効果を示すことはできませんでしたが、すべての脳卒中の発症を抑制し、頭蓋内出血も有意に抑制しています。
出血リスクの高い患者への用量調節は今後の課題に
―脳卒中予防の有効性と、出血リスクという安全性のバランスが取れた用量設定の重要性が指摘されていますね。
Alexander氏 ARISTOTLEの試験結果で最もエキサイティングだったのは、アピキサバン群の出血がワルファリン群に比べ、有意に少なかったことです。
我々は幸運なことに、日本人を含む全世界の患者にとって、有効性と安全性を示すことができる用量を見つけることができました。その結果アピキサバンは、全世界で同じ用量を選択しました。
日本人では、これまでコホート研究などからも、出血、特に微小出血の頻度が高いことが報告されてきました。ただ、これは日本人の医師も患者も出血に対し、敏感であることが原因だと思います。
アピキサバンの代謝については、日本人と欧米人で大きな差はみられません。一方で、高齢者や低体重、腎機能低下例では人種によらず、出血リスクに違いがみられ、低用量の方がふさわしい可能性があります。実際、①80歳以上②体重60kg以下③血清クレアチニン1.5mg/dL以上――のうち、2項目以上を満たす患者は低用量(2.5mg1日2回)投与としています。
この低用量を投与した割合ではグローバルでは4.7%だったのに対し、日本人サブ解析では7%となっています。日本人では体格が小さく、低体重の患者さんが多かった結果、減量基準を満たす患者が増加したのではないかと考えます。個人の患者さんに対して、適切な用量を投与することこそが重要です。
ただ、出血リスクが高い患者への用量設定は難しいですね。出血の危険因子は、脳卒中の危険因子でもあるため、出血のことを考えると低用量を投与したいけれど、脳卒中のことを考えると高用量を投与したい。この点は、今後の1つの課題と言えます。どうすべきか、今後検討していかなければいけないと考えています。
―実臨床での薬剤の選択については、どのようにお考えですか?
Alexander氏 ダビガトランは、出血のリスクが高くなく、脳卒中の発症リスクが高い患者さんを投与対象と考えます。腎機能低下例への注意も必要です。個人的には、ワルファリンと同等のリスクがあるので、出血リスクがある患者への投与は避け、若年者を中心に投与することになると思います。
リバーロキサバンは、1日1回を好む患者や、腎機能低下例で考慮します。
アピキサバンは、出血リスクがあっても、腎機能低下例でも投与することが可能ですので、使いやすく、多くの患者への投与が可能だと思います。
米国では、病院が新規抗凝固薬の中からコストを考慮して、1剤を選択して採用していることが多いのが現状です。現在、ダビガトランは発売されてから約1年が経過しましたが、シェアは20%にとどまります。リバーロキサバンは、まだ臨床現場に登場してから間もないこともあり、ほんの数%に過ぎません。つまり、残りの80%はワルファリンが依然として占めているのが現状です。
―日本のドクターにメッセージをお願いします。
Alexander氏 心房細動患者の脳卒中発症リスクは、年間8%と言われています。それと出血リスクを勘案した上で、治療を行って欲しいと思います。日本の臨床現場でも、近くリバーロキサバンが登場すると聞いていますし、アピキサバンも日本、米国FDAともに現在審査中です。
新たな選択肢が登場し、ますます心房細動患者の新規抗凝固療法はエキサイティングな時代に入りました。アピキサバンは非常に、魅力的なプロファイルの薬剤ですし、患者にさらなるベネフィットをもたらすことができると期待しています。
(インタビュー 望月 英梨)