【ACC2012特別版】TRA 2°P –TIMI50 二次予防で抗血小板薬・vorapaxar上乗せイベント抑制も出血増加
公開日時 2012/03/26 05:00
アテローム血栓症の既往がある患者の二次予防をめぐり、標準療法である抗血小板療法に、抗血小板薬・vorapaxarを上乗せした結果、心血管イベントの発症を有意に抑制した一方で、出血リスクも増加させることが分かった。日本人580例を含む同剤の国際臨床第3相試験「TRA2°P(Thrombin Receptor Antagonist in Secondary Prevention of Atherothrombotic Ischemic Events)-TIMI 50」の結果から分かった。3月24日から米国・シカゴで開幕した米国心臓病学会議(ACC.12)のオープニングセッション「ACC.12 Opening Showcase and Late-breaking Clinical Trials」で、TRA2°P-TIMI50 Steering Committee and Investigatorsを代表して、 David A.Morrow氏が報告した。(米国・シカゴ発 望月英梨)
Vorapaxarは、血小板上のPAR-1(プロテアーゼ活性化)受容体を選択的に阻害することで、効果を発現する新規作用機序の薬剤。臨床第3相試験として、3万8500例の患者を対象に、“TRA Program”を実施しており、同試験もこの一環として実施された。非ST上昇型急性冠症候群(ACS)患者を対象として行われた「TRACER」試験では、標準療法への同剤の上乗せによる心血管イベント発症抑制効果はみられず、出血リスクを増加させることが報告されている。
TRA2°Pは、心筋梗塞、虚血性脳卒中、PAD(末梢動脈疾患)のいずれかの既往があり、抗血小板療法などのアテローム血栓症の治療を1年以上受け、安定した患者を対象に、標準療法(アスピリン+チエノピリジン受容体拮抗薬)に同剤を上乗せすることによるイベント発症抑制効果を検討する目的で実施された。
日本を含む32カ国1032施設から登録された2万6449例を、①Vorapaxar2.5mg/日群(1万3225例)②プラセボ群(1万3224例)――の2群にランダムに割り付け、最低1年間追跡した。登録期間は、2007年9月から09年の11月までで、日本人は580例含まれている。主要評価項目は、心血管死+心筋梗塞+脳卒中の複合エンドポイント。
患者背景に2群間で有意差はなく、アテローム血栓症である心筋梗塞はともに67%、PADは14%、脳卒中はプラセボ群で19%、vorapaxar群で18%含まれていた。抗血小板薬の2剤併用(DAPT)は、PAD患者で28%、脳卒中患者で8%に行われていた。追跡期間(中央値)は30カ月間。
同試験は、試験中の安全性レビューの結果、脳卒中の既往がある患者で頭蓋内出血の発現率が増加することが分かったため、2011年1月にデータ安全性モニタリング委員会から、脳卒中の既往がない患者を対象に試験を継続することが勧告されている。
◎vorapaxar投与で心血管イベントを13%低下も 脳卒中既往患者で高い出血リスク
Kaplan-Meier法による3年後の推定主要評価項目(心血管死+心筋梗塞+脳卒中)の発生率は、プラセボ群の10.5%(1176例)に対し、vorapaxar群で9.3%(1028例)で、vorapaxar群で有意に低下する結果となった(ハザード比(HR):0.87、 [95%CI:0.80-0.94]、p<0.001)。
心血管死+心筋梗塞+脳卒中+緊急冠血行再建術の複合エンドポイントは、プラセボ群は12.4%(1417例)に対し、vorapaxar群で11.2%(1259例)で、vorapaxar群で有意に低下している(HR:0.88、[95%CI:0.82-0.95]、p=0.001)。そのほか、心血管死+心筋梗塞もvorapaxar群で有意に低下していた(HR:0.86、[95%CI:0.78-0.94]、p=0.002)。特に、心筋梗塞患者では、有意に低下する傾向がみられた。ただし、有効性のサブグループ解析からは、低体重(60kg未満、p=0.033)、脳卒中の既往歴がある患者ではvorapaxar群で悪い傾向が見えた。
一方、安全性については、GUSTO出血基準による、中等度+重度の出血は、プラセボ群の2.5%(267例)に対し、vorapaxa群では4.2%(438例)で、ハザード比は1.66で、vorapaxar群で有意に増加する結果となった(95%CI:1.43-1.93、p<0.001)。TIMI基準による臨床上重大な出血、TIMI基準による冠動脈バイパス術(CABG)によらない大出血のいずれの項目も、vorapaxar群で有意に増加した。また、頭蓋内出血も、プラセボ群の0.5%(53例)に対し、vorapaxar群は1.0%(102例)で、ハザード比は1.94で、vorapaxar群で有意に上昇した(95%CI:1.39-2.70、p<0.001)。
脳卒中の既往の有無に分けてみると、脳卒中の既往がある患者では、CABGによらないTIMI基準による大出血は、プラセボ群の2.1%に対し、vorapaxar群では4.1%で、1.87倍に有意に上昇する(p<0.001)など、脳卒中の既往がある患者で出血リスクが高い傾向がみられた。
頭蓋内出血の発生率を、脳卒中の既往の有無にわけてみると、既往あり群では、プラセボ群で0.9%、voraapaxar群で2.4%だった(HR:2.55、p<0.001)のに対し、既往なし群では、プラセボ群0.4%、vorapaxar群0.6%で、vorapaxar群で有意に高いものの(HR:1.55、p=0.049)、既往歴がある患者に比べ、少ない結果となった。
◎ネットクリニカルベネフィットで有意差も
これらの結果から、有効性と安全性の差である“ネットクリニカルベネフィット(心血管イベント抑制効果-出血リスク)”をみると、全ての患者を対象にすると、死亡+心筋梗塞+脳卒中の発症抑制効果から、GUSTO診断基準による中等度+重篤な出血の頻度を考慮すると、vorapaxar群で11.9%、プラセボ群は12.8%で、相対リスク減少率は8%だった(p=0.020)。この傾向は脳卒中の既往がない患者(RRR:11%、p=0.010)、さらに脳卒中/TIAの既往がなく、体重60kg以上の患者(RRR:16%、p<0.001)ではさらに強くなる傾向を示した。
Morrow氏は、標準療法に同剤を加えることで、心血管死+心筋梗塞+脳卒中を有意に減少する一方で、出血リスクも増加するとした上で、「PAR-1受容体阻害薬は、アテローム血栓症の再発抑制における効果的なアプローチ」とした。その上で、心筋梗塞患者では高い有効性が示せたことから、「長期間の二次予防を行う上で、さらに積極的な抗血小板療法が再発を抑制する」との考えを示した。
一方で、「脳卒中の既往がある患者では、受け入れがたい頭蓋内出血のリスク増加がみられた」と指摘。PADへの効果もはっきりしないことから、「抗血栓効果によるベネフィットと出血によるリスクのバランスがとれた患者選択が必要不可欠」と指摘。「全てのアテローム血栓症患者への投与が必要だとは考えていない」と断った上で、出血リスクの予測因子が分かっていることから、実臨床においては、患者を選択し、適切な投与を行うことが可能との考えを示した。
なお、同試験の結果は同日付の「The New England Journal Of Medicine」に掲載された。