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玩具メーカー・レゴの成長、挫折、復活、躍進の波瀾万丈物語

公開日時 2014/10/15 05:00

情熱的読書人間
榎戸 誠

【進化する玩具】

先日、姪の家を訪れた時、保育園児の遼平君が、目を輝かせて見せてくれた組み立て玩具の変幻自在ぶりに驚いた。私の子供の頃のおもちゃとは隔世の感があり、そのあまりの進化に舌を巻いたのである。姪に何という企業の製品か尋ねたところ、レゴとバンダイということであった。

  

【イノベーションの参考書】

レゴはなぜ世界で愛され続けているのか――最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理』(デビッド・C・ロバートソン、ビル・ブリーン著、黒輪篤嗣訳、日本経済新聞出版社)は、一時は破綻の淵まで行きながら、今や世界1位にランクされるレゴというデンマークの玩具メーカーの復活の物語である。おもちゃ業界の話ではあるが、他業界の経営幹部、マネジャー、社員にも参考になる事例が次から次へと登場してくる。「本書にはレゴの倒産の危機と劇的な復活、それに近年のめざましい躍進が描かれている。そこにはイノベーションの取り組みを改善するうえで、参考になる事例がきっと見つかるだろう」。

 

本書が読み応えがあるのは、●デンマークの片田舎の玩具メーカーが世界中の子供や親たちに愛され続けてきたのはなぜか、●成功体験が禍して、破綻の危機に瀕したレゴが大胆な改革に乗り出したのに、大失敗に終わったのはなぜか、●その苦い経験を踏まえて、再度改革に取り組み、遂に復活、さらに躍進を遂げることができたのはなぜか――が、経営学の観点から具体的に検証されているからである。

 

【子供と親たちに愛されるのは】

「わたしはレゴブランドの人気の高さに驚かされた。誰のなかにもある実験精神や遊び心を呼び覚ます力があるのが、人気の要因だった」。

 

「見よ、レゴのブロックを! 世界中の親たちが今日もどこかで素足で踏んで、痛い思いをさせられている、あの角張った形の、カラフルなプラスチックの直方体を。ブロックの一個一個は規格化されたプラスチック製品にすぎず、魂や生命を宿しているようには見えない。少なくとも、まだ眠りからは覚めていない。長方形のブロックの表面にある8つのポッチと、内側の3つのチューブに秘められた可能性が感じられるだけだ。しかし無機的なブロックをいくつか手に取って、かちりとはめ合わせると、たちまち無限の可能性が広がり始める。わずか6個のブロックで、じつに9億1500万通り以上の組み合わせがある。・・・レゴブロックの誕生と特許の取得から50年以上が経った。そのあいだにレゴブロックは、無数の子どもやおとなたちの想像力を掻き立ててきた。今では、創造性を引き出すブロックとして、世界にその名を轟かせている」。

「創業以来およそ80年にわたって、レゴはレゴブロックのように頑丈で、レゴブロックに命を吹き込む9歳児のように柔軟性に富むことを証明してきた」。

アダム・リード・タッカーは「建築家フランク・ロイド・ライトの傑作『落水荘』の模型をレゴブロックだけで制作し、さらにはそれをシリーズとして商品化した人物だ」。この「落水荘」の模型は、実に見事な傑作で、何度見ても惚れ惚れする。

 

【改革の失敗】

「レゴが子どもたちに人気があるのは、楽しいからであり、親たちに人気があるのは、教育的な効果があるからだ。両者の組み合わせが功を奏し、レゴの売上は数十年間、記録的な伸びを維持してきた。しかし20世紀末、子どもたちの生活が変化するにつれ、ブロックというおもちゃは試練にさらされた。テレビゲームや携帯音楽プレーヤーなど、ハイテク機器に夢中になる子どもたちの心をつかもうと、玩具メーカーがしのぎを削り合い、おもちゃの世界で生き残るのはどんどんむずかしくなっていった。アナログのおもちゃを主力商品にしていたレゴが気づいたときにはもう、変化のめまぐるしい、競争の熾烈なデジタルの世界で、遅れを取っていた」。

レゴは後れを取り戻そうともがくが、「2003年、レゴブロックがフォーチュン誌とイギリス玩具小売業協会から20世紀を代表するおもちゃだと讃えられてからわずか3年後、レゴは創業以来最大の損失を計上した」。

苦境を脱出するために、新経営陣が打ち出した新方針が、イノベーションの「7つの真理」であった。

 

●創造性と多様性に富んだ人材を揃える
●ブルー・オーシャン市場に進出する
●顧客主導型になる
●破壊的イノベーションを試みる
●オープンイノベーションを推し進める――群衆の知恵に耳を傾ける
●全方位のイノベーションを探る
●イノベーション文化を築く

 

「しかし、レゴが突然、危機的な状況に陥った最大の理由は、あのイノベーションの『7つの真理』にあった。大胆に新しい手法を取り入れると、はじめのうちは何もかもうまくいったとしても、長期的には低迷につながることが多い。『7つの真理』のどれか1つを取り入れたほかの企業は、それによって成果をあげている。しかし、7つすべてをいっぺんに取り入れたレゴは、破綻の危機にまで追い込まれた」。イノベーションの「7つの真理」の方針そのものは正しかったが、実行の仕方を間違えたせいで、レゴは倒産の危機にまで追い込まれるのだ。

 

【再度の挑戦】

次に経営責任者となったヨアン・ヴィー・クヌッドストープは、前任者のイノベーションの「7つの真理」に基づき、いかにして目標を定め、すべきことを明確にし、どういう順序でそれを実行していくかを、全社員に徹底した。

「レゴは苦労しながらも、新経営陣のもとで、近年における最高の成功事例と呼べるほど、みごとな再建を成し遂げた。・・・新生レゴは世界で初めて、組み立て式アクションフィギュアを開発するとともに、アクションフィギュアの魅力に奥行きを与えるため、9年にわたってストーリーも提供した。また、子どもたち(と専門知識を備えたおとなのファンたち)がレゴでプログラム可能なロボットを組み立てられるよう、『インテリジェントブロック』を使った新シリーズも立ち上げた。さらに、ユーザーが自分で作ったり、作り直したりできるレゴのボードゲームも売り出した。製品開発の過程をオープンにして、ファンたちに自作のレゴセットをアップロードしてもらう取り組みも始めた。加えて、商品ラインアップの中心をなす伝統的なシリーズも見直し、レゴらしさを保ちつつ、21世紀の子どもたちに受け入れられるように改良している。その結果、レゴは窮地を脱したばかりか、業界最高の利益と成長率を成し遂げた」。

「何よりクヌッドストープたちは、戦略もおろそかにはできないが、人材の多様性と創造性が競争力のいちばんの源であるという結論に達した。結局のところ、戦略はまねされてしまうが、人材はまねされない。ポール・ブローメン(前経営責任者)の時代と比べて、レゴがもっとも変わったのは、おもちゃを作る人間や売る人間が、情熱と創造力のすべてを仕事に注ぎ込もうとする文化が築かれた点だ」。この一節は、とりわけ心に沁みるなあ。

「マネジャーはときとして愚かさではなく、賢さのせいで失敗する。賢いマネジャーほど、過去の成功戦略に従おうとするからだ」。この言葉も、心に響く。

レゴの失敗と成功の事例を辿ることで、多様なイノベーションをどう連携させたらいいか、熱心なユーザーや外部パートナーとどう協力関係を築けばいいかが見えてくるだろう。しかし、レゴブロックで遊ぶときと同じで、自分や自社にとってどうするのが一番いいかは、自らの想像力と経験によって導き出すしかない。「ブロックを組み立てるのは、みなさんだ」。

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