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患者から選ばれる大学病院Webサイト

公開日時 2016/08/31 00:00

マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

順天堂医院が取り組むデジタル戦略

 

病院のデジタル戦略にも大きな変化が。順天堂大学医学部附属順天堂医院はこのほど、自院のWebサイトを全面リニューアルした。国が地域包括ケアシステムを強く打ち出す中で、大学附属病院であっても地域住民や近隣の医療施設とのコミュニケーションにデジタル情報を活用する事例が増えている。今回、順天堂医院のWebリニューアルを手掛けた電通デジタル・WEBインテグレーション事業部長、プロデューサーの新井祐一氏に、これからの医療分野に求められるデジタル戦略の新たな方向性についてお話をうかがった。

 

佐藤 正晃 氏
MC3.0研究所
主宰
新井 祐一 氏
電通デジタル
WEBインテグレーション事業部長
プロデューサー

佐藤 まず、電通デジタル設立の背景について教えてください

 

新井 この7月に新会社として立ち上がった。デジタル化の進展とテクノロジーの進化が、生活者の行動様式や企業のマーケティング・プロセスを変化させています。
ビジネスの潮流がマーケティングコンバージェンスへと向かう中、その核となるデジタルマーケティングも統合の時代を迎えました。
それは顧客企業の重要課題であり、その期待にお応えするために、「電通デジタル」は設立されました。
今回の順天堂大学医学部附属順天堂医院のWebサイトリニューアルの仕事は、もともと電通の仕事として取り組んでいたもの。

 

佐藤 これまでの紙媒体やテレビと違ったデジタルソリューションの世界において、医療分野はどのような位置づけになるのですか。

 

新井 製薬業界を含めた医療分野はポテンシャルの高い市場だと思う。是非取り込みたい。実は製薬企業の方が、対医師とのコミュニケーションについてデジタル化が進んでいる。そこを支援することは大切と考えている。

 

 

自分達のあるべき姿を描き直し、デジタル戦略に落とし込む

 

佐藤 さて、本題に入ります。今回の順天堂医院のWebリニューアルについてですが、まず、このビジネスに取り組む背景について教えてください。

 

新井 2014年の冬ごろだったと記憶しているが、順天堂医院からWebをリニューアルしたいとの依頼があった。その背景には、地域包括ケアや地域連携、グローバル化など外部環境の変化にともない、自分達のあるべき姿を描き直し、デジタル戦略に落とし込んでみたいとの依頼を受けた。最終的にはWebサイトのリニューアルとなった。作業期間は1年程度を要した。まずブランディングを議論し、最終的にはリニューアルしたWebサイトをどうPDCAを回し運用するかについて一連の流れを設計し、今年の春にフルリニューアルに至った。

 

 

リニューアル対象ページを
スマホ対応

 

佐藤 何故、そこまで順天堂医院はデジタルに力を入れたのですか。

 

新井 今回の一連のプロジェクトのコンセプトは「伝統と革新の融合」というものだった。具体的に言うと、1つ目は利用者本位のページ設定にすること。2つ目は、診療科目や部門においてグランドデザインとして統一すること。3つ目が他の医療機関と一線を画すような斬新なブランドデザインとする。これらの解決が求められ、まずオウンドメディアに反映させた。東京都文京区には沢山の病院がある。まさに患者にとってアクセスビリティーが求められる。ところがWeb情報にアクセスしても、観たい情報が見つからない、観にくいなどの課題がある。患者にとって情報がとりにくいのは二重苦、三重苦となる。このためユーザー本位のサイトリニューアルを目指すことになった。

 

佐藤 具体的な戦略提案のうち、どのような要件定義を行いましたか。特に注目すべきユーザーインサイトとは?

 

新井 順天堂医院にとって、地域連携やグローバル化において、様々なステークホルダーが増えている。どのターゲットを優先してコミュニケーションするかという、そのためのターゲット設定と情報設計が重要と考え、病院側の意図と外部環境から優先順位を設けた。まずは患者、次に医療従事者、そして地域の医療施設とした。特に患者については、初診、検診、救急搬送などターゲット、セグメント化して、ペイシェントジャーニーを描きそれに基づいたサイトデザインを心掛けた。ペイシェントジャーニーを明らかにすることで重要情報へのアクセスを最短距離で可能にしたのが最大の特徴だ。
さらにリニューアル対象ページをすべてスマホなどマルチデバイス対応にした。

 

佐藤 医療関係者向けにも門戸を開いているとの印象を受けていますが。

 

新井 医療従事者も2パターンある。勤務医、看護師、研修医など医療サービスを提供する従事者の採用の側面と、学生、研修医など人材育成の側面のそれぞれについてセグメント化している。また、患者を紹介して下さる先生方向けに「地域医療連携室」関連のコンテンツも設けた。まさに順天堂医院ならではの取り組みを反映している。

 

 

Webサイト入口を
患者と医療者向けに分類
 

佐藤 サイトの入り口は患者向けと医療従事者向けの大きく2つに分かれているが、その意図は。

 

新井 病院のWebサイトの場合、施設情報などハード面から導線を敷くのが一般的だ。だが、我々は患者の気持ちや医療従事者側の思いを受け止め、サイトの入り口は、自分がまず、どのタイプで順天堂医院にアクセスしてみたいかというストーリーに沿って情報を並べた。この結果、従来の病院サイトのイメージを覆すようなブランド重視のトップページとユーザビリティ重視の下層ページの2層構造の考え方を反映した。

 

佐藤 医師や研修医へのヒアリングも行ったのか。

 

新井 大規模な調査は行っていないが、何人かの医師にはヒアリングを行った。その内容を踏まえ、カスタマージャーニーやペイシェントジャーニーを策定した。今回難しかったのは、B to B to Cのビジネスモデルにあって、ターゲットをCとして一括りにするのではなく、その間にBが入るということ。これはもしかすると地域行政の担当者や、製薬企業、医薬品卸などのサプライヤーがサイトを訪れるということも意識しながら設計を行っている。

 

佐藤 ブランディングについて、病院側はどの辺に気をつけたのですか。

 

新井 今回はまさにブランドの再生がメインとなった。病院のブランディングというとピンとこないが、昨今の広告規制に変化が見られることや、今後の医療政策の方向性、特に地域連携などを主軸に考える必要があった。患者視点からすると自分にあった治療方法として順天堂医院には何が存在し、それを受けられるのかが知りたい。加えて、その治療をどの医師から受けられるのか。さらには、その医師の実績はどうなのか。こうしたマインドで病院のWebサイトにアクセスしてくる。これが病院選びとなる。となると、一般企業と同様のブランディングが求められるだろう。順天堂医院に限ったことではないが、地域の基幹病院にあって、患者からどう見られるかでミスマッチがあってはならない。我々としては、順天堂医院がどんな価値を提供できるかをいったん棚卸して、再定義を行った。
Webサイトのリニューアルにおけるブランディングとは、システムやデザインに引っ張られることが多い。我々としては、ユーザーオリエンテッドでユーザーの求める価値との整合性を図ることが大切だ。今回はデザインと情報設計とユーザビリティ、多言語対応、システムに注力した。

 

佐藤 具体的なWebサイトの仕様を教えてください。

 

新井 サイトは全体で2000頁を超える規模となった。この規模は、一部上場企業の中でも、事業を多角化しているような大型クライアントに匹敵する。もちろん順天堂医院に限らずグループ病院や他外部施設とのリンクやサイト内検索の充実などにも注力した。そのほかに、WebサイトにアクセスするターゲットユーザーがCに止まらず、Bがアクセスすることも想定している。グローバル化の観点からは、多言語対応も重要で、英語、中国語、ハングル語を用意した。結果的にそれなりのページ数となった。

 

佐藤 これはすごいですね。病院側も気づいていない要件では。

 

新井 いままでは診療科目ごとに受付や診療時間といったファクトベースの情報が中心となったが、結果的に各科目のプロファイルなどになったりした。今回はブランドと情報のガバナンスが重要だと考え、単にCMSを導入するだけでなく、サイトコンテンツの更新を想定し、診療科ごとにルールを設定している。院内のシステム部門に丸投げするのでなく、院内に医療者全員で運営していくという意識づけが大切と考えた。動機づけのための仕組化を進めている。このためWebサイトで掲載する写真などはインターナルコミュニケーションを意識して、実際の医師や従事者に登場して頂いている。リアルな現場を紹介することが誠実さにつながると考えた。ただ、これを構築するなかでの苦労も多かった。診療科数が40を超える中で、各担当者との調整が難航したことは言うまでもない。

 

 

病院と製薬企業の
コラボデジタル戦略の可能性

 

佐藤 病院のオウンドメディア戦略と製薬企業について教えてください。

 

新井 製薬企業がもっと担うところが多い。使命や義務よりもビジネスチャンスと捉えるべきだ。施設としての点のコミュニケーションから地域をカバーする面のコミュニケーションを考えると、地域連携の拠点は基幹病院になることが多い。病院と患者の関わりの中で、薬剤が投与するまでは長い道のりがあり、そこに対し、製薬企業が入り込む余地はあるのではないか。疾病啓発などすでに様々なコンテンツをもっている。これを地域や病院用にカスタマイズして提供することも一考だ。予防や治療の継続性などにも寄与する。さらに地域包括ケアシステムの中での橋渡し役などを果たすこともできる。患者には治療が分断されることに対し不安がある。患者が迷わない、不安に思わないような情報提供の一翼を製薬企業が担うこともできるのではないか。

 

佐藤 地域の患者を病院とマッチングさせるという視点でのデジタル戦略の可能性は。

 

新井 システマチックにやるにはFAQなどがある。Webから入ってきて、医師とつなげて予約までできるといことも将来的には可能だろう。さらにサイトへの流入に至った検索ワードなどを追跡することで、サイトの分析から受診を結びつけることもできるかもしれない。病院選択にWebサイトが活用される時代になった。各ターゲットに必要な情報を提供する。初診、再診、継続などによっても異なる。初診はファクトベースだが、一度受診すると医師に対する満足度が変わってくる。Webに対する情報満足度も違っている。患者の受診行動を点だけでなく、線でつなげていく視点が求められる。印象的なのは、患者からのヒアリングの中で、「人生は選択の連続」というのと同じで、「治療は情報の選択」と一緒で、「命は治療の選択であり、病院の選択である」という。まさに適切な情報かどうかが命取りになる。これは単なるWebサイトのリニューアルだけでは済まされないと感じた。これは医師側も同じだろう。Webサイトでマッチングができないと、リアルな現場でのマッチングも難しいということになるだろう。

 

佐藤 最後に、これからの課題について教えてください。

 

新井 これからは事前にWebサイトで情報を集めて受診したのに、待ち時間が何時間も有っては元も子もない。どういう手順で自分の診療が進んでいくかデジタルテクノロジーを活用して、もっと便利にしてあげることが求められる。オウンドメディアからのスマホ対応なども課題だ。あとは電子カルテとの連動など、地域の施設と連携して医師と患者のコミュニケーションデータベースや、医療者間同士のコミュニケーションを構築することで、ストレスフリーのプラットフォームが構築できるのではないかと思う。医療従事者間や施設間のネットワーク(内向き:ID-Link)は、電子カルテ含め進んでいる。病院と患者を結ぶコミュニケーション(外向き)は病院Webサイトの拡充を通して、今後は促進されるであろう。更に、内向きネットワークと外向きコミュニケーションが1つのデジタルインフラとして接合した際(お薬電子手帳やウェアラブルなども含む第三者サービスも合流)、真の医療改革、患者にとって重宝できる医療プラットフォームになると思う。いつでも、どこでも自分に相応しい医療を、過去の延長線上で、受けられることになると思う。

 

佐藤 きょうは貴重なお話をありがとうございました。

 


マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃(一般社団法人医療産業イノベーション機構 主任研究員)

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