政府・全世代型社会保障検討会議 医療、予防・介護を含めて中間報告とりまとめへ 政府・与党調整がカギ
公開日時 2019/11/27 04:52
政府の全世代型社会保障検討会議(議長:安倍晋三首相)は11月26日、この日で議論を一巡させ、中間報告の取りまとめに着手することを確認した。安倍首相は、「年金、そして労働、医療、介護など社会保障全般にわたる改革を取りまとめる必要がある」と発言。医療・介護も含めた“パッケージ”として改革に取り組む姿勢を鮮明にした。焦点となるのが、医療制度改革の在り方だ。改革項目には、後期高齢者の窓口負担引上げ、外来受診時定額負担、OTC類似薬の給付範囲の見直しなどが並ぶ。すでに与党・自民党の支持団体である日本医師会が外来受診時定額負担制の導入に反対の立場を示すなど、中間報告の取りまとめに向けて課題を露呈している。安倍首相は「与党との調整も十分に図りつつ、具体的な検討を進めていく必要がある」と期待を寄せるが、最終調整は予算編成直前まで紆余曲折が予想される。
◎「時は熟した」-麻生財務相
「後期高齢者の負担や受診時定額負担など、これまで長く検討課題とされてきた項目について、この機を捉えて先送りせず結論を出していくべきではないか。団塊世代が75歳に到達する2022年まで時間はない。時は熟した」-。麻生太郎財務相は会議でこう述べ、改革の断行を迫った。
全世代型社会保障検討会議は、「年金」、「労働」、「医療」、「予防・介護」についてパッケージとして改革を進める。政府は当初、年金や労働・雇用の議論を先行させる方針だったが、この日の会議でも「後期高齢者が急増する2022年の年初までに間に合わせるべき」との意見が民間議員からあがるなど、医療、予防・介護を含めた対応を求める声が政府部内から強まっている。
“給付と負担”の議論について加藤勝信厚労相は、「来年夏に向けて関係審議会で具体的な検討をお願いしている。高齢者をはじめ、国民の生活に影響を与える課題であることから、様々な角度からデータに基づき、国民生活への影響を丁寧に見極めながら進めていく必要がある」と、時間を割いた慎重な議論の必要性を説いた。その点で言えば、「時は熟した」と発言した麻生財務相とはスタンスの違いを滲ませている。
制度改革の実現には、国民からの納得を得られる医療・社会保障のビジョンが必要不可欠だ。財政論に偏るのではなく、「医療の質」を維持する議論の重要性を指摘する意見もある。加えて、日本医師会をはじめとした医療関係団体や国民を巻き込んだコンセンサス構築が不可欠となる。中間とりまとめに際しては、関連法規の見直しや施行時期も視野に議論が進むものと見られるが、高齢者の自己負担割合の引上げや受診時定額負担制については、全ての団塊世代が後期高齢者となる2025年を待たず、2022年をマイルストーンに据える意見が強まっている。であるならば、改革プランの「大枠」を示す中間報告の取りまとめは、この年末の予算編成のタイミングがギリギリと言える。医師会に限らず医療関係団体は与党・自民党の支持母体だけに、最終決着に至る過程において、政府・与党による調整がカギを握ることになる。
◎焦点は政府・与党調整 受診時定額負担に医師会は反対姿勢
焦点となるのが、受診時定額負担の導入だ。日本医師会の横倉義武会長は11月8日の会議で、「将来にわたり患者に最大3割までしか負担を求めないとしてきた、これまでの国民皆保険の原則を破る」として、受診時定額負担の導入に強く反発している。これに対し、この日の会議に出席した民間議員からは、「医療保険制度はリスク全般に対応し、大きなリスクに対しては高額療養費で対応する」と指摘し、高額療養費制度を含めた制度全般の改革の必要性を説く意見も見られた。
一方で、後期高齢者の自己負担割合の2割引上げについては、多くの民間議員が支持する状況にある。「75歳以上で少なくとも2割を負担するという改革を速やかに進めるべきではないか。そのうえで低所得者対策などの具体的設計を行っていくべき」などの意見が出た。日本医師会も、「低所得者の方に十分配慮しながら、国民が納得できるよう十分な議論を尽くしていくべき」、「国民が納得していただくような形で、負担ができる方には負担を上げていくということには賛成をしているところ」と述べ、結論を急ぐことなく慎重な議論を継続する姿勢を示している。
◎国民医療を守る会が「決議」 与党内に高齢者の負担増に慎重意見
政府の中間報告とりまとめまで約半月間の攻防がスタートする。高齢者の窓口負担問題を含めて、なお調整が必要な改革項目は多く、中間報告段階でどこまで書き込めるかは不透明だ。この日は、自民党の「国民医療を守る議員の会」が受診時定額負担について「絶対に導入しない」との決議文を採択した。後期高齢者の患者負担についても「十分な議論を尽くす」よう求めている。与党内では自民党の岸田文雄政調会長が本部長を務める「人生100年時代戦略本部」も中間とりまとめに向けた議論を行っているところ。与党内からは、政府の改革項目に対する慎重意見も上がっており、年末の政府・与党調整に早くも暗雲が漂っている。2020年度予算編成に際しては、全世代型社会保障のほかに、次期診療報酬改定も絡み、近年の制度改革論議に増して調整が難航するとの見方も拡がっている。(望月英梨)