シャペロン療法 対象候補は遺伝性希少疾患から拡大の可能性も アミカスセミナー
公開日時 2019/12/17 04:50
アミカス・セラピューティクス株式会社は12月12日、「シャペロン療法の変遷と展望~日本で生まれた難病治療の新たな可能性~」と題したメディアラウンドテーブルを開催した。遺伝性希少疾患のファブリー病治療薬として実用化されたシャペロン療法の生みの親である東京都医学総合研究所特別客員研究員の鈴木義之氏が講演を行った。
◎2018年5月に経口投与のファブリー病治療薬を発売
シャペロン療法は、小児科医として臨床現場で診断がつかない疾患に遭遇し、その診断・治療を目指してきた鈴木氏による日本発のアイデアで、希少疾患の治療薬開発に注力する米Amicus社が実用化を推進、日本では2018年5月にファブリー病治療薬ガラフォルドカプセル123mg(一般名:ミガーラスタット塩酸塩)の承認・発売に至った。それまでファブリー病治療は、酵素補助療法の点滴静注用製剤のみであったが、同剤の登場により経口薬による治療という新たな選択肢が加わった。
ファブリー病は指定難病のライソゾーム病に含まれる遺伝性希少疾患の1つ。細胞内小器官のリソソームはさまざまな酵素を使って細胞内の老廃物を分解するが、ライソゾーム病では遺伝子変異により、酵素機能の活性低下・欠損や酵素分子の立体構造異常を来たすことで分解が妨げられ、さまざまな症状が現れるようになる。
ファブリー病の場合、GLA遺伝子に変異が起こることで糖脂質の代謝に必要な酵素α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)がつくられにくくなり、その結果、糖脂質が臓器や血管の細胞内に過剰蓄積し、腎機能障害や心疾患、指先・手足の痛みなどが生じる。
◎感染症や悪性腫瘍に対しても「理論的にアプロ―チ可能」
酵素補充療法が体内で不足しているα-Gal Aを点滴で体外から補充する治療法であるのに対し、ガラフォルドカプセルによる薬理学的シャペロン療法は酵素分子の立体構造異常に着目して不安定なα-Gal Aの構造を安定させ、リソソーム内で酵素として働けるようサポートする。いわば体内にある酵素の活性を復元させることで、老廃物を分解という本来の機能を回復させる治療法といえる。
鈴木氏は「低分子化合物のシャペロン(ガラフォルド)は経口摂取できるうえ、血液脳関門も通過できるため、脳をはじめとする身体全体に分布するのが強み」と説明。そのうえで、シャペロン療法と酵素補充療法を比較した研究において「ファブリー病による左心室肥大の変化で、シャペロン療法でより明確に肥大が縮小したというデータもある」と紹介し、経口薬という利便性だけでなく脳や臓器など全身的な症状を抑えるうえでも有用であることを示唆した。ただし、GLA遺伝子の変異型は1000以上あり、同治療の対象は、その3~4割に適応する変異型に限られる。
シャペロン療法をひと言で言えば、タンパク質のミスフォールディング(折りたたみ異常)の矯正であり、その考え方を適用できる疾患は多い。実用化されているものは現在、ファブリー病のほか、繊維性嚢抱症、フェニルケトン尿症の一部にとどまる。しかし、ライソゾーム病に分類されるゴーシュ病、ムコ多糖症、その他の代謝異常(副腎白質ジストロフィー、2型糖尿病など)や遺伝性疾患(骨形成不全症など)、さらには神経変性疾患、感染症、悪性腫瘍などに対しても鈴木氏は「理論的にはアプロ―チ可能」と述べ、シャペロン療法の他疾患への広がりに期待を寄せた。
アミカスではガラフォルドのほか、同じくライソゾーム病に分類される進行性の筋疾患ポンぺ病に対する低分子シャペロンのパイプラインを保持しており、今後もシャペロン療法の技術を活用することによって、希少疾患の新薬開発に取り組んでいく方針だ。