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医療・医薬総合研究所の長野代表 INES提案「びっくり仰天した」 時間軸を切って結論を出し、提案する

公開日時 2021/12/03 04:52
一般社団法人医療・医薬総合研究所の長野明代表(元・日薬連保険薬価研究委員会委員長)は12月2日、本誌取材に応じ、新時代戦略研究所(INES)の提案するマクロ経済スライドを柱とした提案について、「びっくり仰天した」と述べた。薬剤費統制的なマクロ経済スライドと、市場拡大再算定の廃止などのイノベーション策について、「絶対に両方は成り立たない」と指摘。「医薬品の価値評価換算の仕組みとしてキャップのかけ方に利用するのは無理筋の極み」として、「強く反対する立場だ」と明言した。第一弾の企画プロジェクトである、薬価流通政策研究会(くすり未来塾)は、長野氏と、元厚労省医政局長の武田俊彦氏が共同代表を務める。近く提言をまとめる考えで、「時間軸を切って結論を出し、提案していきたい」と意気込みを語った。

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◎制度の評価、制度の改革議論は「この両者を俯瞰したものでなければならない」

「薬価流通政策研究会(くすり未来塾)」は12月1日、都内で発足の会を開いた。研究会ではまず、薬価および医薬品流通政策に関する研究会を開催する。長野氏は、「我が国の医療制度で世界に誇りうるものは、ひとつは国民皆保険制度だが、もうひとつは薬価制度だと思う」と強調。「時代とともに制度は柔軟に見直されるべきであることはもちろん必要だ。ただ、薬価制度は民間における新薬開発意欲や、民間の価格交渉をベースにするもので、公的制度と民間市場経済の両方にまたがる性格を持っている。つまり、制度の評価、制度の改革議論はこの両者を俯瞰したものでなければならない」との見解を示した。そのうえで、INES案については、「社会保障制度や医療保険制度、国民皆保険制度、薬価制度が何たるか、全く無理解だ」と断じた。

◎医療機器・材料 マクロ経済スライドの波及を懸念 技術革新を「根こそぎはぎ取る」

INES案では内閣府の中長期試算で用いるGDP成長率を活用することを提案している。INESは、GDPとして“2%”“1%”などの具体的な数値をあげているが、長野氏はコロナ禍で日本経済がマイナス成長となっていることや、少子高齢化が加速しており、いわゆる支え手が減少している中で日本が直面する社会保障制度の現状を指摘。今後5年間を見据え、INESが示すGDPの実現可能性の低さに言及した。

長野氏は、「医療産業全般でいくと、デバイス(医療機器)や医療材料でも、日本は競争力を高めないといけない。マクロ経済スライドを薬剤費に導入すれば、デバイスや医療材料にも波及する」ことも指摘した。マクロ経済スライドは年金制度にはなじむが、イノベーションになじまないと強調。マクロ経済スライドの導入は、「技術革新を医療から根こそぎはぎ取る」との見解を示した。

◎INES案に協賛の武田薬品「社内事情や業界他社事情の狭間で身動きが取れないのでは」

INES案には、ファイザー、MSD、武田薬品、ノバルティス ファーマ、マルホが協賛企業に名を連ねる。長野氏は、「武田薬品は長年、製薬企業の雄だった。そのトップリーダーが、社内事情や業界他社事情の狭間で身動きが取れなくなっているのではないか」との見方も示した。

◎薬剤費キャップ制、調整幅ゼロの提案について基本的考え方を公表


薬価流通政策研究会は発足の会を開いた12月1日、「薬剤費キャップ制、および調整幅ゼロの提案について」の基本的考え方をホームぺージ上に公表した。医薬品市場の伸びにGDPでキャップをかけることは、「イノベーションの振興という我が国の経済運営の基本戦略に反する」と指摘。「どう細部の提案を行おうと、薬剤費のキャップ制はイノベーションの否定であり、新薬開発インセンティブを否定する」としてドラッグ再燃を懸念した。

一方で、キャップ制を導入しなくても、「中期的には市場はコントロールされており、その理解があるからこそ現在の制度が継続してきた」との見方を示した。C型肝炎治療薬・ハーボニ―を引き合いに、医療の技術革新は国民の命を救うとともに、医療の質と効率化に寄与してきたと説明。薬剤費のキャップ制は、新薬が医療費を長期的に抑制する可能性があることを無視し、「医療費適正化の観点でも有害無益」とした。なお、世界主要国では、1人当たり医療費が1人当たりの経済成長率を上回っていることにも言及している。

◎中間年改定「例外的に薬価差が大きな購入者への調整も」 チェーン薬局視野

調整幅についても言及した。現在の調整幅2%は、流通実態を踏まえたものではなく、1998年度改定で、「長期収載品の引き下げ幅を大きくし財源を出すために政治決定で設定された数字であることを忘れてはならない」と指摘。その後、2000年の予算編成で、さらなる薬価抑制のために、5%の価格幅だった新薬にも長期収載品の2%を当てはめたとした。これにより、「流通実態を超える薬価引下げが繰り返される構造」となったとして、「今こそ、制度が流通実態を振り回すのではなく、あるべき流通にふさわしい制度を目指すべき」と主張した。

調整幅については、2%に固定された20年間の経緯を十分に検証することが必要として、本来取引条件の差などを考慮して設けられたものと説明。そのうえで、「薬局チェーンは1社あたりの店舗数が増大し続け、他方で小規模診療所・薬局は引き続き存在している」、「取引条件の格差は拡大する一方であり、調整幅の縮小はこうした取引実態に逆行した政策となる」と指摘した。

そのうえで、米国のメディケアを引き合いに、「諸外国の状況や国内の取引条件の格差拡大も勘案すれば、6%程度も合理的」と主張。「薬価差の縮小と国民負担の軽減は、調整幅以外の方法で目指すべき」とした。大規模チェーン薬局などのバイイングパワーの強さも指摘されるが、「一部の主体の価格(一部の品目ではない)を是正するのであれば、それこそ中間年改定で目指せばよいもの」と提案。中間年改定について、「例外的に薬価差が大きな購入者への保険支払いを本改定までの1年間臨時的に調整することも検討に値するのではないか」とした。

一方で、不十分な調整幅を設定した場合は、「卸事業者の弱体化を招く」と明記した。調整幅ゼロの議論については、「取引条件によって取引きが違うこと、すなわち経済合理性を意図的に無視している」と指摘。仮に、「“購入価=償還価格”を目指すのであれば、購入価償還方式(全取引主体で購入価で償還を行う)しかない」としたうえで、「実務的に天文学的スコアを強いる反面、薬価差が生じないため、実勢価による薬価引き下げは不可能になる」として、発想そのものを否定した。

◎医薬品の価値による薬価算定という新ルール“Value-Based Medicine”の検討も

このほか、医薬品の価値による薬価算定という新ルール“Value-Based Medicine”を設けることを提案した。

今後の構想として長野氏は、来夏以降に幅広く医療保険について議論する考えも披露した。「薬価を常に見据えながら、幅広に医療保険制度を提言に加えていこうと思っている」と述べた。具体的には、「給付と負担」の議論をあげ、「公的保険外での医薬品の使用(混合診療の容認と民間保険の活用)」、「効果があった場合のみ保険償還できる仕組み(成果報酬型の薬価支払い)」、「現行、市場拡大再算定などの価格調整の仕組み」をあげ、新薬メーカーの意見を聞きながら検討を進める考えを示した。

◎長野氏 「医薬品業界、医療業界、多くの方が議論に参加していただく場に」 


長野氏は、「医療・医薬を幅広く提案できる団体を目指し、一般社団法人を立ち上げた。医薬品業界外の産業の皆様、医療従事者の皆様に、メディアの皆様に幅広くこの議論に参加していただく場とするために、くすり未来塾については武田俊彦氏と共同代表として、しっかりと時間軸を切って結論を出し、提案をしていきたい。幅広いご支援ご鞭撻とご協力、ご批判をお願いしたい」とメッセージを送った。(望月英梨)
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