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製薬トップ年頭所感 社会課題解決に意欲 イノベーション追求、患者が待ち望む新薬を1日も早く届ける

公開日時 2023/01/06 04:50
研究開発型の国内製薬企業各社は1月5日までに、経営トップの年頭所感を発表した。イノベーションを追求して患者が待ち望む新薬を1日も早く届けることの決意が改めて示されたほか、社会課題を事業の中に取り入れて、課題解決に取り組むことの重要性を示す内容も散見された。ウィズコロナの中で日常を取り戻しつつある社会の現状を背景に塩野義製薬の手代木功社長は、「『社会そのもの』をより安心できる状況へと戻していくために、感染症メーカーとして精一杯、社会貢献していく」との考えを示した。

なお、第一三共は2022年から、アステラス製薬は今年から、経営トップの年頭所感を発表しないことにした。第一三共は、年初めではあるものの、3月期決算企業の期中に経営トップの所感を発表することは取りやめたとしている。武田薬品は5日、本誌に、年頭所感を発表するかを含めて「検討中」と答えた。

◎エーザイ・内藤CEO レカネマブの承認可否を控え「緊張感を持って迎えた年始となった」

エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOは年頭所感の冒頭で、日米欧で22年度中にフル申請を完了させ、23年の承認取得を目指すアルツハイマー病治療薬候補・レカネマブに触れた。「米国でのレカネマブの迅速承認の可否のタイミングを控え、緊張感を持って迎えた年始となった。新たな治療薬を1日も早く届けてほしいという人々の期待に応えていかなければいけない」と述べ、承認取得への決意とともに、その緊張感も示した。

同社は22年に17年ぶりに定款を改定した。ヒューマン・ヘルスケア(hhc)理念のもと、「日本発のイノベーション企業として人々の健康憂慮の解消と医療較差の是正という社会善を効率的に実現する」ことを定款に加えた。

内藤CEOは新定款について、「当社の社会課題解決に取り組む姿勢を改めて明確に定めた」ものだとした。そして、現代社会の企業には「従来の『リスク』、『リターン』に加え、『インパクト』の評価軸を踏まえ、社会課題の解決に取り組むことが期待」されているとの認識を示した上で、「当社の新たな定款は、その期待に合致するものである」とし、新定款のもと全社一丸となって邁進していくとした。

◎中外製薬・奥田社長CEO 「23年も患者さんの声に耳を傾け、事業活動に取り入れる」

中外製薬の奥田修社長CEOは、「中外製薬が最も優先する価値観は『患者中心』」とした上で、「23年も患者さんの声に耳を傾け、事業活動に取り入れるとともに、患者中心の医療の実現を目指すパートナーとしてイノベーションの追求に邁進していく」との新春メッセージを寄せた。

23年に新たな創薬研究拠点となる「中外ライフサイエンスパーク横浜」が稼働する。奥田社長CEOは、「国内の創薬研究を1か所に集約し、創薬力を最大限に発揮する体制が整った」とし、「異なる分野の研究者の交流や知識の融合を促し、革新的新薬を生み出す力とするとともに、AI創薬やロボティクスを取り入れた次世代ラボオートメーションを実現させ、研究生産性や質の向上を目指す」と抱負を語った。

臨床開発では、独自の抗体エンジニアリング技術を用いた新規抗体プロジェクト「DONQ52」について、セリアック病を対象に22年に第1相臨床試験を開始したことに触れ、「患者数が多く、現在は食事療法が治療の中心であるこの疾患に対し、マルチスペシフィック抗体によって革新的治療薬の実現を目指す」とした。セリアック病は小麦、大麦、ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症のことで、小腸の粘膜に特徴的な変化を起こし、吸収不良が生じる。

◎塩野義製薬・手代木社長 “社会そのもの”をより安心できる状況に戻すことに貢献

塩野義製薬の手代木功社長は、同社にとって22年の最も大きな出来事は経口新型コロナ治療薬・ゾコーバ錠の緊急承認の取得であったことに「間違いはない」と振り返った。多くの医師や患者から期待と感謝の声があったと言い、「これこそヘルスケアカンパニーとして何よりの喜び」だとした。ウィズコロナの中で日常を取り戻しつつあるなか、「SHIONOGIには、社会から期待されていることがまだまだある」と指摘。社員に対し、「1日も早く、皆さんに通常の生活にお戻りいただいて、『社会そのもの』をより安心できる状況へと戻していくために感染症メーカーとして精一杯、社会貢献していこう」と呼びかけた。

◎今年の一字は“直” 「直接的に取り組み、必ず成果を出す」、「素直な態度」との想い込め

年始に示す恒例の一字は「直」とした。文字通り「まっすぐに」、「やるべきことをやる」との意味であり、「直」には「伸ばす」との意味も含まれるという。

手代木社長は社員に向けて、それぞれの目標に「直接的に取り組み、必ず成果を出す」ことのほか、コンプライアンスやダイバーシティ&インクルージョンに関して学び、直すべきところは直していく「素直な態度」という想いをこの一字に込めたと説明した。また、「直」の部首は「目」だとし、「目を見開いてまっすぐに見ることから来ている。胸を張り、まっすぐ前を見て大きく成長していこう」とも呼びかけた。

◎住友ファーマ・野村社長 ラツーダ依存の収益構造から脱却し、新たな成長への転換点に

住友ファーマの野村博社長は、22年について、マイオバント社の完全子会社化に関する契約締結など重要イベントがあった一方で、▽米国での抗パーキンソン病薬・キンモビの販売不振による約544億円の減損損失の計上、▽国内でのGLP-1受容体作動薬・トルリシティの販売提携終了――など「厳しい事案もあった」と振り返った。23年も最主力品の抗精神病薬・ラツーダが2月に米国で特許切れを迎え、厳しい状況が続く見通しだが、野村社長は、「23年度及び24年度は、米国のラツーダに依存した収益構造から脱却し、新たな成長への転換点にしたい」との考えを示した。

◎再成長に向けた施策の概略 5月発表予定の中期経営計画で示す

再成長に向けた施策の概略は今年5月発表の23年度から5カ年の中期経営計画で示す予定だが、現時点では、▽前立腺がん治療薬・オルゴビクス、▽子宮筋腫及び子宮内膜症治療薬・マイフェンブリー、▽過活動膀胱治療薬・ジェムテサ――の3製品のさらなる成長を図り、「北米事業をより効果的かつ効率的に運営していく必要がある」とした。

さらに国内の2型糖尿病薬・ツイミーグの成長、中国・アジアでのメロペン事業やラツーダの拡大に加え、▽大塚製薬と共同開発中のulotarontは米国で24年度に統合失調症の承認取得、▽iPS細胞由来製品は、日本で24年度にパーキンソン病の承認取得、米国で23年に治験開始――に期待を寄せ、「日本、北米、中国・アジアの当社グループの力を合わせ一丸となることで、持続的な成長を達成できる明るい未来が切り開かれると信じている」と述べた。

また、野村社長は、「企業は社会課題を事業の中に取り込む必要がある」とし、「当社が解決すべき社会課題は、wellbeing が可能な社会を実現することであると捉えている」との認識を示した。そして社員に対して、「従業員1人ひとりがこのような考えをもって、研究開発、製造販売にあたることが必要」だとし、「23年度は多くの課題があるが、臆することなく挑戦し、周到な計画を練り、『必ずうまくいく』というような楽観的な態度と粘り強い意思をもって取り組んでもらいたい」と呼びかけた。

◎大塚HD・樋口社長兼CEO 「第3次中計のゴールに向けて確実に取り組んでいく」

大塚ホールディングスの樋口達夫社長兼CEOは、23年が現中期経営計画の最終年になるとした上で、「これまで『独自のトータルヘルスケア企業として世界に躍進する~成長の5年間~』との位置づけのもと、医療関連事業とニュートラシューティカルズ関連事業を主軸とし、既存事業価値の最大化と新たな価値創造を目指し、事業活動を推進してきた」と振り返った。

中計期間中に新型コロナのパンデミックが起こり、ロシアによるウクライナ侵攻など深刻化する地政学的リスクとの予期せぬ環境変化もあったが、「人々の健康意識のさらなる高まりと願いに応えるべく、イノベーションを伴うユニークかつ多様な事業の集合体として、第3次中計のゴールに向けて確実に取り組んでいく」と改めて決意を語った。

◎協和キリン・宮本社長 多様な個性が輝くチームの力を発揮することで会社を前進させる

協和キリンの宮本昌志社長は、「製薬業界を取り巻く環境は益々複雑になり、従来に比べその変化の度合いも大きく、スピードも速くなっている」との現状認識を示した。同社は2030年ビジョンとして、「病気と向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の継続的な創出」を掲げている。宮本社長は、同ビジョンの実現は容易ではなく、高い壁を乗り越える挑戦の連続になると見通した上で、「私たちは、イノベーションに情熱を注ぎ、多様な個性が輝くチームの力を発揮することで会社を前進させていかなければならない。23年も世界中の協和キリングループの仲間たちと挑戦を続けていく」と抱負を述べた。

◎ヒト型抗OX40モノクローナル抗体・rocatinlimab 「複数の第3相試験を一気に展開」

23年は、「持続的な成長のカギであるグローバル候補品の開発を加速させる」と表明。アトピー性皮膚炎をターゲットとするヒト型抗OX40モノクローナル抗体・rocatinlimabは、「その価値を最大化すべく、複数の第3相試験を一気に展開する予定」だとした。独自技術を応用したバイスペシフィック抗体などの初期開発品についても中長期的な成長基盤としてステージアップを目指すほか、新たなパイプラインの獲得のための活動強化は、「経営の最重要課題として取り組む」とした。安定供給体制の強化にも努め、バイオ医薬品製造拠点の高崎工場では新品質棟の稼働や、バイオ医薬原薬製造棟や倉庫棟の建設などを進める考えを示した。

◎日本新薬・中井社長 新たなラーニングゾーンに身を置いてチャレンジを続けよう

日本新薬の中井亨社長は、全社員向けの新年挨拶の中で、「変化の著しい社会においては、先行者が歩んだ道を追いかけるだけでなく、この先に何があるのかを想像して新たな課題を創出し、その解決に向けて進むべき方向を自ら考えて前進していくことが必要になる」と話した。

前年の新年挨拶では、コンフォートゾーン(居心地のいい場所)から一歩を踏み出して、失敗を恐れずにチャレンジすることを求めた。23年は、「自身のコンフォートゾーンを広げながら、新たなラーニングゾーンに身を置くことでチャレンジを続け、成長のスパイラルを回していくことを期待する」と述べ、持続成長のために未知の領域で学び、チャレンジし続けることを求めた。そして、「『患者さんとそのご家族のために何をすべきなのか』ということを常に意識して、各自の業務に取り組んでもらいたい」と呼びかけた。

◎帝人ファーマ・渡辺社長 「筋肉質な組織への構造改革を行う」

帝人ファーマの渡辺一郎社長は、ニューノーマルの行動様式やリモートワークなどの新たなスタイルが定着し、ウィズコロナの中で日常を取り戻しつつある一方で、▽最主力品の高尿酸血症治療薬・フェブリクに22年6月に後発品が参入、▽コロナ禍に伴う市場環境の変化、▽営業活動における面談制限の継続――などのネガティブインパクトに苛まれ、「まだまだ気を抜けない状況」だとした。

このような足元の経営環境を念頭に、23年は「収益基盤の確保」と「生産性の向上」をテーマに取り組むと表明した。収益基盤の確保では、強みとする医薬事業と在宅医療事業の機能統合により、患者が居宅で安心して医療を受けることを可能とする事業基盤において、新たな医薬品導入を進める考え。この医薬品導入のためにも、既存の医薬品や医療機器の「収益極大化」を図るとした。

生産性の向上では、「変化に迅速に対応し効果的な事業活動を可能とする筋肉質な組織への構造改革を行っていく」とし、生産性を上げるための優先順位付けと業務改革、選択と集中の「思い切った見直しを断行する」と決意を語った。
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