ファーマ・インサイト アクションプランとKPI設定

公開日時 2009/09/29 04:00
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 今回も当然と思われる内容かもしれませんが、これまで取り上げて来たトピック同様、改善の余地が多い場面かと思います。参考にしていただきたいポイントを取り上げながら、解説を進めていきます。

 環境分析を通して状況を把握し、その内容をSWOTにまとめてキー・イシューズを抽出しました。そのキー・イシューズに対応した戦略をセグメンテーションの基礎から構築し、ポジショニング・ステートメントで方針を明確にしました。さて、いよいよ戦略の実行段階です。やりたいことのアイデアは沢山あるでしょう。このアイデアを整理し、手を打つタイミングと予算配分を決めるために、まずはアクションプランを策定します。

 

アクションプラン

 一般消費財では、細かいアクションプランは4Pのそれぞれの要素上に構成されることが多いと思います。4Pとは、下記の4つの事柄を指します。

Product:製品そのもの
Price:価格設定(卸及び小売店での割引も含む)
Place:どのルート(チャネル)を通して製品を流すか
Promotion:広告宣伝

 製薬業界のマーケターは、一般消費財に比べると様々な規制を受けながら仕事をしています。薬物組成と薬価は既に決まっています。チャネルについても、OTCスイッチ等を行わない限り、せいぜいHP/GPのどちらに比重を置くかの比率を決めることが出来る位でしょう。となると、マーケターが最大限裁量を持てるオプションは、残るPromotionのみ。このような状況下で長く過ごしてきた結果、「成功する」ための公式は{ディテールの訪問数×メッセージ=売上}であるという認識が強くなり、率直に言って、非常に狭い幅のマーケティング活動だという印象です。

 かつて製薬業界全体の景気が良かった時代には、上記の公式だけでも十分だったでしょう。しかしどの企業も予算取りが厳しくなった現在、ディテール数だけに頼っていては、期待値以上の売上成長を見込める製品はほとんどありません。この状況を打ち破るため、今まであまり重視してこなかった4Pを基準にしたアクションプランを考えてみてはいかがでしょうか。(なおPrice(薬価)についてはここでは触れません。)

 Productは製薬企業にとっての命です。コンビニのように頻繁に商品の味付けを変えたり、パッケージを変えたりすることはできません。しかし、「製品=物理的な薬物組成」という視点をちょっとだけ変えてみると、また新たなアイデアが実現可能なように思います。製品とともに提供する周辺情報やエビデンス、医療関係者の教育プログラム、患者コンプライアンスのサポートなども、製品のうちに含まれると考えるのです。これらは製品そのものを強化して信頼を得るための武器であり、今日すぐに処方に繋がるわけではありませんが、長期的な競争優位性を確保するためには何よりも大切です。もし予算の関係で臨床試験をやめざるを得ないなら、「製品を強化するプログラム」を少しでもやり続けることが重要です。

 次にPlaceです。薬剤はもちろんドクター経由で処方されますが、ドクター以外のステークホルダーのことも忘れないようにしてください。「3分診療」がやむをえない状況では、患者とのコミュニケーションの時間を取りたくても充分取れないドクターが多いと思います。そんな中で、診察の内容に納得し、処方された薬を毎日きちんと服用する患者の割合が減ってきています。脱落率が改善されれば、長期的な売上は当然増加します。Placeの枠組みの中で非常に重要な役割を持つ看護師や薬剤師が、どのように行動してくれたら、患者さんの服薬意欲が向上するでしょうか? そのために、どう働きかけたらよいのかという、非常にクリエイティブなアクションプランが求められるのです。

 Promotionについては、従来から色々なものがありますが、近年また新しいオプションが沢山出てきています。e-ディテールやテレビCMでの疾患認識啓蒙、ノートPC上でのインタラクティブ・ディテーリング・コンテンツ等々、各社が試行錯誤しながら挑戦しています。ここで各ツールの評価は致しませんが、ぜひ勇気をもってトライしてほしいところです。製薬業界は、他社の先例や成功事例がない限り怖くて社内で提案できない…というスタンスが他業界よりも強いように感じます。しかし適切な時にリスクをとらなければ、競争優位性は永久に確保できません。

 「目新しいことに手を出して、もしも派手に転んでしまったら?」と誰しも自分のキャリアが心配なのは当然です。派手な転倒を避けるポイントは、適切な測定基準を設け、進捗状況をきちんと検証すること。そのために、KPI(Key Performance Indicators=重要業績達成指標)が必要となってきます。

 

KPIとは?

 アクションプランの中に、必ず盛り込んでおかなくてはならない大事なこと。それは「実行の効果を、いつ、どのように測るか」という項目と、その測定の指標となる数値です。

 「実行の効果?もちろん売上金額で測るしかないだろう」と考える方は多いと思います。売上の数字は企業で働く人間にとって常に最終ゴールの目標ですから、堂々とそう言ってしかるべきです。しかし、最終ゴールに据えた売上の数値だけに注目していたのでは、せっかくここまで緻密に練り上げてきた戦略を成功に導くには、少々不十分かもしれません。マーケティングは「明日の売上」を考える仕事といいましたが、その「明日の売上」が上がるタイミングは、各アクションプログラムによって違います。1ヵ月後の売上に繋がるものもあれば、6ヶ月後や3年後の場合もあるかもしれません。もし、半年後にシェア5%アップを目標に掲げたアクションを実行しているとしたら、半年後の売上が上がるまで効果測定を待っていては遅すぎるのです。あるアクションを数か月頑張り続け、動きを重ねても、最終的に期待通りの売上に結びつかない可能性は十分ありえます。そういった悔しい思いを未然に防ぐためには、アクションの節目節目で自分なりの基準(例えば上市の成功要因として、認知度や使用意向などの基盤作りがどこまで出来たか)を設定し、打った手が期待通りの成果を上げているかを中間測定する必要があります。この路線で進んでOKか否かを、次の手を打つ前に知りたいわけです。測定の結果、もし上手く行っていないとわかったら、早めに軌道修正をして新たな手を考えなくてはなりません。この中間測定のための数値基準がKPIです。

 

Activity-based KPI 

 私はKPIには2種類あると考えています。一つはActivity-based(活動に基づいた)KPI。もう一つはResults-based(結果に基づいた)KPIです。「活動」を測るActivity-based KPIは、自己発信型であり、基本的に自分側で完結する測定値です。一般的なB2C業界でいえば、ティッシュを何個配ったか、ダイレクトメールを何枚送信したか、といった類のことでしょう。

 製薬業界でいえば、営業現場で日々行われているActivityはほとんどそのまま当てはまるかもしれません。説明会やイベントの回数、それらに何人のドクターを呼んだか、などもKPIとなりますが、代表的なActivity-based KPIはなんと言ってもドクターへの訪問数です。おそらくどの営業所も、エリア毎・病院毎の訪問回数の指示が本部より回ってきていることでしょう。

 製品ごとのShare of Detail(SOD=医薬品メーカーMRの医療施設への訪問割合)は、毎週のように調査会社でまとめられています。皆さんはちょっと意外に思われるかもしれませんが、一般消費財では、業界全体の営業活動をここまできっちりと把握することはありえません。これは恵まれている反面、とにかくライバル製品より1つでもSODを多く・・・といったことに捉われてしまう恐れも大きくなります。結果、ライバル社同士でSODの増加を競うスパイラルに陥ってしまうのです。物量作戦が可能な超巨大企業ならば、こういったやり方で「勝つ」ことも可能でしょうが、そうでない企業にとっては効率も悪く、成果も上がりにくいと思われます。

 他にはテレビでDTC(Direct-to-consumer)の疾患啓蒙広告を流した場合のGRP(Gross Rating Points=延べ視聴率)などもありますが、これらのほとんどは、かけたコストの数字に置き換えることができるものです。視聴率はResultsではないの?と思われるかもしれませんが、そのCMが流れているとき、テレビの前の人が実際に見ていて、かつ内容を理解してくれたかどうかは誰にもわかりません。「見せた数=認知した数」ではないのです。正しくは延べオンエア率と呼ぶべきでしょう。いずれも計画通りに実行されたかどうかを測りやすい数値ではありますが、ともすれば自己満足に終わってしまう可能性も否定できません。

 

Results-based KPI

 それに対し、「結果」を測るResults-based KPIというのは、「自分以外の人間に対し、その活動がどのくらいの影響を与えたか」を数値によって求めるものです。自分以外の人間の反応を数値で測るのはなかなか難しいですし、Activity-basedに比べると測定基準も複雑に設定しなくてはなりませんが、Activityそのものの実行主体が営業の現場だとしたら、こちらはマーケター自身が主力となって実行すべき分野です。

 ちょっと脱線しますが、AIDMAという消費心理に関するマーケティング用語をご存知でしょうか。これは、アメリカのローランド・ホールが提唱した仮説で、消費者が実際に購入を決めるまでの心理的プロセスを、Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)としたものです(頭文字を取ってAIDMA、図1)。

 Results-based KPIは、顧客側の視点と絡まざるを得ない指標です。「誰の何が何%」という数値設定は比較的分かりやすいと思いますので、例えばこのAIDMAの流れに沿ってKPIを設置したと仮定します。
例えば、最初の「注意」レベルの達成において、「2ヶ月間にこの製品の認知度アップ率30%」というのがKPIであった場合、どの程度認知度が向上したかを具体的に知るには(=値を導き出すには)、何を行えばよいのでしょうか。リサーチ結果、HPのアクセスログ、キャンペーンの反応、寄せられた苦情など、KPIとして活用・分析されるのを待っているような情報が社内に放置されていませんか? いろいろな場面で、100%のデータで判断したい…と思ってしまうことがありますが、判断を下すのに何も100%のデータを集める必要はありません。戦略の的確な実行には、60~80%傾向がわかった段階で早めに手を打つことのほうがよほど重要です。

 「ドクターがこの薬を知っていると言ってくれた」、「説明会参加後のアンケートで処方してみたいと思うという答えが50件中35件あった」などのケースは、100%ではありませんが有力なKPIとなります。思ったような数字が上がってなければ、アクションプランの策定をやり直す必要があるわけです。
マーケターが戦略を策定し、営業現場にアクションプランが渡り、後は売り上げを達成したかチェックするだけ・・・では、戦略策定の労力の半分も報われないかもしれません。上記のように細かくKPIをフォローしていくことが、実は大変重要な仕事なのです。 また、思ったほど効果が上がっていなかった場合に “プラン B”をどうするかということについても少し考えておくべきでしょう。(このように、色々なケースを想定して事前にストーリーを組み立てておくことをシナリオプランニングと呼びます。)でも最初からプランBを発表してしまうと、「ひょっとしてプランAに自信がないのか」と思われるかもしれませんので、初めの段階では上司には内緒にしておく方が良いかもしれません。

 Results-based KPIを求めるためには、もちろんActivity-based KPI が設定された上で各Activityがきちんと行われていることが前提です。これまでの業界では、Promotionに関する指標もActivity- based KPIばかりに頼っていましたが、今後は特にResults-based KPIの重要性がますます高まっていくでしょう。Activityを行った「結果」から「何を読み取るか」をきちんと指標として定めることができるかどうか。ここが、マーケターの力量の見せ所になります。

 さて、これまではマーケター側の話が中心でしたが、最後に現場のマネージャーに向けた簡単なアドバイスをしたいと思います。Activity-Based KPIと売上高だけで、チームの目標管理をしていくのは大変難しいですね。この二つにはどうしてもタイムラグが生じますし、すぐに売上に繋がらなくても長期的に大切な仕事は現場にももちろん存在します。こういった場合、中間KPIを設定することで、パフォーマンスを管理しながらチームモチベーションを維持しやすくなります。そのような中間KPIを弊社では分かりやすく「マイルストーン」と呼んでいます。具体的なアクションプランの実行およびKPIの進捗モニタリングには、次のようなマイルストーン管理手法・プロセスが役に立つかと思います。

 

マイルストーンとしてのKPI

 マイルストーンとは、日本語に訳すと「一里塚」。その昔、旅人が道に迷わないように道標として1マイル毎に石が置かれていたことから、現在のビジネス用語では、一連の仕事の流れの中で、大きな節目(チェックポイント)のことを指すようになりました。達成したい目標に対してマイルストーンを設定し、やるべき仕事・得られるべき成果(=KPI)が順調に進んでいるかを節目ごとにモニタリングし、必要に応じて適宜プランの修正を行い、新たな計画を立て再び実施、という方法で仕事を進めてゆきます(図2)。

マイルストーンは、重要なKPIと期限とで構成され、キーとなるチェックポイントをクリアしたことを示すと同時に、トップマネージメントにとっては進捗状況を確認するスナップショットの役割を務めます。
以下に、マイルストーン管理のポイントを箇条書きでまとめました。

  • 事前に計画しておく
  • 明確に記述する
  • 実行の責任者を決める
  • 数が多すぎるのも不適切。全てが測定可能なわけではないので、あくまでキーとなるものだけをフォロー
  • マイルストーンに対する評価は「デジタル」であるべき。達成できたか?という問いに対し、YESか NOで答えられるものでなくてはならない。


なお、目標の達成には、もちろん人間的な側面も大きく関わってきます。チームメンバーに元気に活躍してもらうためには、マイルストーン達成の評価、期日と達成度合いへの事前警告などが、モチベーションの維持や、大切な気付きに繋がります。チーム・リーダーシップという観点からも、マイルストーン・マネジメントの重要性をしっかり理解していただければと思います。

 


 

ジェ フリー・シュナック(Jeffrey B. Schnack) 1967年米国生まれ。米国とヨーロッパの大学院で国際政治経済学修士およびMBAを取得。1990年来日。外資系コンサルティング会 社にて欧米企業のアジア戦略プロジェクトを実行。その後JR東日本初の海外子会社代表などを務める。スリーロック株式会社は2004年より、製薬企業を対 象に営業・マーケティング分野のコンサルティング及び能力開発プログラムを実施している。
スリーロックHP http://www.3rockconsulting.com 本人ブログ http://blog.3rockconsulting.com/

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