大塚ホールディングスの井上眞代表取締役社長兼CEOは７月16日の事業戦略説明会（オンライン開催）で、自己免疫領域の医療関連事業について、「企業価値向上サイクルを継続的に回すための中長期的視点に基づく戦略的投資と位置付けている」と強調した。すでにスペシャリティ自己免疫領域には８つの開発品があり、井上社長兼CEOは、「2030年頃に複数のPOC取得を見込んでおり、重要な経営判断の節目になる」と述べ、「第5期中期経営計画」（FY 2029－33年）以降の業績貢献と持続的成長の実現に強い期待感を表明した。

◎自己免疫領域を次世代のコアに　企業買収や戦略的アライアンス通じて事業基盤拡大

「大塚が注力する社会課題の一つである女性の健康並びにアンメットニーズを踏まえて、自己免疫領域を次世代のコア領域に位置付け、創薬研究の推進、企業買収ならびに戦略的アライアンスを通じて事業基盤の拡大に取り組んでいる」－。井上社長CEOは指摘する。続けて、「ジンアークで培ったスペシャリティ事業のノウハウを基盤として、戦略的に自己免疫領域へ事業展開を進めてきた」と強調した。

同社は2018年に、腎領域のパイプライン強化やユニークな抗体創薬基盤の獲得を目的に、米・ビステラ社（Visterra Inc.）を買収。さらに2024年には米・ジュナナ社（Jnana Therapeutics Inc）を買収し、創薬困難な標的に対する低分子創薬技術に加え、自己免疫領域の低分子パイプラインを補強し、作用機序並びにモダリティの観点からも、多様性のあるポートフォリオに進化させている。

◎直近1か月間で２つの新たな抗体医薬開発品を獲得　「HBM7020」と「CAN10」

さらに、今年6月23日には、中国のハーバー・バイオメッド社が開発中の二重特異性T細胞エンゲージャー「HBM7020」の独占的ライセンス契約を締結。7月15日には、スウェーデン・Cantargia社のIL-1RAP抗体「CAN10」に関する資産譲渡契約を締結するなど、矢継ぎ早に新たな抗体医薬品の獲得に動いている。井上社長兼CEOは、「創薬基盤を起点に、アライアンスを組み合わせながら、自己免疫領域のパイプラインを充実させ、次世代のコア領域の確立を目指してイノベーションを推進していく」と強い意思と固い決意を表明した。

◎「持続的成長の実現に向けたロードマップ」　2030年にPOC取得　2035年前後で承認

この日の事業説明会に示した「持続的成長の実現に向けたロードマップ」には、同社が“ネクスト８”と位置付けるシベプレンリマブを含むビステラ社の４つの開発品と、ジュナナ社の２つの開発品、そして新たに獲得した２つの抗体医薬開発品（HBM7020、CAN10A）の合計８つの開発品がリストアップされた。計画では、８つの開発品は「第4次中計」（FY2024-28）の期間中に「IND」を行い、次期「第5期中計」（FY2029-33）で一部承認および臨床POC取得（2030年）を見込む。さらに「第6次中計」（FY2034－）で複数の承認（2035年前後）を予定するとした。

井上社長兼CEOは、「シベプレンリマブを含む８つの開発品を保有しており、将来の成長を支える有望なパイプラインを着実に構築していく。第5次中計以降、これらの複数の開発品が業績に貢献することを期待している」と強調した。

◎渡邊事業開発部長　複数適応症で開発可能なLCMポテンシャルの高いものに絞込み

同社執行役員の渡邊武事業開発部長は、自己免疫領域の開発状況を説明し、「自己免疫領域の中でも患者さんが比較的少なく、医薬品が十分貢献できてない領域に限定して開発している」と強調。「いずれも複数適応症で開発可能なLCMポテンシャルが高いものに絞ってパイプライン化した」と明かした。

また、「昨今、米国と米国以外の国の薬価に注目した議論もあるが、スペシャリティ自己免疫領域に関しては、米国だけでなく、日本、欧州も十分な薬価帯が見込めると考えている」と強調した。さらに、「研究開発の進捗や投資管理も一つの大きな投資で大きな適応を狙うより、一つ一つの適応をしっかり積み重ねることで、研究開発投資のタイミングや得られる成果のバランスを経営側が適宜意思決定していけるようなパイプラインにもなっている」と説明した。