がん学会 世界初の第3世代単純ヘルペスウイルス1型、臨床研究実施へ
公開日時 2006/10/01 23:00
東京大学医学部脳神経外科の藤堂具紀氏は、日本癌(がん)学会学術総会で講
演し、がん治療薬として世界初の第3世代の単純ヘルペスウイルス1型(HSV-
1)の臨床研究の準備を進めていることを明らかにした。初期放射線治療後の
進行または再発した膠芽腫の患者21例で、安全性の確認と抗腫瘍効果の評価を
行う計画だ。文部科学省がんトランスレーショナル・リサーチ事業で実施され
る。
ウイルス療法は、増殖型ウイルスを使ったがん治療法で、ウイルスゲノムの操
作により、ウイルス複製にがん特異性を持たせたもの。感染したがん細胞はウ
イルス直接的な殺細胞作用により破壊される。正常組織を傷害しないので、副
作用も少ないのが特徴。
なかでもHSV-1は、強力な殺細胞作用を持つ。抗ウイルス薬があるため、途中
で中断することも可能だ。ウイルスゲノムが大きいため複数の外来遺伝子の挿
入が可能で、ウイルス自体の免疫原性が比較的低いほか、宿主免疫が抗腫瘍効
果に有利に働くという。
第3世代のHSV-1は、米国での臨床試験で安全性が確認された第2世代のHSV-1
(G207)の改良型で、抗腫瘍効果が格段に改善され、かつ安全性が維持されて
実用性が高いという。
米国で98年から2000年までに21例の再発悪性グリオーマ(神経膠腫)患者を対
象に実施されたフェーズ1では、G207に起因するグレード3以上の有害事象は
報告されず、脳腫瘍投与での安全性が確認されている。余命6ヵ月とされる再
発悪性グリオーマ患者で、5年以上生存した患者2例のほか、MRIで腫瘍の縮
小効果が確認された患者が8人おり、藤堂氏によると「あらゆる種類の腫瘍細
胞に対し、腫瘍選択的なウイルスの増殖と殺細胞作用を示す」。