大事な家族
公開日時 2010/06/01 04:02
大事な面接の日、Tさんは突然キャンセルの連絡をしてきた。その理由は…。
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「こ、こ、子供が生まれそうなんです!」
経理のTさん(27歳)は切羽詰まった声で電話をかけてきた。
「今日のA社の面接はどうしてもいけません。申し訳ありません」
Tさんはそのまますぐに電話を切ってしまったのだが、よくよく考えてみるとTさんは、つい2ヶ月前の面談で自分のことを独身と言っていたはず…。
2ヶ月のあいだに運命の相手に巡りあい、スピード婚したということはありえるだろうが、子供とは?それとも、自分の子ではなく兄弟の子か何かだろうか?
確認のために我々は携帯を鳴らし続けたが、結局その日Tさんが電話に出ることはなかった。
翌日、メールがきたところで連絡をしてみると、Tさんは晴れ晴れとした様子だった。
「無事、出産が終わりました。赤ちゃん子犬が3匹、みんな可愛いですよ」
なるほど。愛犬の出産だったか。しかし、そのために内定間近の企業の最終面接を延期するとは…。しかも、Tさんはご丁寧に子犬の写真付きメールで、そのことをA社に連絡していた。
「よかったですね。けれど、ペットの出産で面接をキャンセルしたというのは、良い印象を持たれないかもしれませんよ。先方は忙しい社長のスケジュールを空けて待っていてくれたわけですから」
だが、Tさんは譲らなかった。
「そうかもしれません。でも、ペットとはいえ、私にとっては家族と同じ。出産の時に一緒にいてやりたいと思うのは当然なんです」
ペットに対する感覚は個人差が大きいので、一概にTさんが非常識と決めつけることは出来ないかもしれない。ただ、回復基調にあるとはいえ、まだまだ転職市場は企業側の方が有利な状態。ペットの出産を理由に社長面接を延期するとなると、相手企業への敬意、仕事への熱意を疑われても文句は言えないだろう。
実際、A社では最終面接は再セッティングされたものの、10分ほどの短い質疑だけでTさんは「残念ながら…」という話になってしまったのだった。
だが、既に会社を退職していたTさん、これで引き下がるわけにはいかない。文字通り愛犬のミルク代を稼がなくてはならないのだ。精力的な転職活動は続き、この件から約1ヶ月後、化学製品メーカーB社で内定をもらうことになった。
A社ほど条件はよくなかったが、勤務先は自宅から電車の乗り換えなしにいけるところにあり、通勤が楽になるとTさんはこの内定を大いに喜んでいた。
きっと、愛犬の散歩をする機会も増えるのだろうなと我々は苦笑いながらにTさんを祝福していた。しかし、入社直前、別件でB社を訪問した我々に、管理本部長はこんな話をしてきた。
「もうすぐ入社になるT君だけど、なかなか感心な若者だね。大事な家族の面倒を見なければならないので、できるだけ地元の会社がいいって真剣に言ってるのを聞いて、ちょっと驚いたよ。普通、男性は35歳くらいにならないと、親の心配なんかしはじめないでしょう?まだ27歳じゃあ遊びたい盛りだもんね。真面目なんだなあ」
さすがに我々も、本部長に「多分、それは子犬のことです」とは言い出せなかった。Tさんは嘘を言ったわけではないが、ことの真相が知れたら本部長はどんな顔をするだろうか…。
愛犬・愛猫も自分の家族という人は多いが、周囲にあらぬ誤解を与えないよう注意する必要はあるだろう。特に転職という見ず知らず同士のコミュニケーションのなかでは、犬猫はあくまでも「ペット」として考えた方が…と思うのは我々だけだろうか。

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