慶應大学・鈴木教授 脳梗塞再発予防に向け求められる多面的な治療
公開日時 2010/06/03 15:00
慶應義塾大学医学部神経内科教授
鈴木則宏氏に聞く
急性期脳梗塞患者の急性期データは集積されてきた一方で、退院後の追跡はなされておらず、これまで患者さんの予後についてははっきり分かっていませんでした。今回の研究により初めて現在の日本の脳梗塞患者における2次予防の実態が明らかになった意義は大きいと感じています。
患者背景をみると、ラクナ梗塞や分類不能例が多いのですが、理由は病型分類に用いたTOAST分類を用いたためと考えています。アテローム血栓性脳梗塞と診断するには、明確な狭窄を示すことが必要な厳しい基準と言えます。
治療薬の選択を医師の裁量とした結果、アスピリン投与例が予想よりも少なかったことには驚きました。登録時のデータをみると、アスピリン単独(29.1%)、アスピリン+他の抗血小板薬併用(12.9%)を合わせても、4割の患者さんにしかアスピリンは投与されていません。ただ、専門医の先生方が対象のため、プライマリケア医の先生方ではもう少しアスピリンの使用が多いかもしれませんね。
◎日本人 脳梗塞再発リスクの高さを再確認
12±3カ月間追跡した結果、脳梗塞の再発率は全体で4.7%でした。冠動脈イベントの発症率に比べても高い値で、日本人の脳梗塞再発リスクの高さが再確認されました。
脳梗塞の再発により、患者のADL(日常生活動作)は大きく低下するとされています。患者さんも医師も、脳梗塞発症後は後遺症を克服するためにリハビリテーションに注意が集中してしまいがちですが、再発を未然に防ぐための継続的な治療の重要性を示しています。
“4.7%”という脳梗塞再発率は、久山研究とREACH Registryのちょうど中間値で、久山研究が行われた1960~70年代に比べ、再発リスクが低下してきました。個人的には、予想よりも低い値でしたね。
リスクが低下した要因の1つに、降圧療法や脂質低下療法により、高血圧や脂質異常症のコントロールが進んできたことが挙げられると思います。脳梗塞は、複数の危険因子を持つ疾患ですから、総合的な治療が必要です。ただ、危険因子の1つである糖尿病は、十分なコントロールがされているとは言えず、依然として脳梗塞の危険因子の1つです。今後、克服しなければならない課題と言えるのではないでしょうか。
◎全身の動脈硬化に対して有効な抗血小板療法
もう1つの要因として、抗血小板薬の普及があると考えています。サブ解析では、脳梗塞に加え、虚血性心疾患や末梢動脈疾患など複数合併していると、脳梗塞の再発リスクが上昇することが示されました。
脳梗塞は、脳血管だけで起きているのではなく、全身の動脈硬化の一環として起きています。ですから、全身に作用する抗血小板療法は重要な治療戦略となるのではないでしょうか。
抗血小板薬の選択に当たっては、副作用など安全性の観点と、抗血栓作用の延長にある出血の頻度に留意することが重要です。アスピリンは、血圧コントロールが比較的不良な患者さんでは、出血リスクが上昇することが大規模臨床試験で示されています。このようなことも考慮し、患者さん個人に合わせた抗血小板薬の選択が必要だと考えています。