日本人の2型糖尿病患者を対象にしたDPP-4阻害薬のリナグリプチンのフェーズ3で、リナグリプチンがαグルコシダーゼ阻害剤(α-GI)のボグリボースを上回る有効性を示すことが分かった。リナグリプチンは、1日1回経口投与の薬剤で、腎臓からの排泄が5%と少ないことが特徴の薬剤。6月27日に、第70回米国糖尿病学会議(ADA)のポスター発表で順天堂大医学部付属順天堂医院糖尿病・内分泌内科の河盛隆造特任教授らが報告した。(6月27日 米国・オーランド発 望月英梨)
◎日本人によるα‐GI・ボグリボースとの比較試験
今学会で発表されたリナグリプチンのフェーズ3データは、▽単独投与▽メトホルミンへの追加投与▽メトホルミン+SU薬への追加投与▽ピオグリタゾンとの併用――が行われている。いずれも、日本を含む国際共同試験として実施されている中で、日本人のみを対象とした試験も実施された。
日本人を対象とした試験は2つのフェーズから成り立つ。プラセボ群とリナグリプチン5mg、10mgの効果を比較した“プラセボ対照”の試験(12週間)とその後26週間投与を継続し、α‐GIのボグリボースと治療効果と安全性を直接比較した試験だ。中でも、現在日本国内で汎用されるボグリボースとの直接比較試験の結果は注目されるところだ。
ボグリボースとの比較試験は、十分な血糖コントロールが得られていない日本人2型糖尿病患者を対象に、リナグリプチン単剤とボグリボース単剤投与の有効性、安全性、忍容性を比較検討することを目的に実施された。日本人2型糖尿病患者で、HbA1cは前治療歴がない患者で7.0~10.0%、前治療歴がある患者では7.0~9.0%を対象とした。
4週間のWashout期間後に①リナグリプチン5mg1日1回投与群159人②リナグリプチン10mg1日1回投与群160人③ボグリボース0.2mg1日3回投与群162人――の3群に分け、治療効果を比較した。主要評価項目は、投与開始26週時点でのHbA1cの変化率。追跡期間は26週間。
その結果、投与開始26週間後のHbA1c平均変化率は、ボグリボース投与群で-0.10%、リナグリプチン5mg群で-0.44%、10mg群で-0.48%だった。
HbA1c値の補正後にボグリボース群との差をみると、リナグリプチン5mg群で-0.32%(P値=0.0003)、10mg群で-0.39%(P値<0.0001)で、いずれもリナグリプチンが有意にHbA1cを降下させていることが分かった。
一方、安全性については、1つ以上の有害事象が報告されたのが、ボグリボース群で71.6%だったのに対し、リナグリプチン5mg群で72.3%、10mg群では77.5%。このうち、薬剤との関連性があると判断されたのは、ボグリボース群で18.5%、リナグリプチン5mg群で11.3%、10mg群では10.6%で、大きな差は見られなかった。
皮膚および皮下組織の障害がリナグリプチン5mg群で13.8%、10mg群で8.1%とボグリボース群の4.3%より多く報告された。ただし、薬剤との因果関係があると判断されたのは、リナグリプチン5mg群で1.3%(2例)、10mg群で0例(0%)、ボグリボース群で1.2%(2例)だった。
一方で、胃腸障害はボグリボース群で14.2%、リナグリプチン5mg群で8.2%、10mg群で8.1%と、ボグリボース群で多く報告された。
低血糖は、リナグリプチン投与群ではみられず、ボグリボース群で0.6%(1人)にみられたにとどまった。
◎「リナグリプチン5mgは日本人に最適な用量」河盛氏
これらの結果を踏まえ、河盛氏らは「リナグリプチンの単独投与は、日本人においてHbA1cの改善効果と忍容性において、ボグリボースに比べて高い有効性を示した」とした上で、「リナグリプチン5mgは、治療目標を達成する上で、日本人にとっても白人にとっても最適な用量」としている。
なお、同剤の開発を進めるベーリンガーインゲルハイムは、1用量での開発を進めていることを明らかにしている。他のDPP-4阻害剤は複数の用量があるが、1用量にすることで、用量調節の手間がかからず、利便性が高いという。特に、腎障害のステージが進行しても、用量調節が必要ないことは同剤の利点とみられている。