ツカミが大切
公開日時 2010/09/07 04:00
お笑い芸人を目指していたというMさんは、職務経験のなさに苦戦を強いられるのだが…。
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最近のお笑い芸人をみていると、40歳近くまで下積みをしていたという人が珍しくない。無名時代の貧乏生活・バイトに明け暮れた苦労話は、売れた後だからおもしろおかしく聞けるが、当時はさぞ大変だったに違いない。
我々のところに来た時、Mさん(28歳)は、笑顔を心がけながらも、傷心を隠しきれなかったようで、ときおり言葉に詰まり、唇を真一文字に結んでいた。
「お笑い芸人目指していたんですが、大学時代からコンビ組んでいた相方が…、故郷に帰ってしまって…。ここらが潮時なのかもしれないと思って、就職活動をすることにしました」
Mさんはここ1年半、相方と同居してアルバイト生活を送ってきたが、過去に2年間ほど正社員・契約社員として働いた時期があり、まったくの社会人未経験ではなかった。有名私大の出身で、頭の回転も速く、話した印象もなかなか良かったのだが、ただ、そうはいってもこのご時世である。Mさんの転職は簡単には進まなかった。
まず、書類選考で、ほとんどの企業に嫌われてしまっていた。職務経験が少なく、直近、1年以上がブランク期間である。また、お笑い芸人を目指していたという経歴が、「軽薄」「安直」と受け取られてしまうこともあった。
ただ、感心したことに、いったん面接になれば、Mさんはほとんどの相手に自分を印象づけることに成功していた。「お笑いで一番大切なのは『ツカミ』。」と、言う彼は、どんな相手でも、取りあえず1度は笑わせるだけのネタと技量を持っていたのだ。
もちろん、面白いだけで内定がとれるわけではないので、「面白いけれど…」となってしまうことも多々あったのだが、Mさんはクサることなく転職活動を続けていた。
思いがけない連絡があったのは、Mさんの応募が50社を越えようかという頃だった。我々とは長いつきあいの医療機器メーカーA社人事が「前に、元お笑い芸人の応募者がいたよね?」と、電話をしてきたのだ。
「はい。たしかにいましたが…」
「彼、今どうしているのかな?」
A社は、書類段階でMさんを不採用にした企業のひとつ。面接すらしていないのにと我々は不思議に思った。
「彼は一度、不採用になったはずですが、一体どういうことですか?」
「実は、先日営業向けの研修を行ったんだけど、講師が、以前は落語家を目指していたという変わった経歴の持ち主で、その研修がとても好評だったんだよね。それで、ひょっとするとうちの営業にはそういう人が向いているのかも知れないと…」
医療機器営業は忙しい医師を相手に、数分という短い時間でアピールをしなければならない。そのためには何より会話の「ツカミ」が大切なのだとか…。
まったく面識のない二人が、同じコトを言っている。これは可能性があるのでは、と感じた我々は、すぐにMさんの了解を得て、2度目の応募の手続きをとった。
A社はかなり人気企業で、待遇も恵まれている方だ。1度チャレンジ応募しているとはいえ、連戦連敗のMさんにとっては望外の会社といっていいだろう。
選考では、芸人時代のネタを1人用にアレンジして役員の前で披露するという、緊張を強いられる課題もあったが、Mさんはどうにかそれらをこなし、A社から内定を勝ち取ったのだった。
「かなり思い切った採用だけどね」
A社人事は、Mさんの内定がA社にとってもトライアルであることを隠さなかったが、本人は「社会人経験より、芸人目指して努力してきたことを見てもらえたのが嬉しかった。自分が一番頑張ってきたことだから。」と、大感激をしていた。
それから半年、A社人事によると、Mさんは未経験転職者としては驚くほどの活躍をみせているという。
「思った通り、彼は一瞬で相手に自分を印象づけることが出来るんだよ。これは才能だね。まだ知識がないので、独り立ちできているわけではないけれど、今後が楽しみだよ。」
面接だけでなく、仕事のツカミもしっかりやりとげたMさん、下積み時代の経験を笑い話にする日も、すぐ近くに来ているようだ。

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