急性期脳梗塞患者に対するARB・カンデサルタンを投与しても心血管イベントの発症抑制効果や機能改善などの効果はみられない――。「SCAST(Scandinavian Candesartan Acute Stroke Trial)」試験の結果から分かった。米国・ロサンゼルスで開かれている国際脳卒中学会(ISC)のプレナリーセッションで、デンマークのElse C Sandest氏が2月11日、報告した。
急性期脳梗塞患者の75%が140mmHg以上の高血圧を合併していると報告されている。高血圧は短期的・長期的な予後不良因子であることも示されてきた。
試験は、ARB・カンデサルタンを用いた注意深い降圧療法を行うことで、高血圧を合併する急性期脳梗塞患者に有用性があるか検討することを目的に実施されたランダム化二重盲検下比較試験。同剤の第3相臨床試験(P3)として実施された。
これまでに、動物実験や、急性期にカンデサルタンを投与することで、投与開始12カ月後の死亡率の低下が示された「ACCESS」試験では、急性期治療におけるARBの有用性が報告されている。一方で、これまで臨床上の指標となるような大規模臨床試験は行われていなかった。
対象は、18歳以上で、症状を発症してから30時間以内に治療を開始することが可能な血圧値≧140mmHg以上の急性期脳梗塞患者2029例。ARBを服用中の患者、禁忌患者、明らかな降圧療法の適応がある患者は除外した。
①カンデサルタン群(初期投与量の4mgから、投与開始3~7日の間に16mgに増量)1017例(6カ月後追跡例:1000例)②プラセボ群1012例(6カ月後追跡例:1004例)――の2群に分け、治療効果を比較した。追跡期間は医師の裁量に任せた。主要評価項目は、①投与開始6カ月以内の複合心血管イベント(心血管死+心筋梗塞+脳卒中)の発症率②脳梗塞の重症度を測るツールであるmodified Rankin Scale(mRS:0~6点で評価)での機能転帰。欧州9カ国146施設で実施された。
平均年齢はカンデサルタン群で70.8歳、プラセボ群で71歳。出血性脳卒中の患者はカンデサルタン群で144例、プラセボ群で130例含まれていた。
◎複合心血管イベント、機能転帰 いずれも有意差示せず
その結果、主要評価項目の発症率はカンデサルタン群で11.7%(120例)、プラセボ群で11.3%(111例)。COX-ハザードを用いて解析したところ、ハザード比は1.09で、両群間に有意差はみられなかった(95%CI:0.84~1.41、P値=0.52)。
機能転帰は、mRSスコアで6(死亡)となったのはカンデサルタン群で23例、プラセボ群で24例で差はみられないものの、「5(重度の障害)」や「4(中等度~重症度の障害)」などリスクの高い患者はカンデサルタン群で多い傾向がみられた。オッズ比は1.17で、有意差はみられなかった(95%CI:1.00~1.38、P値=0.048)。
なお、カンデサルタン群では、投与開始7日後の血圧値はカンデサルタン群で147/82mmHg、プラセボ群で152/84mmHgで、有意にカンデサルタン群で低下している(P値<0.0001)。Scandest氏は、「投与開始早期から降圧の効果を認め、投与開始2日目には血圧値が降下し、4日目には適度な降圧がみられた」としている。
そのほか、サブ解析では症状が発症してから6時間未満の患者ではカンデサルタン群で良好な傾向がみられるなど、発症から投与までの時間の影響もみられたが、有意差はみられなかった(P値=0.08)。
これまでの試験と併せて行ったメタ解析でも、カンデサルタン投与による複合心血管イベントの減少効果はみられなかった。
試験結果を報告したScandest氏は、「日常診療下での降圧療法を支持するデータはみられなかった」と結論付けた。その上で、“ENOS”“INTERACT2”などの試験が進行中であることを紹介し、これらの試験結果が明らかになることで「降圧療法による効果が得られるサブグループ患者がいるのか、異なるアプローチがあるのか明確になる」との見解を示した。
なお、同試験の結果は「THE LANCET」のOnline版に同日付で掲載された。