離職期間3年という不利な条件、そのなかで決して諦めずに再就職をはたしたKさん。そのエネルギーの源は…。

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「実家のある東京で仕事を探したいのです。よろしくお願いします」
かすれた声、落ちくぼんだ目、青白い顔…、転職相談にきたKさん（32歳）は、さとられないよう上手に化粧をほどこしていたが、明らかに憔悴してきっていた。

夫の転勤と出産をきっかけに仕事から離れて3年、主婦業をしていたKさんが再就職に迫られたのは、夫との不和が原因だった。
離婚を申し出たが、当初、夫とその家族からはねつけられ、協議は長く続くことになった。ひとりで子育てをしながらの離婚協議、体のバランスを崩したKさんは皮膚病を発症してしまった。幸い仕事をするに差し支えがあるようなものではなかったが、痒み・不快感は消えず、子育てを含め、寝られない夜が続いて、風邪をこじらせ、いつのまにか声もつぶれてしまったという。

「そんな状態で、東京まで出て来て面接をするのは大変ではありませんか？」
「通院してお薬ももらっていますし、大丈夫です」
「面接のあいだ、お子さんは？」
「夫も夫の家族も協力してはくれないので、連れてきます。半日くらいなら、実家にあずけておけますから…」
「分かりました、決して無理をしないように。体調が悪くては、面接もうまくいきませんからね」
「頑張りますので、よろしくお願いします」

Kさんの以前のキャリアは中小企業での経理職。7年というキャリアの中でかなり色々なことを任されていて、上司から高く評価されていた様子がうかがえた。ブランク3年は厳しいハンデだが、「夫の赴任先についていく為」「育児の為」という分かりやすい理由があることから、比較的企業の理解は得られやすかった。

しかし、懸念した通り、面接の評価が思わしくない。未だに続く離婚協議、病気、子育てを一手にしなければならない疲れの色が、どうしても出てしまうのだ。
「いい人そうだけど、溌剌（はつらつ）さが感じられないんだよね。うちの社風には合わないな」
そんなことを言う会社もひとつではなく、Kさんはなかなか良い縁に恵まれなかった。

しかし、度重なる不採用、遠方から子供を連れての面接、そうしたことにKさんはまったく挫ける様子を見せなかった。不満は一切言わず、ひとつひとつの面接に準備を怠らず、我々への連絡も実に丁寧なものだった。

「やはり、これから子供を育てていかなければならないという使命感なんだろうなあ。母は強いなあ」
我々は心の内で密かに、感心をしていたのだった。

そんなKさんにようやく吉報があった。メディカル系A社は、Kさんの置かれた状況をよく理解した上で、採用したいと連絡をくれたのだ。
「弊社の役員のひとりが、子供は成人していますが、やはりシングルマザーなんですよ。ですから、他の会社よりも理解はあるつもりですし、医療関係の事業をしている以上、病気を抱えた方にもやさしい企業でありたと思っているんです」
この温かい言葉を聞き、Kさんも感激。すぐに入社を決めたのだった。

「おめでとうございます。本当によく頑張られましたね」
我々の祝辞に、Kさんも嬉しそうだった。
「予想していたよりも、ずっと良い条件で就職できました。エージェントさんのお陰です。ありがとうございます」
「いいえ、とんでもない。今回の転職は、ひとえにKさんの頑張りの賜物です。やはりお子さんがいるということで、執念が違いましたね。母親が子供を思う気持ちはなんて強いんだろうって、我々も感動していたんですよ」

すると、Kさんは急に素っ頓狂な声を出した。
「子供を思う気持ち？」
「ええ、お子さんのことを思って、安定した仕事に就こうとしていたんでしょう？」
「まあ、そういう面もありますけど、子供の将来は、先のことすぎて、正直あまり考えていませんでした。とにかく、夫から離れたい一心で…」
「夫から離れたい？」
「ええ。よく言うじゃないですか。一緒の空気を吸っているのもイヤって。まさにそんな感じだったんですよねえ（笑）」

てっきり母親の愛情が垣間見えた美しい転職劇だと思っていたのだが…。まあ、世の中、現実はそんなものなのかもしれない。